間もなく発売になる日産の新世代EV「アリア」。生産は日産の栃木工場で行われる。注目は、新しい生産ラインを導入したこと。その名も「ニッサン インテリジェント ファクトリー」。どんな工場なのか?
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日産は2021年10月8日、革新的な生産技術で次世代のクルマづくりを支え、カーボンニュートラルの実現に貢献する日産独自のクルマづくりコンセプト「ニッサン インテリジェント ファクトリー」を導入した栃木工場の生産ラインを報道陣に公開した。
栃木工場は栃木県河内郡上三川(かみのかわ)町の中心部に位置しており、田畑に囲まれ、緑の豊かな地域に立地。敷地面積は約293万平方メートル(約92万坪)で、東京ドーム約60個分の広大な敷地に、鋳造・車軸・車両工場を有する一貫生産工場と1周6.5kmの高速耐久テストコースを持っている。ここで約5200人が働いている。
その歴史は1968年に鋳造工場が稼働したことに始まり、69年にアクスルの機械加工・組み立てを開始。71年には組立工場が完成し、セドリック/グロリア230型を皮切りに、高級車やスポーツカーを生産。2001年に車両生産工場が閉鎖された旧プリンスの村山工場の系譜も受け継ぎ、スカイラインを生産している。
今回、ニッサン インテリジェント ファクトリーを導入したのは、第2組立工場と第2塗装工場。ルノー・日産アライアンスの新世代エンジニアリング アーキテクチャー「CMF」を採用するモデルを専門に生産し、21年10月8日の段階では、新型クロスオーバーBEV(電気自動車)のアリアの試作車が生産ラインを流れていた。今後、同プラットフォームを採用するガソリン車やe-POWER車が投入された場合、その生産にも対応するという。ちなみに、第1組立工場/第1塗装工場は既存のFR車を生産しており、スカイラインのほか、シーマ、フーガ、GT-R、インフィニティQ60(スカイラインのクーペ版)などを組み立てている。新型フェアレディZもここで生産されるはずである。
日産がニッサン インテリジェント ファクトリーを導入したのは、生産を取り巻く環境が大きく変わりつつあるためである。従来は高品質で高効率な生産工程や匠の技によって、高精度なクルマづくりが求められてきた。しかしながら昨今は、労働集約型の生産からの脱却や、高齢者社会や深刻な人手不足への対応、気候変動やコロナ禍に象徴されるパンデミックへの対応が喫緊の課題となっている。また、クルマの電動化や知能化、コネクテッド技術などによって、クルマの機能や構造が複雑になってきている。
こうした環境の変化に対応して、
(1) 電動化技術やコネクテッド技術を搭載した次世代のクルマへの対応
(2) 匠の技を伝承したロボットによる最高品質の量産化
(3) 人とロボットが共生する働きやすい職場
(4) ゼロエミッションの生産システム
以上の4つの柱でクルマづくりを革新していくのがニッサン インテリジェント ファクトリーなのである。
ニッサン インテリジェント ファクトリーが他の工場と比べて、どんな点が進んでいるのか、その一例を紹介したい。
■パワートレーン一括搭載システム <(1)次世代のクルマへの対応><(3)人とロボットが共生>
パワートレーンの搭載工程では、これまでエンジンやアクスルなどの重量物を載せたリフターを作業者が位置を合わせて組み付けを行っていた。腰を曲げたり、肩を上げるといった高負荷の作業で、1日に数百台がラインを流れると作業者の体の負担が大きくなってしまう。また、ガソリン車、電気自動車を1つのラインで流そうとすると、ガソリンタンクの搭載工程では電気自動車は手待ちになってしまい、混流生産時のロスが課題になっていた。
こうした課題を解決するためにパワートレーンの一括搭載システムを導入した。設備の企画構想から立ち上げまでに5年。設備の開発と合わせて車両の構造も変える必要があり、今回のアリアでは、車両の要件をすべて織り込むことによって実現した。従来は斜め方向にボルトを締め付ける作業があったが、自動締め付けは角度により失敗する可能性もあるので、アリアでは足まわりの部品すべてを真下からストレートに締め付けることができる構造に変えたという。
