端正なデザインと伸びやかな走り。ソアラは国際車の扉を切り開いたパイオニアだった
ソアラには硬質な美しさがある。知的なバイタリティがある。デザインはみごとに機能と調和がとれてクリーンだ。ソアラはトヨタ車には珍しく、静止しているときより走っているときのほうが美しい。疾走するソアラは、スピードを上げるほど表情が冴えてくる。
【ボクらの時代録】1981年の日本カー・オブ・ザ・イヤー。初代トヨタ・ソアラ(MZ11/MZ10型)の未体験パフォーマンス
しかしドアを開けると、感じが少し変わる。インテリアは、このクラスのクルマにふさわしい豪華さを性急に追いすぎてバランスを欠いた感じだ。ソアラに贅沢さが求められるのは当然だが、それは長く乗り込むほど魅力を増すハイブロウなものであってほしい。小手先の細工は逆効果である。シートの表張りの柄、ステアリングホイールのデザインなど、随所にケバケバしいイメージが残っている。
「エレクトロニック・ディスプレイ・メーター」は、メータークラスターから指針を追放してしまったが、スピード表示の視認性は優れている。エアコンはマイコン・コントロール式で、キャビンはいつも快適だ。コントロールパネルの操作性もなかなかいい。
2800GTが搭載する5M-GEUは、日本で初めてのビッグキャパシティを持ったツインカムシックスである。2800GTは、まさに期待どおりの実力を見せつけた。日本車で間違いなくトップにランクされるスピード性能の持ち主である。そのうえ、市街地での低速走行でも、非常に扱いやすい。5速ギアでも40km/hのスピードを保てる、4速では30km/hもOKだ。しかもそれぞれ10km/hも上乗せすれば、踏み込んだアクセルにはっきり応える。ソアラは、同じ排気量のBMWと比べて、低速域の扱いやすさでは明らかに優れている。
渋滞を抜け出して、ムチを加えるとソアラは豪快にグングン加速する。優秀なドライバーなら、1人乗りで0→400mまで簡単に16秒のカベを破るだろう。180km/hで作動する速度制御装置を外せば、200km/hを軽くオーバーするはずだ。テストコースで、速度制御装置と、排ガス・デバイスの一部を除いたソアラを飛ばすチャンスがあった。やや追い風だったとはいえ、デジタルメーターは221km/hをマークした。日本仕様のままで205~210km/h程度の最高速度をマークするポテンシャルは十分にあると思えた。つまりソアラは、スピードでもBMWやメルセデスに十分に対抗できるクルマである。
2800GTは、静粛性でも傑出している。とりわけ高速域になると、その静かさ、風騒音の低さが印象的だった。
シャシー性能も優れたレベルだ。ステアリングは、エンジン回転数感応式のラック&ピニオン。レスポンスは誰もが気楽に扱える、ほどほどのシャープさを実現している。パワーアシスト量は控えめ。高速でも、しっかりとした手応えがあるのはいい。
ステアリング特性は軽度のアンダーステアをみせ、コーナリングの切れ味は悪くない。ただし通常領域を超えた高めのスピードでコーナリングすると、わずかだがイン側に切れ込むような挙動を見せる。この点は少し気になった。
ホットなコーナリングにチャレンジすると1速、2速のギアの場合は、アンダーステアが強めに出た。強力な駆動力によってノーズは持ち上げられることも影響しているのだろう。3速以上でクリアするコーナーでは、適度なアンダーステアを維持して、最終的には滑らかにリバースステアに入る。好ましい性格でグリップ限界も高い。
乗り心地は、適度に硬く、ほどよくくつろげる。うるさ型でも文句をいうドライバーはいないだろう。
ソアラ、中でも2800GTのプレステージを感じさせるのは、まったく静かなキャビンにいて、クールにハイスピードを引き出す時である。いかにも高級・高性能車だと、自然に納得させられる。省エネ時代ではあるが、ドライバーを魅了するクルマの条件は、やはり生きている。ソアラはその代表である。
※CD誌/1981年5月号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員
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