2006年、Motor Magazine誌は興味深いテストを行っている。アウディS4、BMW330 xi、ポルシェ911カレラ4という4WDモデル3台を女神湖氷上コースと筑波サーキットに持ち込んで、それぞれのブランドがクルマを走らせるときの気持ちよさをどう考えているのか、ドライバーの操作とクルマの挙動にどのようなデザインの関係を求めているのかを探っている。改めて振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年4月号より、タイトル写真はBMW330 xi・左とアウディS4)
パワーオンでオーバーステアにもっていけるクワトロ
アウディS4とBMW330 xiについては、女神湖(長野県)の氷上コースで試すことができた。両車とももちろんスタッドレスタイヤを装着していたので、圧雪路面を何の問題もなく普通に発進できる。また、アクセルペダルを強く踏み込んでも、左右のふらつきもなく最小限のホイールスピンで加速していく。滑りやすい路面を走っていることを忘れてしまいそうになるのが心配だが、これがAWDの安心感だ。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
たまたま、同条件下でBMW M3 CSLを走らせることができたが、こちらはリア2輪駆動。この路面でも、もちろん発進することはできるが、アクセルペダルをラフに扱うとDSCが効いてウォーニングランプが点滅。コンピュータがエンジン制御とブレーキ制御をするので、滑りやすい路面だということをドライバーが認識できる。DSCをカットして同じことをやると、リアタイヤは空転しながら横滑りが起こる。氷上でうまく走るためには、とても丁寧なドライビングが要求されるが、それも楽しみのひとつではある。
さてアウディS4は、RS4を除けば、A4ボディで一番スポーティなクルマだ。S4はセンターデフで前後50:50というトルク配分になっている。空転が始まるとトルセンLSDにより、状況に応じて25:75から75:25まで駆動力配分が変わり、前後軸の回転差が抑えられるという仕組みだ。
スタッドレスタイヤを履いて氷上を走ると一般道では味わえない限界付近の挙動が見えてくる。パワーオフでリアが滑ってきてオーバーステアになり、パワーオンでアンダーステアになるという全車に共通する基本パターンは、S4の場合、それぞれがやや強く出る。もちろんこれはESPをオフにした状態の話で、通常は大きな姿勢変化を起こす前にESPがエンジン制御とブレーキ制御で抑え込んでくれる。
ハンドルを少し切ってパワーオフするとリアが横滑りを始め、クルマの向きが変わる。氷上ではこの挙動を使ってコーナーの入り口で向きを変える。
パワーオフに加えてごく緩いブレーキを掛けると、それがもっと顕著に出る。ブレーキは制動するのではなく、荷重移動させる程度の緩い操作だ。このブレーキを普通に掛けてしまうと前後のブレーキ圧制御(EBD)が介入するためかオーバーステアは収まっていく。
S4は、パワーオンならいつもアンダーステアかというと、そうではないこともある。ハンドルを切り込みながら、アクセルペダルの半分以下でパワーオンするとオーバーステアになるケースだ。これはフロントがうまく食いついている場合で、ちょっとFR的な挙動になるところが面白い。
ちなみに「アウディ・ドライビング・エクスペリエンス」のカリキュラムには、オーバーステアにもっていく練習もある。冬のフィンランドで開催されるコースでは、スパイクタイヤの装着を前提に、ハンドルをグイッと切ってパワーオンし、オーバーステアにして走る練習をするのだ。
初代のクワトロはどうやってもアンダーステアになってしまい、曲げるのに苦労したことがある。AWDは安定性は良いが曲がらないクルマというレッテルを貼られた時期で、WRCのドライバーは、ブレーキペダルを踏みながらアクセルペダルも踏んで無理やりクルマの向きを変えるというテクニックを使っていたほどだ。
その初代クワトロ時代のトラウマから「アンダーステアコンプレックス」を持ってしまったアウディは、オーバーステアにもできるよう、ハードウエアもソフトウエアもその改良に積極的だ。S4ではイニシャルの前後配分が50:50であるが、新型RS4以降に登場する第三世代クワトロは40:60になっていくそうだ。軽いリアに、より大きな駆動力を与えることになる。そうなると、パワーオンした場合はS4よりもオーバーステア状態になりやすくなる可能性がある。
氷上でのS4のコーナリングは、ターンインの時点でパワーオフと緩いブレーキングでオーバーステアに持っていき、コーナリング状態になったら半分くらいのパワーオンにしてオーバーステアを持続させながら、しっかりとクルマの向きを変える。さらに出口に向かってはフルパワーオンによって、センターデフのトルセンLSDを効かせてアンダーステアに持っていくという走り方ができると気持ちがいい。
