現在は「レベル5」より2段階も低い「レベル3」を目指している
中国・上海で開催されている世界人工知能大会(WAIC)のオープニングで、テスラモーターズのイーロン・マスクCEOが「自動運転レベル5の実現に極めて近づいている、レベル5の基本的な機能を2020年中に完成させる」というメッセージを寄せたことが話題となっています。
通常、自動運転のレベル分けの基準はSAE(自動車技術会)が定めたものが採用され、簡単に言うと次のように整理できます。
レベル1:システムが加減速・操舵のいずれかを支援(例:AEBのみ、ACCのみ)
レベル2:システムが加減速・操舵の両方を支援(ACC+車線維持、運転手の監視は必要)
レベル3:システムがすべての運転操作を担当(運転手は瞬時に引き継げるように待機)
レベル4:特定の条件でシステムがすべての操作を担当(条件下では引き継ぎ不要)
レベル5:すべての場所でシステムが運転操作を担当(引き継ぎ不要)
※AEB:衝突被害軽減ブレーキ
※ACC:アダプティブ・クルーズ・コントロール
※現時点で市販車が実現しているのはレベル2
※一般的に自動運転と呼べるのはレベル3以上
つまりレベル4以上の自動運転というのは、人間は乗っているだけで何の操作もしなくていいクルマのこと。コンセプトカーはハンドルやブレーキがないことがありますが、それはレベル5(少なくともレベル4以上)を想定しているからです。ちなみに現在はレベル3実現に向けて各メーカーが開発を進めているところで、日本では2020年4月に道交法が改正されて、レベル3の自動運転が可能になったばかりです。
ちなみにレベル5の先に人が乗っていない状態の「無人運転」があります。レベル5の自動運転ができるのであれば無人運転も技術的には可能といえますが、無人になると最高速を制限するというルールが各国であったりするので、高速で無人の車両が移動するというSF映画の世界はさらなる法整備が必要でしょう。ちなみに日本では無人運転の公道実験は当面20km/hを上限とするというお達しが警察庁から出ています。
イーロン・マスクの発言の真意はどこにあるのか?
それはさておき、イーロン・マスクCEOが、自動運転レベル5の実現が近づいていると発言した真意はどのようなものでしょうか。
現時点で、テスラの車両に搭載されているシステムは人間による監視が必要なレベル2ですから、レベル5の実現といわれても眉唾な印象を受けます。
現時点では、各自動車メーカーは高速道路におけるレベル3の自動運転の実用化を目指しているのが現実。レベル3における運転手の役割は、監視からは解放されますが、自動運転機能がいつキャンセルされてもいいように待機しておく必要があるというもの。まだまだ完全自動運転には時間がかかりそうな技術レベルといえます。
テスラの現行モデルに装備されたオートパイロットも今はレベル2でしかなく、過去にはドライバーが監視を怠ったとされる事故も起きています。よほどのブレイクスルーがない限り、ソフトウエアのバージョンアップだけで技術的にレベル5を実現するというのは考えづらく、イーロン・マスクのメッセージは割り引いて受け取るべきでしょう。
自動車メーカーが「自動運転レベル5を実現する!」と主張していかない限り、法整備などがなかなか進まないという見方もありますが、こうした発言により株価が上がることで利益を得るのは一般的に創業者、つまりイーロン・マスク氏ですから、そうした部分も考慮する必要があるかもしれません。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
そして完全自動運転で事故を起こした際に発生する責任はメーカーなのか国なのか搭乗者(所有者)なのかをハッキリさせないとね。もちろん完全自動運転で搭乗者に責任を取らせるのは論外ですけどね。
メーカーが全ての責任を取る姿勢でない限りメーカーサイドの人間が軽々しく完全自動運転などと言ってはいけない。
まぁ、いつものハッタリでしょう。