超刺激的なターボパワー。速い/痛快/安いの三拍子が揃ったFFホットハッチ
シティ・ターボはまったく速い。これほど痛快に走る、刺激的な国産車に出会うのは本当に久しぶりだ。
シティがデビューして、やっとホンダらしいクルマが誕生したと思ったが、シティ・ターボは、輪をかけてホンダらしい。ホンダS600がデビューしたとき、初めてステアリングを握ってボクは熱くなった。同じ感激を、このシティ・ターボに感じることができた。「ホンダはこうでなくちゃいけない」と思うのである。
【岡崎宏司カーズCARS/CD名車100選】「ニュースにあふれた元気モデル」、1981年に誕生した初代ホンダ・シティ(E-AA型)はトールデザインで話題を独占
シティ・ターボの素晴らしい実力を見よう。まず、ノンターボに対するパワーアップ率が、なんと50%である。国産ターボ車のパワーアップ率は、だいたい20~30%前後だから、驚異的なターボ効果だ。
そのハイパワーを生み出す過給器は0.75kg/立方センチメートル。これは無鉛ガソリン仕様車としては、世界最高の過給圧だ。しかも、ノッキング問題もうまく処理している。ホンダ技術陣の頑張りは、シティ・ターボの100㎰/5500rpmの最高出力と、14.0kgm/3000rpmの最大トルクに現れている。リッター当たり出力はエンジンの高性能ぶりを示す基準のひとつだが、シティ・ターボは実に81.2㎰/ℓである。
この驚くべきエンジンとコンビを組むのが、わずか690kgのウエイトだ、パワーウェイトレシオは6.9kg/㎰にすぎない。
0→100km/h加速は8.6秒。0→400mは16.3秒(2人乗り)、トップスピードは175km/h。これがシティ・ターボのパフォーマンスデータだ。スポーツ派のユーザーでも、これなら不満はないだろう。その速さは、自分の手でステアリングを握れば、たちまち体験できる。フルスロットルでスタートを切るときの加速ぶり、とくに1速、2速での凄みに、しびれるに違いない。
スタートダッシュを誌上再現しよう。フル加速の場合は、4000~4200rpmあたりでクラッチをミートするのが、いちばんいい。それ以上だと前輪が激しいホイールスピンを起こし、タイムロスの可能性がある。4000rpmプラス。クラッチをやや滑らせぎみにしてミートしてやる。とたんにシティ・ターボはノーズを上げ、ダッシュ開始。フロントタイヤから、かすかな悲鳴が上がる。その悲鳴が止むと同時に、グンとフロアまでアクセルを踏みつける。ターボインジケーターの液晶表示の色が、パッと広がった。過給圧の急上昇を告げる光の流れ。まるで夜空に咲く打ち上げ花火だ。回転計も速度計もまた、一気に上昇する。一瞬のうちに回転計はレッドゾーンの6000rpmを超え、6500rpmに達してしまった。ここで燃料カットが作動する。
1速では加速を味わっているヒマなんかない。すぐに2速にシフトアップだ。2速の加速も凄い。あっという間もなくまたマキシマムに達してしまう。すでにスピードは85km/hをオーバーした。素早く3速へ。ようやくホッとひと息つき、全身で加速感にひたる楽しさを味わう。「すごかったな……」とニンマリする余裕が出てきた。
足のポテンシャルも報告しておこう。試乗する前には、さぞガチガチに固められているだろうと心配していた。だが意外にも、自然吸気のシティRよりずっとしなやかだ。乗り心地も快適である。
シートの座り心地が大幅に改善されたことも、ロングツーリングの疲れを最小限に抑えてくれる理由のひとつだ。フロントシートは、サーキットなどでの高速走行でも不満のないサポート性と、日常走行での快適な落ち着きのよさを実現している。シティターボの乗り心地/静粛性を含めた高い快適性は、わずか690kgの軽量小型車として、文句なしの一級品だ。他のシティとは格が違う。
ハンドリングもよくまとまっている。乗り心地重視のため、セッティングには、やや甘いかなと感じるところもあるが、ドライビングは実に楽しい。サーキットなら筑波はあまり得意ではないが、鈴鹿や富士ではかなり高い戦闘力を発揮するといった感じだ。
シティ・ターボはコンパクトスポーツの基準を変えた。キミたちもぜひこのフィーリングを体感してほしい。
※CD誌/1982年12月号掲載(表紙)
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員
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みんなのコメント
私のは普通のシティだったので転ぶほどのパワーはなかったのですが。