2008年4月、W204型メルセデス・ベンツCクラスのステーションワゴンが日本上陸を果たした。セダン同様の走り、扱いやすさを維持しながら、高い実用性やカジュアルさも追求したワゴンはどんな仕上がりを見せていたのか。Motor Magazine誌ではC200コンプレッサーとC250を連れ出して試乗を行っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine2008年6月号より)
若いユーザーの支持を受けたワゴン
昨年2007年に登場した数多くの輸入車の中で、もっとも多くの注目を集めた存在であるメルセデス・ベンツCクラスは、今年2008年に入ってからも依然、好調を続けている。昨年6月のデビューから今年3月までの国内累計登録台数は1万1000台を突破。今の勢いを持続できれば、今年は輸入車の中でもベスト3の位置を伺うことができそうだ。
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人気の理由はいくつも考えられる。しかし何と言っても功を奏しているのは、メルセデス・ベンツらしい威厳を取り戻し、スポーティさと両立させたスタイリングや、好みに応じて選べるエレガンスとアバンギャルドというふたつの顔の設定など、これまで以上にユーザーの求めるものを真摯に汲み取った、その商品企画によるところが大きいだろう。
かつては「最善か無か」を是としたメルセデス・ベンツも、今や最善と無の間にあるユーザーの数え切れないほどのニーズ、あるいはワガママと言うべきものに応えていかなければいけない。今はそういう時代なのだ。古くからのファンにとって、それが一抹の寂しさを感じさせるものだとしても。
新型Cクラスステーションワゴンは、そんな好調ぶりをさらに加速させる絶好の後押しとなる1台である。しかし、このモデルは実はそれだけにとどまらず、実はCクラス、あるいはメルセデス・ベンツにとっては、さらに重要な役割を果たす存在でもあるのだと言ったら意外だろうか。
W202シリーズと呼ばれる先々代Cクラスでは、1993年のデビューから2000年までのモデルライフを通じた販売台数合計約180万台のうち、約24万台をステーションワゴンが占めたという。それが2000年の登場から先日まで販売されていた先代W203シリーズでは、全ラインアップの販売台数合計が約2割増しの210万台に対して、ステーションワゴンだけで見た場合には、実に5割増しとなる合計36万台を売り上げたという。
ここ日本のマーケットを見ても、販売台数はW202型の約1万台に対してW203型では約1万7000台へと、まさに急伸している。しかも注目すべきことに、ユーザーの年齢層別内訳を見ると30代が32%、40代が35%と、ここだけで7割近くにも達しているのだ。Cクラスセダンの中心ユーザー層は40~50代だから、つまりステーションワゴンのユーザーは、ほぼひと世代若いということになる。
しかも日本車を含む他銘柄からの代替は、全体の6割にも及んでいるという。つまりCクラス、そしてメルセデス・ベンツにとって、より若いユーザー、新規のユーザーの受け皿、入口として、このステーションワゴンは非常に重要な役割を担っているというわけである。
そうした実績、そして期待を踏まえて送り出されたW204型のコードネームで呼ばれる新型Cクラスステーションワゴンは、基本的にはこれまでの正常進化型とみて間違いない。しかし写真を見ていただければ一目瞭然だが、そのスタイリングには見逃せない変化の跡がうかがえる。先代ではクーペのように寝かされていたリアゲートが起こされて、いかにもワゴンらしい姿への回帰が図られているのだ。
しかしながら、その外観には、これまでのライフスタイル志向からいきなり実用性重視に転向してしまったような堅苦しさはない。それがこのスタイリングの巧いところである。
サイドビューを見ると、緩やかな円弧を描くルーフは前席頭上辺りをピークに後方に向かってなだらかに下降している。それに対してボンネットの見切り線から連なるウエストラインは逆に徐々にせり上がっていき、やはりルーフラインに沿わず後端で収束するサイドウインドウと相まって、荷室部分の天地をグッと薄く見せているのだ。リアゲートの角度を起こしながら、これだけの軽快感を与えることができたのは、まさにそうしたデザインのマジック。逆に言えば、そうしたラインを描けたからこそリアゲートをしっかり立てることができたというわけだ。
ボディはセダンと同じく全体に若干ながら拡大されている。全長4600mm×全幅1770mm×全高1460mmという数値は、先代との比較では全長が50mm、全幅が40mm大きく、全高だけが5mm小さい。2760mmのホイールベースは45mmの拡大だから、つまり前後オーバーハングは据え置きということになる。また、セダンとの全長の差は15mmと、ごくわずかである。