ターンインでのオーバーステアが大きく出過ぎた場合には、すぐにフルパワーオンにすれば良い。このときにはカウンターステアが必要だ。パワーオンにしたとき、カウンターステアを当てずにハンドルを直進状態で立ち上がれる程度の滑りが一番速いだろう。
FRの特性を尊重した気持ち良さがBMW xDriveの本質
BMW 330 xiは、AWDでも前後の重量配分をほぼ50:50になるようデザインされている。これはタイヤの性能を効率よく引き出し、走る、曲がる、止まるという能力を高めるためだ。素早くきめ細かく作動できる電子制御式湿式多板クラッチ機構により、前後の駆動力配分を自在にコントロールできるxDriveがさらにそのポテンシャルを引き上げている。
xDriveは、イニシャルの前後トルク配分が40:60である。リアが強いから、FR的な特性も味わえるBMWらしいトルク配分だ。トランスミッションと直結しているリアは、エンジンの回転が常に伝わっている。このときタイヤが空転してトルクをほとんど伝えていなくても、回転はしている。
フロントへは途中の電子制御クラッチを介して回転を伝えているが、まったく伝えないこともできるし、リアと同じく直結状態にすることもできる。ハンドルを切ってパワーオフしたとき、リアの滑りはあるがS4ほど大きくは出ない。また、リアを滑らさなくてもターンインは難しくない。それはターンインするとき、xDriveがフロントへの駆動力配分を0%にしているからだ。直進状態からハンドルを少し切り始めた時点でノーズが反応してくれるから、滑りやすい道でも「グリップしてくれているな」という安心感がある。
コーナリング中は、パワーオン状態だと弱いアンダーステアになる。こんな路面では、DTCスイッチを押してタイヤが空転することを許してくれるモードに切り替えた方が走りやすいケースもある。4輪のブレーキ制御は残っているから、スピンには至りにくい。
また今回は、DSCを完全オフの状態にしても走ってみた。フロントが逃げていない状態でのパワーオンでは、オーバーステアになる。このときは前後40:60のトルク配分でリア100%のFRではないから、オーバーステアとしての動きも穏やかでコントロールしやすい。そのままパワーオンでコーナーを立ち上がろうとフルスロットルにすると、ややリアが滑ったままの弱いオーバーステア状態を保ってコーナーを脱出することができる。
これはなかなか気持ちよいドライビングだ。このときにはxDriveがフロントに伝えるトルクを微妙に変えている。リアが大きく滑ればフロントにトルクを大きく伝えるが、アンダーステアには戻らない程度で伝達を抑えている。xDriveは一生懸命に働いてくれているらしいが、ドライバーにとってはとても扱いやすい挙動だ。
S4は独特のハンドリング性能を理解しマスターしてコントロールする楽しみがあるが、330xiは素直な動きなので、ドライビングの楽しみ方としては正統派である。
操ることの奥深い喜び、テクニックを要求するカレラ4
さて、ポルシェ911カレラ4である。こちらは、筑波サーキットの2kmコースでその限界領域を試してみた。カレラ4は、一般道ではじゃじゃ馬ではない。パワーオフでもあまりオーバーステアにならず、姿勢が乱れることも少ない。安定志向なのはパワーオンの状態でも同じで、基本的にアンダーステアに終始する。
サーキットでも、911らしいパワーオフによるオーバーステアにならず、当初はドライバーの扱える幅がないと思っていた。だが、それを抑えていたのはPSMだった。サーキット走行でもほとんど違和感を生まないその介入方法は、相当に高度なコンピュータ制御になっているのだろう。
そのPSMをオフにしてコーナーを攻めていくと意外と簡単に、というか911らしく、リアが流れていった。パワーオフを長くしてターンインしていくと、より大きく流れる。もちろんそのままではカウンターステアを当ててもスピンしてしまうほどだが、カレラ4ならばそれをパワーオンによって回復できる。エンジンのトルクバンドに乗ったギアを選んでタイミングよくフルパワーオンにすると、リアの滑りを維持しながら、つまり最初のドリフトアングルをキープしながら立ち上がることができるのだ。
カレラ4は、フルパワーオンでもいきなりアンダーステアになったりオーバーステアになるわけではない。逆にいえば、AWDなのに「パワーオンでアンダーステアだけ」ではない、ということだ。これはスポーツカーメーカーとしての、あるいは911としてのハンドリングに対するこだわりなのかもしれない。そもそも、リアに295/35ZR18という超ファットなタイヤを履いており、エンジンパワーよりも足まわりが勝っているせいもあるが、パワーオフによって滑り出したリアを、適切なパワーオンによってスムーズに回復させることができるのだ。
