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スゴ腕戦闘機パイロットが生み出した「最強の空戦理論」とは? じつは民間機にも活用されています

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スゴ腕戦闘機パイロットが生み出した「最強の空戦理論」とは? じつは民間機にも活用されています

「40秒のボイド」と呼ばれた名パイロットの誕生

戦闘機同士の空戦(格闘戦)において、パイロットはどのようなことを意識して飛ぶのでしょうか。現代の戦闘機パイロットが教科書のように手本としているのは、アメリカ空軍のスゴ腕パイロット、ジョン・ボイドが提唱した「E-M理論」と呼ばれるものです。

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ジョン・ボイドは第二次世界大戦で整備兵として従軍したのち、日本での水泳インストラクターを経て戦闘機パイロットとなり、朝鮮戦争に参加しました。優れた空戦理論を構築していることから、撃墜数の多いエースパイロットかと思いがちですが、意外にも撃墜数はゼロ。韓国に赴任した1953年3月末から、休戦協定が結ばれる7月27日までの間に22回の出撃を記録していますが、敵機と遭遇する機会は一度もなかった模様です。

ボイドの卓越した空戦能力が花開いたのは、朝鮮戦争での任務を終え、米本土のファイター・ウエポンズ・スクール(空軍版トップガン)に入学してからでした。主席で卒業し、そのまま教官として残ることになった彼は、教官が不利な状態から始まる空戦実習において、開始から40秒以内に生徒を「撃墜」してしまうため、「40秒のボイド」の異名で呼ばれるようになります。

それと同時に学術部門の責任者となったボイドは、教育で使用するための戦術マニュアルを作成する任務にも就きました。数学者のトーマス・クリスティーとともに空軍の大型コンピューターまで動員して、これまでパイロットの経験則をメインに語られてきた「空戦必勝法」を誰にでも理解できるよう理論づける中で、1960年代初頭に確立されたのが「エネルギー機動性理論」です。

エネルギー(Energy)と機動性(Maneuverability)の頭文字から「E-M理論」とも呼ばれるこの空戦理論、要約すると「空戦(格闘戦)では、運動エネルギー(速度)と位置エネルギー(高度)の総量が大きい方が有利」ということになります。速度と高度は相関関係にあり、一定の速度で飛んでいる場合、高度を上げると速度は落ち、反対に高度を下げると速度が上がります。

「空戦必勝法」を理論で整理

エネルギーを失ってしまう大きな要素は、旋回や上昇などで発生するG(重力加速度)です。Gは空気抵抗によるブレーキの側面があるので、急旋回で大きなGをかけてしまうと、高度を上げなくても速度を落としてしまい、結果としてエネルギーの総量が小さくなって不利になるというワケです。

このため、空戦を有利に戦うためにはスロットルを開けて加速し続け、エネルギーを減らさないよう適切なGをかけながら動き回ることが必要となります。これまでエースパイロットの肌感覚だけに頼っていた「空戦必勝法」が、誰にでも理解できる理論となったことで、戦闘機パイロット養成のプログラムは飛躍的に進歩したのでした。

E-M理論は同時に、空戦における戦闘機の飛行特性を比較することにも応用できました。結果、最高速度は速くても加速までに時間がかかっていたり、小回りが利いても遅い速度域だけだったりなど、性能諸元(カタログスペック)だけではわからない、実際の空戦機動における性能を一定の基準で評価できるようにもなりました。

戦闘機の空戦性能評価に使えるということは、E-M理論を設計段階で組み込めば、最強の空戦(格闘戦)能力を持つ戦闘機を作ることも可能になります。ボイドは理想の戦闘機を実現すべく、空軍内の同志とともに「戦闘機マフィア」と呼ばれるグループを結成し、空軍上層部に働きかけるようになりました。

彼らが理想としたのは、ベトナム戦争でのデータから格闘戦が行われるのはマッハ1以下であることが多いことを踏まえ、最高速度はマッハ1.6程度、軽量で操縦性が良く、推力重量比の大きな加速性に優れた戦闘機でした。

当時進んでいたF-15の開発ではプレゼンが成功しなかったものの、F-15が高コストの機体となって調達ペースが落ちたことから、国防長官が低コストで済むボイドらの戦闘機案に興味を示し、1970年代初頭に「軽量戦闘機(LWF)計画」がスタートします。

ボイドの空戦理論は民間機でも同じ

軽量戦闘機計画で示された要求項目は、まさにE-M理論に基づく「最強の空戦戦闘機」そのものでした。このコンペではジェネラル・ダイナミクス(現:ロッキード・マーティン)のYF-16と、ノースロップ(現:ノースロップ・グラマン)のYF-17が最終候補に残り、最終的にF-15と同じエンジンを搭載し、より低コストなYF-16が「F-16」として採用されました。ただ、YF-17も、F-4「ファントムII」の後継を選定する海軍航空戦闘機(NACF)計画を進めていた海軍の目に留まり、「F/A-18」として採用されます。

その後のF-16とF/A-18については、語るまでもないでしょう。F-16はアメリカだけでなく約30か国の空軍に採用され、トータルで5000機近い生産数を誇ります。F/A-18もアメリカ海軍・海兵隊だけでなくカナダやオーストラリア、スペイン、フィンランドなど7か国に採用され、大幅に改良されたF/A-18E/Fや派生機種のEA-18Gも活躍しています。これらを鑑みると、ボイドたちが構想した「最強の空戦戦闘機」が、高く評価された結果だといえるでしょう。

ところでこのE-M理論、空戦機動や戦闘機の設計以外にも応用されていることをご存知でしょうか。それは飛行機を使ったモータースポーツで、決められたレーストラックを飛びタイムを競うエアレースの世界です。

エアレースでは横方向や垂直方向への旋回を繰り返し、その速さを競います。ここで急旋回し、Gをかけ過ぎてしまうと速度が落ち、結果として良いタイムが出せません。戦闘機の空戦と同じように、エネルギーを失わないよう適切なGで旋回することが重要で、そこにE-M理論が応用できるのです。

筆者(咲村珠樹:ライター・カメラマン)はエアレースの取材中、実際に元戦闘機パイロットの選手に対し、エアレースとE-M理論の関係について話を聞いたことがあります。その回答は「まさにジョン・ボイドの理論そのものだ」というものでした。

エアレースでも空戦でも、いかにエネルギーをマネジメントして飛ぶかが勝利への鍵であり、ある意味E-M理論は「エネルギー・マネジメント理論」であるともいえます。ジョン・ボイドが確立した理論は、今もパイロットや戦闘機の設計に、大きな影響を与えているといってよいでしょう。

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みんなのコメント

17件
  • tai********

    昔、AirWar(空戦マッハの戦い)とかやっていたから何となくわかる。
    マニュアルでも高速ヨーヨーとか出てくる。
    その中でもF-15 やF-16はバケモノでした。
    だって上昇中や旋回中に加速できるんですよ。
    他の同世代の戦闘機からすればUFOみたいなもんでしたよ。
  • 鈴木一幸
    ボイドはE-M理論だけじゃなくてOODAループも提唱していたんですよね。それを活用したのが湾岸戦争での米陸軍。ただし前線の指揮官の無理解で最後の詰めが甘かったけど。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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