このサイズアップと角度の起こされたリアゲートによって、積載性能は大幅に向上している。ラゲッジスペースの容量はリアシートを起こした状態で先代の430Lから450Lに。2名乗車時の最大容量は、やはり1314Lから1465Lへと大幅に拡大されているのだ。
実際に計ってみても、フロアは通常時で幅110cm、奥行き100cm、高さは80cmほどと、十分過ぎるほどのサイズを確保。リアシートを折り畳んだ状態ならば、長さ180cm超のものまで飲み込んでくれる。地面からリアゲート開口部下端までの高さは約60cmほどで、しかも開口部とフロアの間にほとんど段差がないため、重い荷物を積む時だけでなく降ろす時も難儀しないで済む。
シングルフォールディング式に改良されたリアシート
広いだけでなく使い勝手への配慮も行き届いている。目をひくのは、リアシートが先代のダブルフォールディング式ではなく、背もたれを倒すだけのワンアクションで折り畳み可能となったこと。この状態でフロアはフルフラットになる。
容量を考えれば、またドイツ車らしい質実剛健ぶりを期待するならば、あるいは不満に思う向きもあるかもしれないが、荷物を持ちながら、あるいは子供を抱きかかえながら片手でも操作が可能になるなど、使いやすさという面では明らかに向上しているのも事実。これは進化と受け取りたい。
手元のノブを軽く押し下げるだけで収納できる便利なトノカバーも従来から踏襲。不満として浮かぶのは、フロア下に小物を入れておくスペースがないことくらいという、実に使い勝手の良いスペースとなっている。
ラインアップはセダンにほぼ準じる。C200コンプレッサー、C250のそれぞれエレガンス、アバンギャルドが用意され、さらにエントリーモデルとしてセダンにも追加されたばかりのC200コンプレッサーが設定された全5グレードである。C300アバンギャルドSが選べないのは、セダンに対する販売ボリュームからすれば仕方のないところだろう。
では、気になる走りっぷりはどんなものだったろう。最初に乗り込んだのは、おそらく販売の主力となるに違いないC200コンプレッサーステーションワゴン アバンギャルドだ。
ドライバーズシートからの景色にはセダンとの違いはまったくないと言っていい。唯一、ルームミラーに映るリアウインドウがセダンより遠くに感じられるというくらいである。
実際に走り出しても、その手応えはよく知るCクラスのそれと、ほとんど変わるところはない。それでも、目を皿のようにして観察するとわかるのは、まず乗り心地。セダンに較べて、わずかに硬いという印象を受ける。いや、「硬い」という言葉では誤解を招くかもしれない。あえて言えば「硬め」ぐらいか。ゴツゴツと角があるわけでもなく、その差はセダンと乗り較べなければ指摘できない程度のものだ。
その印象はリアシートでも変わらない。空間的な広さも、またシート自体のサイズや形状もセダンとの違いは皆無と言ってよく、それゆえに足元や膝まわりの空間にはそれほどの余裕はないものの、狭苦しさや居心地の悪さを感じさせることはない。むしろリアシートに人を乗せていた方が乗り心地が落ち着くのは、やはりワゴンらしく高負荷を想定して相応にサスペンションが締め上げられているからだろう。
車内の密閉感、あるいは剛体感のようなものも、何となく薄く感じられる。具体的にはリアまわりからの音の侵入がわずかに大きく感じられ、またボディの剛性感も劣るという印象。しかし、リアコンパートメントがこれだけ大きく開いているステーションワゴンだけに、それは当たり前の話。むしろ、それを若干というレベルにとどめていることを褒めるべきだろう。
実は今回は、試乗にセダンも同行させていたため、こうした微細な差を感じ取ることができたが、そうでなければ、これらの違いに気付けたかどうか自信はない。つまり、セダンから乗り換えようとか、あるいは買い足そうというのでもない限り、乗り味の差はほとんど気にしなくて良いと言って良さそうだということである。
セダンとワゴンの差は同時に乗り比べてわずかに感じる程度
動力性能、そしてハンドリングといった面についても、ほぼ同じことが言える。今回の試乗コースは市街地と高速道路が主な舞台で、そうした中を走っている限りは、ハッキリとした違いを感じることはできなかった。
ちなみに、このC200コンプレッサーステーションワゴンの車重は1550kg。セダンの1490kgに対して60kg重い。車検証を見ると前軸重がなぜか10kg軽く、後軸重は70kg重くなったことで前後重量配分は52:48と、セダンの54:46に較べて、より理想的な値に近づいている。
