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フレイザー・ナッシュ-BMW 326 当時のベスト・サルーン 80年のサバイバー 後編

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フレイザー・ナッシュ-BMW 326 当時のベスト・サルーン 80年のサバイバー 後編

BMWを英国で広めたフレイザー・ナッシュ

自社のクラシカルなチェーン駆動スポーツカーの人気に陰りが見えていた1930年代後半、フレイザー・ナッシュ社は先進的なモデルを生み出すBMWと契約。完成車の輸入だけでなく、主に英国で製造されたボディを載せるなど、自社工場での生産も行った。

【画像】フレイザー・ナッシュ-BMW 326と後継といえるブリストル400 最新3シリーズも 全61枚

そうして生まれたのが、フレイザー・ナッシュ-BMWだ。ところが、戦争への反発からドイツ製品の不買運動が波及。英国での販売台数は1937年から1939年までの間に約350台と、成功と呼ぶにはあまりにささやかだった。

フレイザー・ナッシュ-BMWとして売られたモデルのうち、約60台が326のサルーンだといわれている。アルディントン家が、英国でも広い支持を集めるであろう画期的なクルマだと、高く評価していたモデルだ。

「ビッグ2リッター」や「ロンドンの中心部を堂々と走る」といったコピーを用い、広告を展開。「世界で最も優れたツーリングカー」というフレーズとともに、326の専用パンフレットも刷られた。

当時の英国価格は、ファブリックシートで475ポンド、レザーなら495ポンド。現代の価値では、3万6000ポンド(約558万円)ほどだ。右ハンドルに仕立て、マイル表示のスピードメーターまで用意している。

燃料キャップにはロック機能が付き、シャシー潤滑も簡便なワンタッチ。リモートで操作できるラジエーター・ブラインドなども搭載され、1937年当時としては相当に装備も充実していた。

ブリストル社製85Aエンジンに換装

今回ご紹介するシャシー番号113302のフレイザー・ナッシュ-BMW 326は、1939年6月にロンドンの西、アイルワースの街へ納車された1台。後期仕様のシングル・バンパーと、穴開き加工が施されたスチールホイールが与えられている。

CBT 600のナンバーが取得されたのは1941年11月。初代オーナーは明らかになっていないが、1947年にロンドン在住のJH.ハーベイ氏が購入している。しかし翌1948年8月には、バーナード・ババニという出版社へ売却したようだ。

その出版社は、フレイザー・ナッシュ社を買収したブリストル社の85Bエンジンとトランスミッション、リアアスクルなどへの換装を、アンソニー・クルック・モーターズ社へ依頼した。だが整備記録をたどると、ピストンヘッドの固着が残されている。

そこで同年の9月に、フレイザー・ナッシュのワークショップへ入り整備を受けている。ラジエーターにエンジンオイルが混入していたほか、過早着火と呼ばれる、自然着火の症状にも悩んでいたらしい。
  
新しいバルブスプリングへの交換やチューニングを受けても症状は改善せず、さらにブリストル社の工場へ326は移送。その時点で、パワーでは劣るもののトラブルが少ない、85Aエンジンに積み直されている。現在に至るまで。

復活した326は、1960年初頭には英国東部、ブリストルの街で自動車用部品の配送車として活躍。その後、1970年までの間にオーナーが何度か変わり、ルーカス社製の大きなP100ヘッドライトが与えられた。同時に、ブルーのツートーン塗装も。

想像以上に活発に発進し停止する

1970年代初頭に326のボディを磨き始めたクリフォード・タトル氏は、1990年代初頭まで状態を維持。ブリストルの南東、ブリスリントンの街にガレージを構える、テッド・チック氏へ売却している。

惜しくもチックは2020年にこの世を去るが、1960年代初頭から自動車整備に関わっており、フレイザー・ナッシュ-BMW 326にも興味を持っていた。BMW 326と328、327をかけ合わせた、ブリストル400のレストアを仕上げた経験も持っていた。

彼は326のエンジンをリビルドし、きれいな状態で乾燥したガレージに保管していた。1950年代の所有歴を明らかにしようと時間を割いてはいたが、運転は自宅の周辺を軽く流す程度だったという。

実際、チックが326を所有していることすら知る人は少なかったほど。現在は、ブリストル・モデルを専門に扱うSLJ.ハケット社を通じて、彼の遺族が次のオーナーを探している。

ボディの塗装以外、大きなレストアを経ていない80年前のクルマだということを考えれば、驚くほど状態は良い。メッキにも輝きが残っている。

SLJ.ハケット社の代表、リチャード・ハケットを説得し、326の走行写真を撮影させてもらう。想像以上に活発に発進し、停止する。変速せずとも、清々しく加速していく。

車内は広々といえる程ではないが、1930年代の基本設計ながら、1950年代のクルマのように感じさせる。1941年以来、CBT 600のナンバーが維持されてきた理由でもあるだろう。

現代まで生き抜いたサバイバー

チックのガレージで発見されたクラシックが、今後誰の手に渡るのか、まだ決まってはいない。これから新たなオーナーの手によって、エンジンとブレーキがオーバーホールされ、1970年代風のビニール製内装トリムで仕立て直されるのだろう。

ブルーのツートーン・ボディは、塗り直されるかもしれない。あるいは戦争を乗り越え、現代まで生き抜いたサバイバーとして、この少しやつれた姿のまま運転を楽しむことも理解できる。

当時のベストサルーンといえた、フレイザー・ナッシュ-BMW 326。ブリストルのコレクターが、大切にガレージへ仕舞い込むのかもしれないけれど。

フレイザー・ナッシュ-BMW 326(1937~1940年/英国仕様)のスペック

英国価格:475ポンド(新車時)/5万ポンド(約775万円)以下(現在)
生産台数:約60台
全長:4597mm
全幅:1600mm
全高:1676mm
最高速度:125km/h
0-97km/h加速:29.0秒
燃費:8.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1125kg
パワートレイン:直列6気筒1971cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:50ps/3750rpm(ブリストル85A:81ps)
最大トルク:−
ギアボックス:4速マニュアル

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