トヨタ「カローラ・ツーリング」の500台限定車「2000リミテッド」に、今尾直樹が試乗した。発売後、すぐに完売してしまった人気の理由を考えた。
なぜこの時期に導入?
より幸せに生きるためのクルマ選びを!──ココロに効くクルマに乗ろう 最終回
やっぱり2リッターぐらいの自然吸気エンジンを搭載したハッチバックはたのしい!
さる6月1日、限定500台で発売となったカローラ・ツーリングの特別仕様車“2000リミテッド”は、およそ260万円という価格にもかかわらず、早々に完売となった。なので、いまはもう新車で購入することができない。そのまぼろしの1台に試乗したので紹介したい。2000リミテッドは買えなくても、早晩カタログ・モデルとなって帰ってくることが予想されるからだ。
それにしても、なぜいま、この時期に「RAV4」とも共通の2.0リッターのダイナミックフォース・エンジンとCVTをカロリン(カローラ・ツーリングの略です)に搭載して、500台を販売したのか?
トヨタ広報によると、「特別な装備仕様と、『台数限定』販売とすることで、よりカローラに対する興味を高めていただくこと」をねらったという。2000ccを導入した理由は、「2019年9月のフルモデルチェンジでスポーティに生まれ変わったカローラツーリングに、さらに動力性能を向上することで、よりパワフルでダイレクトな走りを楽しんでいただくため」ということである。
早々に完売した理由は、「当社が予想していた以上に、多くの方がこのクルマを求めてくださったためということになります。。。」。
この「。。。」のなかに、広報の人のことばにできない心情、余白というものが含まれているわけだけれど、この回答を筆者はものすごく素直に受け取った。2000リミテッドはトヨタの予想以上に人気があったのだ、と。
海外市場、たとえばイギリスのカローラには新世代2.0リッター・ダイナミックフォースエンジンのハイブリッドがすでに登場している。これを日本市場に導入してよいものかどうか、トヨタの国内営業は悩んでいるのである。あくまで筆者の推測ですけれど。
手づくりっぽい高級感を演出
「1966年の発売以来、カローラは日本を代表する大衆車である。2リッターのカローラなんて売れるはずがない!」
セールスの現場から反対の声があがった。その声を半沢はこう説得した。
「お待ちください。それでは、やってみればよいではありませんか。まずは限定で500台。ウチには国内に販売店が6000店舗ございます。たとえ売れなかったとしても、なんとかなる。しかし、もしも1カ月以内に500台完売したら、反対なさった常務にはあやまちを認めて土下座していただきましょう!」
というのは日曜日のテレビ・ドラマを観たばかり筆者の妄想ですけれど、半沢直樹ならぬトヨタの担当者が、とにかく売れるように特別設定色のレッドマイカメタリックほか4色のボディ・カラーを用意し、シルバー・メタリック塗装のルーフ・レール、それに17インチのキラキラ輝くアルミ・ホイールも標準装備にして、男っぷりをグッとあげた。
内装は、随所に赤の差し色をくわえ、本革巻き3本スポークのステアリングホイール+パドルシフト、スポーツ・シートなど、スポーティに。ダッシュボード、ステアリング、シート表皮ともども、グレーのスティッチを施して、手づくりっぽい高級感を演出している。
“素直”な乗り味
乗るとどうだったか? というと、まるでハッチバックみたいによく走るワゴンだった。
それはそうなんである。略称カロリンのホイールベース2640mmというのは5ドア・ハッチバックのカローラ・スポーツ、略称“カロスポ”とおなじで、リアのオーバーハングが120mm長いだけ。1370kgの車重は、カロスポの後席に体重70kgのおとながひとり乗っている程度の違いである。そこへもってきて2.0リッターのダイナミックフォースエンジン+ダイレクトシフトCVT。走るわけだよ、カロリンは。
トヨタの誇る新世代2.0リッター・エンジンは、最高出力170psを6600rpmで、最大トルク202Nmを4800rpmで発揮する。いまどき珍しい高回転型、といっていい。既存の1.8リッターの140ps /6200rpm、170Nm /3900rpmと比較すると、それぞれ30psと30Nmほどパワー&トルクがアップし、最大トルクの発生回転数が1000rpm近くも高くなっている。