コーナーへターンインした後に、パワーオフの時間が短くてリアが滑り出さずにクルマの向きも変わっていない状態からパワーオンすると、アンダーステアは強く出る。コーナーではきちんと向きを変えてから出口に向かってパワーオンにするという部分では、正しいドライビングが要求される。
カレラ4で一番美しいコーナリングは、コーナー入り口でブレーキングを弱くしていってパワーオフのままで進入、ターンインが始まったらコーナーの出口にノーズが向く程度まで、大きくなくリアが滑っている状態をまず作ることだ。そしてクリッピングポイントの手前から、その弱いオーバーステアを抑えるようにパワーオンしていってカウンターステアを当てずに出口まで膨らんでいき、ハンドルを直進状態で立ち上がることができたら、乗っていても見ていても気持ちがいい。
実は、これはなかなか難しい。ターンインのときのスピードが低ければ、いくらパワーオフしてもリアは滑ってこない。スピードが速すぎたなら、ちょうど良いリアの滑りを出すことが難しくなるし、予定ラインをトレースすることもできない。ラップを重ねるごとにタイヤが温まってきてグリップが変化するし、ブレーキの状態も変わるから、常に同じドライビングで実現できるとは限らないのだ。
ポルシェ911は、ドライバーに奥の深いドライビングテクニックを要求する。このことが、オーナーになっても長く飽きずに乗れる要素になっていると思う。もし簡単だったら、操る喜びはあるかもしれないが、その征服感は薄いだろう。これはわざと難しくしているわけではなく、テクニックを持ったドライバーがとことんまで使い切れる性能を持っているということだ。
昔の911に比べて、やさしくなった面と難しくなった面がある。やさしくなったのは、限界内で走った場合だ。グリップ限界が高くなったから、その範囲が広くなったと言える。反対に、サーキット走行などでの限界付近では、シャシ性能、タイヤの性能が良くなってコーナリングスピードが高くなったので、そこでのコントロールはよりシビアに感じるところもある。
ただカレラ4は、パワーオンのときにカレラ2より強いオーバーステアやホイールスピンなどによるトリッキーな挙動変化が出ないようになっているから、滑りやすい路面でも扱いやすい。だが、もし911のドライビングがものすごく簡単になってしまったら、買う人は少なくなるのではないだろうか。なぜならば、その征服感が911の魅力のひとつだから。ここが「アウディ」や「BMW」と「ポルシェ」の違うところなのだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2006年4月号より)
アウディS4(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1780×1410mm
●ホイールベース:2645mm
●車両重量:1750kg
●エンジン:V型8気筒DOHC
●排気量:4163cc
●最高出力:344ps/7000rpm
●最大トルク:410Nm/3500pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:812万円
※2006年当時
BMW330xi (2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1440mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1660kg
●エンジン:直列6気筒DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:258ps/6600rpm
●最大トルク:300Nm/2500-4000pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●車両価格:665万円
※2006年当時
ポルシェ 911カレラ4(2006年) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4425×1850×1310mm
●ホイールベース:2350mm
●車両重量:1500kg
●エンジン:水平対向6気筒DOHC
●排気量:3595cc
●最高出力:325ps/6800rpm
●最大トルク:370Nm/4250pm
●トランスミッション:6速MT
●駆動方式:4WD
●車両価格:1196万円
※2006年当時
[ アルバム : アウディ、BMW、ポルシェの4WDドライビング はオリジナルサイトでご覧ください ]
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