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そんなに手放し運転したいですか?【自律自動運転の未来 第4回】

掲載 更新 14
そんなに手放し運転したいですか?【自律自動運転の未来 第4回】

 自動運転にまつわる最新情報を届けする本企画、第4回となる今回は、先日(2021年3月5日)世界で初めて発売された「レベル3」にあたる自動運転技術を搭載したホンダレジェンドについて、それがどんな技術なのか、なにができてなにができないのか。そして「自動運転」の話題になると必ず出てくる「手放し運転」の目的と可能性について、じっくり解説していただきます。

文/西村直人 写真/ホンダ、ダイムラー

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■「レベル3」は「レベル2」の延長線上…ではない!!

 これから4月初旬にかけて、「自動化レベル3技術」を含む、Honda SENSING Eliteを搭載した「レジェンド」の試乗レポートが各媒体を通じて発信されます。世界ではじめて市販車に実装されたレベル3技術がもたらす走行状態は、誰もが気になるところでしょう。筆者もその一人です。

ついに2021年3月5日に発売が開始された「レベル3」技術搭載のホンダレジェンド。ただし車両価格1100万円、生産計画台数100台で、実質はリースのみの対応となるため、世の中に広がるのはまだ先になりそう

 しかしながら、運転支援技術であるレベル2の延長線上に自動運転技術であるレベル3はありません。

 確かに、政府によれば自動化レベルはレベル0~レベル5の6段階で示されています。よってレベル1→2→3……と、数が増えれば単に上位技術であると考えてしまいがちです。

 ただし実際には、レベル2までは「運転支援車」であり、レベル3以上を「自動運転車」と明確な線引きがなされています。要素技術は同じでも、求められる精度はレベル3以上で大きく高まります。これはどういうことなのでしょうか? 本稿ではこの先、散見される自動運転関連の固有名詞の解説と共に進めていきます。

大事なので本連載では何度も紹介します。国土交通省が作成した自動運転の「レベル1」から「レベル5」までの定義と責任範囲の最新資料最新(2020年12月)(クリックで拡大します)

■ドライバーに車両の状況をすぐ伝えられるか

 本連載の第二回 https://bestcarweb.jp/news/257738 で紹介したように、レベル3以上では車載センサーの精度やシステムの冗長性(≒複数経路による確実な実行が期待できる能力)を大幅に高める必要があります。ここがレベル2までの運転支援車との大きな違いです。また、単に精度の高い確実なシステムを構築するだけではなく、たくさんの車両が交錯する実際の交通環境で正確に機能(≒車両制御)することが絶対条件として加えられています。

 このことはWP29(自動車基準調和世界フォーラム)で定めた国際基準や、国土交通省による自動運転車の安全技術ガイドラインのなかで次のように表現されています(以下、「」は原文)。

A/「少なくとも注意深く有能な運転者と同等以上のレベルの事故回避性能が必要」
B/「合理的に予見される防止可能な事故が生じないこと」

 これをわかりやすく筆者の言葉で解釈すれば、

A/「漫然とした“だろう運転”ではなく、危険に素早く対処できる“かもしれない運転”という予測運転ができて、正確な運転操作で危険を回避できるドライバーと同じか、それ以上の能力があること」

B/「一例として、このまま走行していると前走車に衝突してしまうことが明らかな場合は、ゆとりある確実な自動減速制御で危険を回避し事故を起こさないこと」

 A・B以外にも、システムの状況をドライバーに確実に伝えるHMI(Human Machine Interface/人と機会の接点)設計がなされているか、システムの作動状態を記録する装置があるかなど、ざっくり100項目以上の要件を満たして初めてレベル3技術の称号が得られます。

 Honda SENSING Eliteは、こうした条件をクリアした世界で初めての市販車であり、ここが歴史に名を残す注目すべき事象です。

自動運転技術は、各種センサーで車外の状況を把握するだけでなく、それをいかにすばやく正確に車内のドライバーへ伝えるか、という点がポイントになる

■そもそも「自動運転」の目的って…なに?

 こうして、いよいよ日本の交通社会にデビューした自動運転車ですが、そもそも自動運転の目的とは何でしょうか? 手放し運転をすることが目的なのでしょうか?

