過給されていることを隠さない911 ターボ
極太のタイヤを包む、ワイドなフェンダー。ホエールテールと呼ばれる、巨大なリアスポイラー。エンジンリッドで誇らしげに輝く、斜体のTurboロゴ。ポルシェ911のターボほど、高く過給されていることを隠さないモデルは珍しい。
【画像】止まらない「空冷ターボ」の高騰! ポルシェ911 930から993まで 現行の992型も 全119枚
2024年は、そんなランドマーク的モデルの誕生から50年目。1974年のフランス・パリ・モーターショーでのデビュー以来、空冷フラット6のターボは、連綿と研ぎ澄まされてきた。
ドイツ・シュツットガルトのスポーツカー・メーカーが、ターボチャージャーを市販車へ採用するのは当然の流れだった。近年では、燃費を向上できるエネルギー回収装置といえるが、当時はモータースポーツ直系の高性能化装置だった。
1970年代初頭、ル・マン24時間レースを連覇したポルシェだが、新レギュレーションが成立。水平対向12気筒エンジンを積んだ917は速すぎ、出場が許されなくなった。
そこで、1974年シーズンへ向けてカレラRSR 2.1ターボを開発。販売に大きな影響を与えるグループ4や5への参戦には、400台以上の公道モデルの生産が求められた。
かくして、半世紀前のパリでお披露目されたのが、930型の911 ターボ。カレラRSR 2.1ターボと多くを共有する、3.0L水平対向6気筒にKKK社製のターボチャージャーを1基結合。6.5:1の圧縮から、263psを引き出した。
燃料供給は、ボッシュ社のK-ジェトロニック・インジェクションで、最大トルクは34.9kg-m。通常の2.7Lエンジンの911は、213ps/6300rpmと25.9kg-m/5100rpmで、動力性能の差は歴然だった。
400台のホモロゲーション仕様
パワーを受け止めるため、シャシーもアップデート。リアタイヤは15インチながら、アルミホイールは強化品の8.0Jへ拡幅され、ハブベアリングも専用品が組まれた。
サスペンションのセミトレーリングアームは、スチール製から鋳造アルミ製へ置換。高速走行時の安定性を高めるべく、特徴的なスポイラーも与えられた。そのぶん、価格は約2倍へ上昇した。
今回の4台の内、ガーズ・レッドの930が、そのターボ。ホモロゲーション仕様そのもので、初期に生産された400台の1台に当たり、希少性は極めて高い。シャシー番号は80。初代オーナーは、オーストラリア人だったという。
ドアを開きスポーツシートへ腰を下ろすと、タータンチェック柄の座面が優しくお尻を包む。車内はポルシェの定石通り。扇形に広がったメーターパネルに、5枚のメーターが並ぶ。フロアヒンジの3枚のペダルは、左側へオフセットしている。
前方には、フェンダーへ挟まるように、低いボンネットが伸びる。オプションだった調整式ステアリングコラムが備わり、理想的な位置へステアリングホイールを置ける。
911 ターボ3.0は、自然吸気のRSのように、シリアスなロードゴーイング・レーサーではない。車重は1195kgと軽く、豊満な動力性能を備えるが、快適性も維持している。
初期のホモロゲーション仕様でも、エアコンにパワーウインドウ、ハーフレザー・シートなどを得ていた。これらは、グループ4マシンの934にも受け継がれている。もっとも、それは規定の最低重量が重すぎたから。省く必要がなかったのだ。
自然吸気の930と異なる体験 明確なターボラグ
50年前のターボエンジンでありながら、フラット6は息を呑むほどレスポンシブ。ザラザラした音質はタービンによって削がれ、洗練されたサウンドに聞こえる。
排気量は3.0Lあり、同時期のBMW 2002 ターボより扱いやすい。だが4000rpmを超えると、タガが外れたようにパワーが増大。リアを沈めながら、圧巻の加速が始まる。タコメーターの針は、6400rpmまで吹き飛ぶように回る。
シフトレバーのストロークは長く、ゲートの感触は少し曖昧。しかし、頻繁な変速は必要ない。当時は新しかった、4速のタイプ930マニュアルが組まれている。
自然吸気の930と、運転体験の違いは大きい。ステアリングは、路面のニュアンスを細かな感触で伝達。軽めのカレラRS 2.7より、しっかりした重み付けが心地いい。
フロントノーズは、質量を感じないほど積極的に反応。僅かなアンダーステアで、限界を教えてくれる。リアは重く、加速時のトラクションに不足はない。
ところが明確なターボラグがあり、コーナリング・スタンスはアクセルペダルで調整しにくい。音声が同調していない、ミュージックビデオのような違和感がある。
じゃじゃ馬なイメージもある930型の911 ターボ3.0だが、不意にテールが蹴り始める可能性は低いだろう。不安定さを招くには、ギリギリのブレーキングと急なアクセルオフで、積極的にコーナーへ飛び込む必要がある。
早めのアクセルオンでも、再びブーストが高まるのは、コーナーの頂点を過ぎてから。サーキット以上に激しく扱わなければ、存分に走りを堪能できる。
1989年まで進化を重ねた930型911 ターボ
911を大きく飛躍させた930型ターボといえたが、その後の10年間はブランド自体が低迷。当時のトップ、エルンスト・ファーマン氏は、フロントエンジン・リアドライブの924と928で、新時代の模索を進めた。
とはいえ、911 ターボは進化を重ねた。バイパスバルブが追加され、ブーストは昇圧。アルミホイールは16インチへ拡大された。1977年には、1978年仕様として大きなアップデートを受け、その後の11年間を支えることとなった。
ロリー・ジャック氏がオーナーのブラックの1989年式は、930型のラストイヤー・モデル。「ティートレイ」と呼ばれるリアスポイラーが、1978年式以降の目印。新しいインタークーラーを冷やすため、従来から更に拡張されている。
水平対向6気筒は、排気量を2994ccから3299ccへ拡張。圧縮比は7.0:1へ高められ、最高出力272ps、最大トルク41.9kg-mへ引き上げられた。
ほかにも後期型では、G50型5速MTを獲得し、クロスドリルド・ブレーキディスクを装備。シフトフィールを改善する、クラッチディスク・ハブも採用されている。
車重は105kg増大。エンジンの搭載位置は、30mm後方へ移動した。これをカバーするため、リアタイヤの指定空気圧は34psiから43psiへ上昇している。
乗り比べた印象としては、後期型の911 ターボ3.3の方がポジティブ。ステアリングホイールの感触は、タイヤが大きくなったことで初期の繊細さが薄まり、どっしりと安心感が高い。
この続きは、ポルシェ911 ターボ 930から993まで 4世代を比較(2)にて。
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