2019年秋の東京モーターショーに出品されたホンダの中型4ドア・セダン「アコード」の新型が、2020年2月に国内で販売開始される。それにさきがけ、メディア向け事前発表会が千葉県木更津市にあるコンベンション施設「かずさアカデミアホール」で開かれた。
アコード出てから十余年、どころか44年。いまじゃ北米の大ベスト・セラー。売れた台数が5万台、じゃなかった、累計2000万台というホンダの大看板である。初代の登場は1976年。
2桁ナンバー物語 Vol.4 八王子33のディーノ246GT (後編)
【主要諸元(EX)】全長×全幅×全高:4900×1860×1450mm、ホイールベース2830mm、車両重量1560kg、乗車定員5名、エンジン1993cc直列4気筒DOHC(145ps/6200rpm、175Nm/3500rpm)+モーター(184ps/315Nm)、駆動方式FWD、タイヤサイズ235/45R18、価格-。数えて10代目となる節目のアコードの開発責任者、宮原哲也氏には、大いなる危機感があった。生産拠点のある北米では7代目、8代目、9代目となるにつれ、そして中国、タイでも8代目から9代目へと、購買層がどんどん高齢化していることだ。少子高齢化先進国の日本はもちろんである。
ホンダの市場調査によると、30~40代は、「アコードは80点以上で、ネガが見つからない、フツーによいクルマ」と、認識している。宮原さんいわく、それはつまり、「特徴がなくて、エモーショナルな魅力が不足している」ということだ。新型アコードはかくして、個性的な魅力が欲しい。自分のクルマは際立ってスタイリッシュなものがいい! という若い人たちの欲望に応えるべく構想された。
新型アコードのボディ形状は4ドア・セダンのみ。かつてあったクーペやステーションワゴンの設定はない。「どのアコードよりもカッコイイと感じてもらうアコードをつくることがみずからのミッション」と、宮原さんは決意。“世界基準の走り”を得るべく開発していた新世代プラットフォームを採用し、全体のコンセプトを「ABSOLUTE CONFIDENCE(絶対的な自信)」としたという。
“絶対的な自信”なんて、奥ゆかしき日本人(筆者のことですけど)には大仰に感じるけれど、アコードの主戦場は北米である。アメリカ人向けのことばと考えると、腑に落ちる。ハリウッド映画としよう。主人公は長年にわたって全米ナンバーワンのベスト・セラー・カーの次期型の開発責任者に任命される。そのベスト・セラーの売れ行きに陰りが見えている。ううううう。しかも外国ブランドで、大統領は人種差別主義者である。ううううう。負けるな主人公! アブソリュート・コンフィデンスだ。
詳細な販売日や価格は今後発表される。パワートレーンはハイブリッド仕様のみ。1980年代のアコードを思い出すかくして生まれたのが、「直感的にカッコイイと思われることにこだわった」という、このエクステリア・デザインなのだ。FWD(前輪駆動)にもかかわらず、ロング・ノーズで、セダンなのにクーペのようなファストバック。
先代と較べると、全長は45mm短く、全幅は10mm広くて、全高は15mm低い。ロー&ワイドなプロポーションのなかに居住空間を確保すべく、ホイールベースを55mmも延ばしている。ミド・サイズといってもトヨタ「クラウン」ぐらいのサイズがあるのは北米市場がメインだから、である。全幅は1860mmと、クラウンより60mm広い。
ブリヂストン社製のタイヤサイズは235/45R18。銘柄は「レグノ」。ボディ・サイドのキャラクター・ラインのエッジが立ちすぎているように筆者には思えるけれど、それはロサンジェルスにあるホンダのデザイン・スタジオで、クレイ(粘土)でつくっては潰して開発されたからだ。西海岸と日本とでは光がぜんぜん違う。
インテリアはコンサート・ホールをイメージしたという。ドアを開けたときの開放感、着座して、これから演目が始まるときの高揚感、演奏が終わったときの余韻を意識したという。ワイドで爽快な運転視界を得るべく、Aピラーを後方に約100mm移動して、その断面を20%細くした。いつの間にか競合のドイツ・プレミアム・セダン勢より高くなっていたヒップ・ポイントを25mm下げ、前席は人車一体空間を、後席には圧倒的な広さを生み出すべく、ホイールベースを延ばした。
ボディは全長×全幅×全高:4900×1860×1450mm。運転席の視野角が先代比10%広がっている以上の開放感があるそうで、筆者が座ってみた印象では、ダッシュボード全体が低められていて、1980年代のアコードをちょっと思い出した。もっとも、リトラクタブル・ヘッドライトの3代目とかはもっと低くて、対人衝突の法規がある現代ではとうてい不可能という。