この設備の特徴の1つが「モジュラリティコンセプト」である。ルノーと日産アライアンスの共通アーキテクチャー「CMF」の車両にすべて対応可能な仕組みで、全車共通のベースパレットを設けて、その上に交換できるフロント、センター、リヤの3つのパレットを子亀のように載せている。この“子亀”のパレットを組み合わせることによって、電気自動車、e-POWER車、ガソリン車の3種類を同一ラインで生産することを可能にしている。1つのベースパレットにすべての部品を載せて組み付けるので、パワートレーン搭載の工程が集約されて混流生産ロスを削減。このように3種類のパワートレーンを持つ車両を同一の工程でロスなく生産できる設備仕様になっている。
2つ目の特徴が高い精度でのユニットの搭載である。ボディは上からハンガーで吊されているが、多少斜めになっていることもある。カメラシステムで吊されたボディの位置を測定して、その位置精度をロボットにフィードバックし、下からドッキングさせるパワートレーンの角度を合わせている。リアルタイム計測によって設備位置はプラスマイナス0.05mmの高精度で補正しているという。
3つ目の特徴がフル自動化。アリアではモーター、バッテリー、リヤアクスルが3枚の“子亀”パレットに載っていて、同時に搭載している。これによって作業者による重量部品の組み付け作業をすべて排除していて、作業者の負担はゼロに。なお、アリアはこうした足まわりの部品を54本のボルトで締め付けているが、ボルトの供給も含めて、すべて自動で行われている。
■8極式巻線界磁モーターの巻線自動化 <(1)次世代のクルマへの対応>
現在、販売しているリーフやe-POWER車には、モーターに永久磁石を使ったローター(中で回転する部分)を採用している。この永久磁石にはレアアースを採用しており、材料調達のリスクが発生していた。そこで、新型アリアでは、銅線を使用した巻線コイルによる8極式巻線界磁ローターを採用(車載用で量産世界初)。静粛性や高速走行性能を向上させるとともに、レアアースレスを実現した。
巻線コイルは1つのローターに対して8個(極)存在しており、直径1.2mmの銅線を118周/個、8個合計で944周(1台あたり350mの銅線を使用)を巻き上げている。生産設備では8ローター同時に自動で巻き上げており、約20分かけて高速・高精度で美しい層状に仕上げられている。
■インテリジェント作業支援システム <(1)次世代のクルマへの対応>
モーターの組立ラインには10のデジタル技術を導入しているが、その中でも特徴的な取り組みが、MR(Mixed Reality=複合現実)を導入した作業支援ツールである。MRは現実世界にデジタルコンテンツを合成した拡張現実(AR=Augmented Reality)と仮想世界(VR=Virtual Reality)を組み合わせたもので、MRゴーグルを装着してその世界を具現化する。ゴーグル型のデバイスが空間を認識したうえで、デジタルのコンテンツ(3D)を現実の空間に存在するかのように表現できる。
このMR技術を作業指導に活用した点がポイント。これまでは工場の作業者は標準作業書と呼ばれる作業マニュアルやビデオを見て、作業の手順を覚えた後に、実際のラインで作業訓練を行っていが、MRゴーグルを装着することで、現場で作業ガイドを見ながら作業訓練が自習できるようになったのだ。作業ガイドは作業個所を3D表示で指示したり、写真やわかりやすい文章を使って作業内容や注意点を表示するので、習熟期間は約半分に、監督者による指導工数は9割削減できるという。
実際の習熟の現場では、作業者が1人で作業訓練を行い、その時に録画した視線の動画を再生することで、監督者が習熟の様子をチェックしているという。もちろん、監督者による作業者の“視点チェック”は初めての試みである。また、チェック個所を指差し呼称することで確認する習熟確認テストや、3Dモデルによって現物が準備できなくても教育できる機能も新しい。
■塗装ドライブース <(4)ゼロエミッションの生産システム>
新塗装工場の省エネの目玉アイテム。塗装するエリアではどうしても吹き残りの“塗料ミスト”が発生してしまう。これまでは水を使って塗料ミストを回収し、塗料カスは廃棄処理。また、塗装エリアは温度と湿度を厳密に管理する必要があるが、空気が水で加湿されてしまうため、エネルギー効率のよい空調のリサイクルも行われてこなかった。
