現在、カーナビに代表されるディスプレイの大型化が話題だ。この手の話でよく取り上げられるのがテスラのモデルSに搭載される17インチの縦型タッチスクリーンだが、現在では国産車でも10インチオーバーは当たり前になりつつある。
いわゆる大画面ナビ(ディスプレイ)のトレンドは現状でも続いている格好だが、実際今後この大画面化はどこまでエスカレートしていくのか? 自動車メーカーの純正装着仕様をベースに分析してみた。
新生日産の試金石…!?? デザイン 価格 e-POWER 新型キックスの実力はいかほどか
文:高山正寛/写真:TOYOTA、NISSAN、TESLA、AUDI、MERCESES-BENZ、HONDA、MAZDA、SUBARU、MITSUBISHI、DAIHATSU、平野学、池之平昌信
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7型からスタートして拡大路線へ
GPSカーナビが純正採用されるようになった1990年代初期は2DINにユニット全体を埋め込んでいたため、液晶モニターは今と比べると極小(写真は2代目ホンダレジェンド)
元々AV一体型カーナビのディスプレイサイズは長きにわたりドイツの工業規格である「DIN」、これを上下に二段重ねた「2DIN」から設計された「7型」が主流だった。
いっぽう、自動車メーカー側はインテリアとインフォテインメントのデザイン融合を狙い、一体設計とすることで従来の枠にとらわれない画面サイズの大型化に成功した。大画面トレンド自体は市販カーナビが火付け役だが、あっという間に追い越した感はある。
7型からスタートした画面サイズは8型→9型→10型と拡大し、最近では新型ハリアーの上位グレードには12.3型の大画面を搭載したことも話題となっている。
いっぽうでプリウスPHVには発売当初から“縦型”の11.6インチディスプレイが設定されており、ほぼ画面いっぱいに地図画面を表示することが可能だ。
新型ハリアーは2020年6月にデビューし、エクステリア、インテリア、先進装備などあらゆる点で注目を集めている
新型ハリアーには12.3インチのディスプレイが設定されている。センターコンソール上部から競り出すように装着されている
業界に衝撃を与えたテスラ
そして極めつけとも言えるのが前述したテスラのモデルSに採用されている17インチのタッチスクリーンディスプレイだろう。
前述したプリウスPHVも実質テスラの後追い(別に真似たわけではない)になってしまったが、その手法はまるで大型のPCやタブレットをそのまま装着したような大胆なもの。
クルマ界に衝撃を与えた、センターコンソールにタブレットをそのまま埋め込んだようなテスラモデルSの17インチ縦型モニター。未来的な雰囲気がある
また物理キーを数個しか残さず、残りはすべて画面へのタッチで行うというUI(ユーザーインターフェース)の提案も世界中から注目を集めた格好だ。
プリウスPHVも同様だが、縦型表示はカーナビにおいて同じスケール同士で比較すると「その先の交通状況」を把握しやすく非常に理にかなっている。
昨今人気のスマホナビでも横置きではなく縦置きが評価されているのもここに理由がある。
プリウス&PHVは国内販売の日本車で唯一縦型のモニターを搭載。画面のサイズは11.6インチ。写真はリアカメラ作動時で、ナビをフル画面で表示することもできる
大画面化の理由はナビだけじゃない
さて、それではなぜここまで大画面化が進んだのかを考えてみたい。
ベースの部分では情報量が増えているカーナビの地図画面をより詳細かつ見やすく表示するためには画面を大きくするのが正攻法だ。
しかし現在のカーナビはナビ機能だけでなく、AV機能や空調、さらに車両に搭載されている制御機能なども連携しているケースも増えてきている。
新型ハリアーの12.3インチモニターは、車両のさまざまなインフォメーションやエアコンの設定などをナビ画面とともに映し出すことも可能
画面をそのたびに切り替えるモデルもあるが、1画面で多彩な情報にアクセスできるほうが運転時の操作ミスも軽減できるし効率もいい。
実際、新型ハリアーは12.3インチの画面をすべてナビで占有するのではなく、空調やAV機能を好みに応じて左右にカスタマイズして配置するなどの機能を有している。