確かに発進時など、タイヤが最初にひと転がりするまでにわずかに重さを意識させられる感はないとは言えない。しかし、その後はコンプレッサーユニット特有の充実したトルクのおかげで加速に痛痒を覚えることはなかったし、コーナリング時もリアの落ち着きが増したように思うことはあったが、それが重量によるものか、ボディの剛性感の差によるものか、はたまたサスペンションのセッティングによるものかは微妙なところ。
あえて言えば、それら全部が要因なのだろう。いずれにせよ、セダンと同じく軽快な操舵感を持ち、従来のメルセデスのイメージを覆す一体感をもたらしながら、最終的には安定したアンダーステアへと収束するハンドリングの基本線には変化はなかったと言っていい。
続いて乗ったC250ステーションワゴン エレガンスも、そうした印象は共通だ。こちらの車重は1610kg。セダンの60kg増しという数値に変わりはない。走りっぷりは、快活さが際立つC200コンプレッサー・アバンギャルドと較べると、明らかに落ち着きを感じさせる。
16インチのミシュラン プライマシーHPは路面からの入力をしなやかにいなし、また排気量2.5LのV型6気筒ユニットも、滑らかな吹け上がりで心地良く走らせてくれる。ただし、ワゴンらしく人や荷物を大量に積み込み、そして街中主体で使うのであれば、トルクのツキの良いC200コンプレッサーのパワーユニットの方が好ましく感じられることもあるかもしれないとは感じた。
こうして乗り味や走りをじっくり味わうと、ステーションワゴンとセダンには今や特筆するほどの大きな差はないことがわかる。もちろん皆無ではないのだが、あげつらうほどのものではないということだ。しかしながら先に記したように、こうして新型へと移行しても、セダンに較べて若いユーザー層から支持されるという傾向は、おそらく大きくは変わらないだろう。
仮に現在35歳の僕がクルマを買うことになり、様々な要素を検討した結果として選び出したのがCクラスであったとしても、正直言ってそれがセダンだと二の足を踏んでしまう。ところがステーションワゴンなら、気持ちも前向きになる。そのカジュアル感が、メルセデス・ベンツというブランドの高い敷居をグッと低くしてくれるのだ。
そもそも新型Cクラスは、ふたつの顔を持つ戦略、アジリティという言葉に表れた気持ち良い走りの追求などによって、これまでないほどのカジュアルな魅力を身に付けたメルセデスであり、それがヒットのひとつの要因なっているのは間違いない。そこに加わったステーションワゴンは、今まで以上に新しいメルセデスオーナーを増やすことになるのではという気がする。
そういう意味で、新型Cクラスステーションワゴンは、リアゲートの角度がどうであろうと関係なく、やはりきわめてライフスタイル的な存在だと言うべきかもしれない。要するに、これは物を積むためのワゴンではなく、カジュアル感や、その向こうに透けて見える豊かな生活感を演出するためのワゴンだという意味である。
ここ日本では、先代Cクラス全体に占めるステーションワゴンの比率は、約2割ほどだったという。しかしながら今後は、その割合はきっとさらに伸びていくに違いない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年6月号より)
メルセデス・ベンツ C200コンプレッサー ステーションワゴン アバンギャルド 主要諸元
●全長×全幅×全高:4600×1770×1460mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1550kg
●エンジン:直4DOHC+SC
●排気量:1795cc
●最高出力:184ps/5500rpm
●最大トルク:250Nm/2800-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:5速AT
●車両価格:499万円(2008年)
メルセデス・ベンツC250 ステーションワゴン エレガンス 主要諸元
●全長×全幅×全高:4600×1770×1460mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1610kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2496cc
●最高出力:204ps/6100rpm
●最大トルク:245Nm/2900-5500rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:7速AT
●車両価格:593万円(2008年)
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