ハイブリッドのみの設定2017年に発売された北米市場には1.5リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジン+CVT、2.0リッター直列4気筒ガソリンエンジン・ターボ+10速オートマチック、さらに6速MTがどちらにもある。くわえて、2.0リッター直列4気筒ガソリン・エンジン+2モーターのハイブリッドの設定がある。
もっとも、日本に導入されるのは先代同様ハイブリッドのみで、内装はレザー・シートがおごられた、最上級仕様となる。
日本仕様は2.0リッター直列4気筒ガソリン・エンジン+2モーターのハイブリッドのみ。ギア・セレクターは「NSX」や「レジェンド」とおなじスウィッチタイプ。日本にもガソリン・エンジンがほしいところだけれど、日本ではこのクラス、ハイブリッドがないことには始まらない。という認識はトヨタ「カムリ」がハイブリッドしかないことを見ても理解できる。
「i-MMD」と呼ばれるホンダの2モーター・ハイブリッドは、走行用と発電用、ふたつのモーターを持っていて、エンジンはもっぱら発電に励む。モーターより効率がいいとされる高速領域でのみ、直接前輪を駆動することもある、というシステムである。EV走行と、エンジンが発電するハイブリッド走行、そしてエンジン走行、3つのモードを賢く自動的に選択しながら走る。この基本は不変ながら、新型ではエンジン、モーターともにより効率の向上が図られている。IPU(電源回路制御装置)の容積を3分の2に小型化し、後席の下に納めたことで荷室はクラス1の広さを誇る。
インテリア・デザインはオーソドックス。レザーシートの表皮カラーは、ホワイトのほかブラックも選べる。フロントシートは電動調整式。大いに期待されるのは、新世代プラットフォームがもたらしたであろう「世界基準の走り」だ。先代より約15mm重心高が低くて、ロール慣性モーメントが7.2%、ヨー慣性モーメントが1.7%小さくなり、車両重量が50kg軽くなっている。「超高効率新骨格ボディー」は、高張力鋼板を効率よく配置、スポット溶接を増やし、ドアまわりを接着材でベターっと塗りつけることで高剛性化を図った。それにより、重量を5%削減しつつ、曲げ剛性を24%、ねじり剛性を32%アップしたという。
コンフォート、ノーマル、スポーツ、3つのモードを持つ、ショーワが供給するアダプティブ・ダンパー・システムにも要注目だ。
「ドライバーが、思い通りに動いてくれる、自動車の運転って、楽しいなと思っていただければ」と、開発エンジニアのひとりは語っている。
走行モードの状況は、メーターに表示される。メーターは大型のフルカラーインフォメーションディスプレイ付き。ステアリング・ホイールはオーディオ&操舵支援関係のスウィッチ付き。電動ガラスサンルーフ付き。国によってはオウナーの平均年齢28歳!新型10代目アコードは、北米市場では2017年に発売となっており、2018年の北米カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を受けている。2019年1~11月の販売台数は24万台を記録。近年の同クラスの販売台数第1位はカムリだけれど、それはレンタカー等のフリート・セールスによるもので、ユーザーが自分の財布で選ぶセダンの第1位はアコードだそうだ。
リアシートはセンターアームレスト付き。リアのドアウインドウは、サンシェード付き。スクエアな形状で使い勝手の良さそうなラゲッジルーム。リアシートのバックレストは可倒式。中国では2018年に投入されるや、フォルクスワーゲン「パサート」等のライバルを抑えて同クラスの販売台数第1位の座についている。2019年1~11月、20万台を記録し、北米に次ぐマーケットになっている。
なによりなのは、北米での購入者の平均年齢が10歳も下がったことだろう。映画だったら、主人公はガッツポーズ! 恋人とキッス&ハッピーエンド。中国においてはオウナーの平均年齢はなんと28歳だというからビックリ。日本でも内覧会がすでにおこなわれており、有望顧客とみられる40~60代のご夫婦が招かれて、その半数の方たちがハンコを押してお帰りになったという。
それにしても、初代アコードはフォルクスワーゲン「シロッコ」を参考にしてつくられた、というような昔話好き(筆者のことですけれど)にはぜんぜんピンと来ないカタチなんですけど、それも当然。ようするに新型10代目のターゲットの外にいるからだ。
事件は現場で起きている。読者諸兄よ、新型アコードに注目せよ!
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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アコードも5ナンバーに戻してワゴンやクーペも復活させるべき!