今年のル・マン24時間レースウィークに発表されたA110の「S」。ベースモデルが、すでにその卓越したハンドリングと軽快なフットワークでスポーツドライビング派から絶賛されるなか、あえて高性能版と位置付ける「S」の投入には、一体どんな意味が込められているのか。第一報をお届けしよう。
ストイックに走りを突き詰めたい方へ
【嶋田智之の月刊イタフラ】アルピーヌA110の高性能版に乗ってきました!
東京モーターショーでのジャパンプレミアを見届けたあと羽田に向かい、そのままポルトガルへ。エストリルサーキットと、その周辺の一般道を舞台に、アルピーヌA110Sを存分に試してきた。
ピュア、リネージが一般道での楽しさを志向しているのに対して、A110Sはトラックユースを念頭にハンドリングの正確さ、そしてコーナリングスピードの高さを最優先としたという。とは言ってもハードコアなサーキット仕様というわけではなく、軸足をこちらに移した程度と考えるのが正解だろう。開発陣は日常域の扱いやすさ、気持ちよさは犠牲にはしていないと強調する。
ミッドマウントされる1.8Lターボエンジンは、0.4barのブースト圧向上により最高出力を40ps増しの292psに高めている。シャシーは、前後とも10mmずつ太く、専用の構造とコンパウンドを持つミシュランPS4を履くのに合わせて、前後のスプリングを約50%、アンチロールバーを100%レートアップ。ハイドロリック・コンプレッション・ストップを用いたダンパーの減衰力も引き上げられ、ESCは特にトラックモードの制御が見直されている。
「S」の称号に偽りはなし!
デザインの変更は派手なものではないが、ブレーキキャリパーや室内のステッチなど各部にオレンジ色が取り入れられて、アクセントを添えている。また、ルーフには2kg弱の軽量化を可能とするカーボン製が設定された。
まず一般道では、明らかに力強さが増しているのを実感した。320Nmの最大トルクはA110と変わらないが、それを2000-6400rpmという実に幅広い回転域で発生するおかげだ。レスポンス、特に低中回転域でのアクセル操作に対するツキが明らかに良くなり、 軽快に走ってくれる。
乗り心地は確かに少し引き締まった感触だが、アルピーヌらしいタッチはちゃんと継承されている。ただし、フックス製鍛造ホイールを履いた仕様は突き上げがやや鋭角に過ぎるのが気になった。開発メンバーに聞くと、我々が乗ったのはたまたまサーキットで酷使された個体で、本来そんなことはないはずとのことだったが……。
そのサーキットでの走りは、さすがの仕上がりだった。ピュア/リネージよりも姿勢変化が抑えられ、姿勢は常にフラット。そしてリアの安定性が格段に高く、高速コーナーで安心して踏んで行ける。
もっとも、単に安定しきっているわけではない。ターンインから積極的に姿勢を作っていけば、これぞニュートラルステアという気持ち良い姿勢で飛び込んでいける。さすがに自分ですぐにそれは出来なかったが、お馴染みテスターのロラン・ウルゴン氏は、エストリル全コーナーでドリフトしていたほどだ。そう、全コーナーで!
エンジンも快感。実用域のトルク感も増していたが、トップエンドの吹け上がりの鋭さ、パワーの伸びは明らかに上で、実に魅力的な仕上がりとなっていた。
まさにメーカーが主張する通り、ミニサーキットで遊ぶならピュアやリネージで何の不満もないが、国際格式コースなどで走りを突き詰めていきたいという人は、A110Sの方が合っていそうだ。個人的にも、シャシーはピュア/リネージでもいいとして、そのほぼ唯一の不満であるエンジンは断然こちらが刺激的というわけで、やはりA110S一択となりそうだ。
【Specification】ALPINE A110S/アルピーヌA110S
■全長×全幅×全高=4180×1798×1248mm
■ホイールベース=2419mm
■トレッド=前1556、後1553
■車両重量=1114kg
■エンジン種類=直4DOHC16V+ターボ
■総排気量=1798cc
■最高出力=292ps/6400rpm
■最大トルク=320Nm(32.6kg-m)/2000-6400rpm
■燃料タンク容量=45L(プレミアム)
■トランスミッション形式=7速DCT
■サスペンション形式=前後Wウィッシュボーン/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前215/40R18、後245/40R18
お問い合わせ
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