新車試乗レポート [2022.11.02 UP]
【メルセデス・EQ EQS】メルセデスが本気で挑んだEV時代のラグジュアリーセダン
文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
メルセデス・ベンツ 「S 580 e 4MATIC ロング」発表
メルセデスのラインナップといえば、セダンを中心としたCクラスやEクラス、それとSクラスが象徴となる。それぞれが世界基準となるカテゴリーを形成し、各社追従してきた。そしてコンパクトカーブームになればAクラスやBクラスが追加され、ラインナップはさらに広がる。AクラスとBクラス登場以前は、VWやフランス車、イタリア車がそこを補っていたことを鑑みれば、彼らにとっても脅威だったことだろう。
より多くのバッテリーを搭載するための専用プラットフォーム
ただ、メルセデスのラインナップ拡大作戦はそんなもんじゃない。SUVが流行ると、既存のモデルをなぞるようにそこも広げた。頭に“GL”の文字を用いて、GLS、GLE、GLC、GLB、GLAを作ったのだ。もはや総合自動車メーカーの意地ってところだろう。
そして今日、それはEVモデルでも展開される。電気自動車であることを意味する“EQ”の文字をつけたモデルは、EQC、EQB、EQAと下のカテゴリーに行ってから、EQE、そしてEQSの発表に至った。おおよそのメーカーが内燃機関のラインナップの中にEVを一台や二台並べる中、フルラインナップとも呼べる構成を確立したのである。要するに時代に媚びたEVの製品化ではなく、本気そのもの。相当な投資額となる。
閑話休題。話をEQSへ進めよう。
EQSは今回初めてEV専用プラットフォームでつくられた。EQCやEQBがそれぞれCクラスやBクラスをベースにしていたことからすると、かなり本気ということになる。理由は至ってシンプルで、このクラスのカスタマーを満足させるには、それなりのパフォーマンスが必要となるからだ。要するに、なるべく効率よくバッテリーを積むのがポイントとなる。より低く、より多くパワーの源を床下に敷き詰めるのだ。
EVだから可能になった新しいラグジュアリーのカタチ
エクステリアデザインもそう。“S”のカテゴリーともなれば既存のモデルをEQマスクにしたようなカスタマイズではお話にならない。EVならではの新しい価値観で新時代のラグジュアリーを提案しなければ存在価値は薄れてしまうのだ。そりゃそうだ。現行Sクラスは充実した装備を持つハイエンドなモデル。自然環境を鑑みたハイブリッドモデルもラインナップされ、社会的な使命の一端を担っているのが現状となる。
ということで、EQSのパッケージはSクラスとはまったく違う。横から見るとボンネットの長さをしっかりとったSクラスとは異なり、EQSはフロントピラーを前方に置くキャブフォワードとなる。そしてリアに備わるのは開口部の広いハッチバック。フォーマルなスリーボックスではないツーボックスを採用した。
結果、驚異的な空気抵抗値を生んだ。Cd値0.20はこれまでいろいろなクルマのスペックを見てきたが、記憶にない数値。フロントを低くしルーフをどんなになだらかにしてもそうやすやすと達成できるものではないはずだ。きっとかなりの時間を風洞実験に費やしたに違いない。
では、そんなボディの運転席に乗り込むとどんな感じなのか。すぐに思ったのは視界が広いこと。何か特別にどこかが広いというのではなく、そう感じる。ボンネットの低さなどが影響しているのだろうが、フロントピラーを極端に細くしたりとかはしていないようだ。
そして驚くのが3枚の高精細パネルを一枚のガラスで覆うワイドスクリーン。特にセンターのPCの画面のようなモニターには度肝を抜かれる。これでもかっ!というサイズは圧巻だ。それとは別に好き嫌いが別れるのはイルミレーションだろう。カラーを指定したり、走りに準じて色変えしたりするそれは、我々年長組には少しばかり派手すぎる。というか、目がチカチカしてしまうのが正直なところだ。
どこからともなく聴こえてくる12気筒サウンド
なんて話はともかく、肝心の走りについてだが、これには終始驚かされっぱなし。スタートしてしばらくするとこのクルマがEVであることを完全に忘れさせるのだ。それはアクセルに対する走りのレスポンス、つまり、トルクの出方、フィーリング、クルマの挙動すべてがそうさせる。これまで「ガソリン車から乗り換えて違和感がないように仕上げました」、という言葉をいろいろなメーカーの開発陣から聞いたが、このクルマの前にそれは単なる美辞麗句となる。要するにまさにこのクルマこそ、それなのだ。
また、どこからともなく聞こえてくるエンジンサウンドもそう。アクセルを踏み込むと腹の底から響くような12気筒サウンドが耳に到達する。これには助手席に乗った編集者ともども心の底から驚かされた。EVでここまで内燃機関のようなフィーリングを出させたら、他のメーカーは手も足も出ないだろう。こりゃとんでもないクルマが登場した。EV時代の幕開けもやはりメルセデスが中心となるのかもしれない。
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家電に始まり、スマホ・基地局・半導体~と日本企業がコテンパンにやられる日が来る。