基本的に希薄燃焼の高効率エンジンゆえ、中速トルクが薄い感じはする。けれど、高回転域までシューッとスムーズにまわる。全開にすると、CVTゆえのクラッチが滑っているみたいな感覚がたまに出るけれど、それさえ気にしなければ、素直に加速して、素直に曲がって、素直に減速する。
中低速コーナーの連続するワインディング・ロードだと、ごく自然なロールを許す。ロール・スピードはゆっくりしており、ステアリングは過敏すぎず、安心感があって、いい感じで曲がっていく。路面がうねっていても、ダンピングがよく効いていて、ボディがあおられない。
215/45R17というタイヤ・サイズもあって、都内では若干硬めで、バネ下が少々バタつくけれど、山道はいいなぁ、と思った。路面によってロード・ノイズがちょっと大きいかも、と感じたものの、責任は路面にもある。
100km/h巡航は、1500rpmを切っていて、たいへん静かだ。ドライブモードを「スポーツ」にすると、それが1000rpmぐらい跳ね上がって、ピックアップが俄然よくなる。 「スポーツ」のままだと、ガソリンがモッタイナイと感じる筆者のようなタイプは、「スタンダード」のままで走ればよい。と自らに言い聞かせる。4000rpmぐらいまでは静かな点も、このエンジンの特徴だ。
現行カローラは、1.8リッター+電気モーターのハイブリッドがいちばんいいと筆者は思っていたけれど、2.0リッターの新世代ユニットによって、よりいっそう現行カローラのカタチにふさわしいモダンさを得た。
一億総中流の夢はいまいずこ
さてここで、なぜカロリン2000リミテッドは予想以上に売れたのか? というトヨタのマーケティング部門でさえ予想できなかったことが起きたのか、ということについて筆者なりに考えてみたい。
簡単に言えば、筆者の見るところ、これまでよりも若い層を狙って開発した現行カローラの狙いが見事に当たったからだ。あくまで筆者の推測ながら、購買層の若返りなくして、現在のカローラのヒットはありえない。2019年の9月に発売となって、その年の乗用車の車名別販売台数1位になり、今年の1~6月も、1位こそ「ライズ」(ダイハツ「ロッキー」のトヨタ版ですね)に譲ったものの、およそ1257台の差で追いかけていて、3位のホンダ「フィット」を7000台引き離している。
ちなみに4位は「ヤリス」で、以下、「ノート」、「シエンタ」、「フリード」、「ルーミー」(ダイハツ「トール」のトヨタ版)、「プリウス」、「アルファード」と続く。
このトップ10のリストを見てあらためて思うのは、2.0リッター以上の排気量のクルマはアルファードのみというニッポンの厳しい現実で、さしものトヨタも、2.0リッターは売れんぞ……と、分析したのではあるまいか。マークII3兄弟が名前を連ねていた昭和の、一億総中流の夢はいまいずこ。
令和のニッポン人は、高度経済成長期のように、「プラス100ccの余裕」とか、「隣のクルマが小さく見えます」とか、他人と比較して云々、なんてことを自動車に求めてはいない。カローラ・ツーリング2000リミテッドのカタログが謳う、「もっとキモチのいい、TOURINGへ。」という、他人事ではない“自分事”の世界に、少なくとも500人が共感した、ということでしょうか。
だれもが自分の生活にあった、自分だけの自動車を欲している。そこにパチンとはまったのが、限定500台のカローラ・ツーリング2000リミテッドだった、ということでしょうか。
では、限定がとれて、カタログ・モデルになったらどうなるのか? 確実に申しあげられるのは、新しい2.0リッターのダイナミックフォース・エンジンは現行1.8より断然よい、ということである。ワインディング・ロードでたのしい。猛暑のなか、エアコンの強力な効きも印象的だった。さすが2.0リッターだった。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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カロツーのがまだいいな