そこで、水を使わずにドライパウダー(石灰)を使って塗装ミストを回収する仕組みを導入した。塗料カスは100%再使用し、塗装ブース内の空調をリサイクルすることで、従来の設備に対して使用するエネルギーを25%削減した。設備が水に接しないので、設備が痛みにくいというメリットもあるという。さらに、コンパクトな設備とすることで、国内外の他の工場建屋にも収まり、技術展開しやすくした点も特徴である。
■ボディ&バンパーの一体塗装 <(4)ゼロエミッションの生産システム>
従来の塗装では、鉄/アルミ製のボディは140度Cで焼き付けて、プラスチックは溶けないように85度Cで焼き付けていた。このため、ボディとバンパーは別々に塗装していた。
それを一体で塗装することにチャレンジし、世界で初めて実現。開発のポイントはボディの塗装を従来の140度Cから85度Cにできる材料の開発で、環境に優しい水系塗料でありながら、水の沸点以下の85度Cで熱硬化する塗料を作らなければならなかった点が難しかったという。硬化剤を吹き付け直前に塗料に混ぜ込んで、その後自分で硬化するという日産の特許技術を開発。これによって、ボディとバンパーを一体で塗装できる技術を確立した。この技術はリサーチから開発まで6年かけたという。ボディとバンパーの完全な色合わせは、塗装品質向上に大きく寄与。また、使用エネルギーも25%削減している点もポイントである。(写真はロボット6台による中塗り工程の様子)
■塗装外観自動検査 <(1)次世代のクルマへの対応><(2)ロボットによる匠の技術の量産化>
世界最高水準の検出力を有する最新鋭の塗装品質自動検査システム。塗装時のゴミや塗装ハジキなど6種類の欠陥を検出する。従来は人が触った時の感覚と目を凝らして検出していたが、集中力が持続しないという課題を抱えていた。新システムは人の眼の認識の仕方をうまく知能化したもので、いわば匠の技の自動化ともいえる。
ボディを562のエリアに分割し、1アリアあたり11回の検査を行う(合計6182点/台)。縞模様を照射し、欠陥の凸凹を通過した際に縞模様に輝度変化が現れることから、それをカメラが欠陥と認識する。4年の歳月をかけて検査ロジックを構築した“ノウハウの塊”であるという。高級車の生産ラインなので、検出できるゴミのサイズは直径0.3mmと、業界最小の値をマークしている。
検査結果は集中管理システムに送られて、情報として蓄積される。検出した欠陥は修正するため、リペア作業者に情報を伝達。従来は紙で指示していたが、腕に装着したスマートフォンで確認ができるようになっている。これによってスムーズに手直し作業に移行できるようになった。(写真はシステムを開発した本田さん)
■リモート設備メンテナンス <(1)次世代のクルマへの対応>
新工場には、各工程で多くの機器、ロボットが存在しており、非常に複雑で高度な設備やシステムになっている。設備を安定して稼働し続けるために革新的な取り組みを考え続け、構想から2年をかけて実現したのが「集中管理室」である。高度な自動化設備を運用するため、最新のIT技術を使い、情報を一元化することで設備故障の予知・予防や効率的な保全を実現した。
従来は設備の故障が発生すると1つ1つ状況を調査し、場合によっては故障判断ミスによるやり直しが起こる場合があった。新しいシステムでは、集中管理室から遠隔支援するのが特徴である。現場の保全員はタブレットPCやウェアラブルグラスカメラなどのITデバイスを持ち、集中管理室と情報を共有。集中管理室から最適な復旧方法を保全員に指示することで、稼働までの復旧時間を30%削減した。ちなみに、故障は1日数回程度発生することもあるという。
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最新鋭の工場で生み出される日産の新世代EV、アリア。一般道を走る姿が待ち遠しい。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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