 はっきりと申し上げておきたいのは、「安心・安全な交通社会の実現」こそが自動運転を世に送り出した目的であり、手放し運転はあくまでも副次的効果のひとつで、目的ではないということです。

 加えて、事故ゼロ社会の実現と共に、最終的には誰もが移動の自由を手にするために自動運転の活用が期待されています。繰り返しますが、たとえ法律で認められていようとも、手放し運転をするためだけの自動運転技術ではありません。

■ステアリングから手を放して何をするのか

 では、「手を放せること」をいかに解釈すべきかといえば、「ステアリングから手が放せるくらい精度の高い運転支援が受けられる」、これに尽きます。そして、運転支援によって得られた精神的・身体的なゆとりを自車周囲の安全確認に使い、自分なりの安心・安全な交通社会を実現する。これこそが今日現在、Honda SENSING Eliteから誕生した乗用車の自動化レベル3技術との正しい付き合い方であると筆者は考えています。

 それでもなお、安全マージンにゆとりがあると感じる場合には、ドライバーの責任においてディスプレイに表示される映像(車内エンターテイメント)を楽しむなど、運転操作以外のサブタスクを採り入れて、移動の質を高めていけば良いでしょう。

自動運転の話になると、つねに話題になる「手放し運転」。「手放しで運転できるのか」という話が先行するなかで、「なんのために【手を放してもいい状況】を作るのか」のほうが重要

 ただ、こうした移動の質向上を生まれたばかりの(≒この先、機能限界の拡張が望める)レベル3技術に求めるのは次の理由から少々難しいと考えています。

 それは「運転再開に対するドライバーの対処」です。そもそも現存する自動化レベル1~3までの機能を使用した運転環境において、TOR(Take Over Request/システムからの運転再開呼びかけ)があった場合には、ドライバーはいつでもそれに応答し自らの運転操作を再開しなければならないと定められています。

 レベル3技術の国際基準では「応答に10秒以上の猶予があること」と具体的に示されていますが、例えばディスプレイに映画などストーリー性のある(≒のめり込みやすい)動画を映し出し、エンターテイメント機能に没頭しているドライバーがTORの発報を受け10秒以内に自車周囲の状況を目視で確認し、正しい運転操作が再開できるでしょうか?

■「移動の質」向上にはまだまだ時期尚早?

 筆者は現Daimler Truck AG傘下のFreightliner Trucksが開発した大型トラックの自動運転実験車「Inspiration Truck」のステアリングを(米)ネバダ州にある高速道路で握り、レベル3技術相当の自動走行状態とTORを同時に体験しました。

Freightliner Trucksの実験車両であるInspiration Truck。運転席をよく見ると、ドライバーが両手でタブレットを操作しています。この状態で、クルマから「運転操作に戻ってください」という呼びかけ(TOR)を受けて、すぐ戻れるかどうかがポイント

 システムに守られた運転環境から、突然TORは始まります。実際には定められたODD(Operational Design Domain/運行設計領域)から外れることをシステムが予想し、猶予をもってTORが発報されたわけですが、TORの最中はディスプレイ表示と警報ブザーによってカウントダウンが行なわれ、一刻も早い運転再開が促される(急かされる?)ことから、冷静さを保ち自車周囲の安全確認を行なうには、普段感じることのない緊張を強いられます。

「慣れの問題ですよ」と同乗していただいたFreightliner Trucksの技術者は穏やかに言いますが、それならば筆者は手放しせずに、ステアリングに手を添えてリラックスした状態で、いつものミラーと目視による安全確認を一定時間ごとに繰り返しながら運転していたほうが良いな……、こんな感想を持ちました。

 以上の経験から、「移動の質」向上は、現在の自車が搭載する自律センサーだけを頼りにする乗用車の自動化レベル3技術に求めるのは時期尚早だと考えています。

 この領域はむしろ、路車間や車々間通信、さらには管制情報処理システムなどインフラ整備が前提となったMaaS(Mobility as a Service/サービスとしての移動体)から望むものであり、同時に自動化レベル4技術以上で実現する世界です。

 さて次回は、Honda SENSING Eliteを実装したレジェンドの公道試乗レポートをお届する予定です。手放しせずになにをするのか? ホンダ渾身の自動化レベル3技術は? 2017年にテストコースで試乗したプロトタイプからの進化ポイントなどを踏まえて報告します!

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みんなのコメント

14件
  • 自家用車の自動運転より、公共交通のバスなどを先に優先して作ってください。
  • 「慣れの問題ですよ」

    慣れが必要なうちはまだまだダメでしょ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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