メーター系もデジタルの時代
ここでもうひとつ重要なのはナビ周辺だけでなく、メーターパネル自体も物理メーターではなく液晶などを使ったタイプにシフトしている点だ。
アウディのバーチャルコクピットやメルセデス・ベンツのワイドスクリーンメーター、BMWのフル・デジタル・メーター・パネルなど名称こそ違えど、大型の液晶パネルに速度や回転数だけでなく、簡易ナビ画面やADAS(先進運転支援システム)の動作状況などが表示できる。
アウディのバーチャルコックピット(写真はA7)は、メーターパネル内にナビゲーション画面を映し出すこともでき、視線移動を少なくして安全性を高めている
またアウディやフォルクスワーゲンの場合はナビ画面自体も表示することが可能で運転中の視線移動を極力減らすことにも貢献している。
さらにメーターのデジタル化に関しては、物理的に動くパーツを減らすことでトータルでのコスト削減にもプラスする。デジタルであれば、液晶パネルという「白いキャンバス」に絵を描くごとく、デザイナーはアイデアを実際に具現化することも可能なのだ。
2021年中盤から販売を開始する日産アリアは横長タイプのモニターを2つ並べることで、より多くの情報を表示することが可能になっている
クルマに求められる液晶パネルの性能とは
これまでデジタル表示を行うためのパネルに関しては液晶がメインだったが、車両用として使う場合、(1)耐環境性、(2)ディスプレイの照度、(3)応答速度、(4)視野角などの問題をクリアしなければならなかった。
例えば照度の問題にしても単純な明るさだけでなく、液晶パネルの特性として低温時から始動した際、数分間は輝度が低いケースも発生していた。
メーター類にしても実際の速度変化に対し、レスポンスが悪く表示が遅れるなどは論外なのである。
現在注目されている『つながるサービス』のコネクテッド技術をフルに活用するためには、高性能のモニターが必須となる(写真はトヨタヤリス)
これを解消するためにサプライヤーは技術を磨き、現在の高いレベルに達しているが、大型化するということは電子部品に必ず発生する「歩留まり率」の問題にぶち当たる。
これはクルマに限ったことではなく、昨今の大画面TVなどでも同様で、液晶などの場合はいわゆる「ドット落ち」をどこまで許容するのかによっても歩留まり率は大きく変化する。
ちなみにすべてではないが、車載用に使われている液晶パネルは12.3インチがなぜか多い。
これはクルマという限られたスペースに適したサイズということもあるが、歩留まり率が低く、サイズを限定することで価格を下げるサプライヤー側の戦略のひとつ、とも言われている。
また意外とやっかいなのがインパネという限られたスペースに対し、自動車メーカーのインテリアデザイナーと電装系技術者の「陣取り合戦」だという話をよく聞く。
プリウスPHVは11.6インチの縦型モニターを採用することでインパネ周りのデザインが大きく制約されるなか、エアコン吹き出し口のデザインなども工夫している
インパネ周辺には空調の吹き出し口もあるので効率よく室内に送風するためにも実は大画面ディスプレイは目の上のたんこぶになるケースもあるという。
テスラのような割り切りはそのクルマのデザインコンセプトを具現化するためにもあまりやりたくはない、という話にも真実味を感じる。
大画面化のトレンドは止まらない
メーターパネル、モニターの進化に大きな影響を及ぼすと予想されているのがヘッドアップディスプレイ。今のクルマは情報を映し出す場所が非常に重要になる
それでも技術の進化は止まらない。
ここまで語ってきた問題に関しても、従来のTFT液晶から今後は高画質かつ応答性にも優れるAM-OLED(アクティブマトリクス式有機EL)にシフトしていくだろうし、HUD(ヘッドアップディスプレイ)も含めたデバイスなどとの連携により、より多くの情報を表示できるはずだ。
現在の大画面ディスプレイは高級車がメインとなっているが、いずれはコンパクトクラスまで波及してくることは間違いないだろう。
軽自動車もモニターの大型化は進行中で、日産デイズが軽自動車初の9インチモニターをディーラーオプションとして設定して先陣を切った。今後さらにエスカレートするはず
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