ホンダ「NSX」がホンモノのスポーツカーであると思うのは、すべてにおいてオリジナリティが高いからだ。3.5リッターV型6気筒ツインターボエンジンに、電気モーターを3つ組み合わせたハイブリッドのドライブトレーンや、迫力あるスタイリングは、ほかに類がない。
操縦感覚についてもおなじだ。後輪を左右べつべつのモーター(計2個)で駆動するのが大きな特徴だ。ふたつのモーターによる大トルクによって瞬発力を生むとともに、モーターの回転を緻密に電子制御し、コーナリング性能を高めている。
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独特のコンセプトに基づいた、現時点で最も先進的なスポーツカーといえるのが現行NSXである。とりわけ、「スポーツハイブリッドSH-AWD(Super Handling-All Wheel Drive)」と呼ばれる独自の4輪駆動技術は、2016年8月に登場したとき、おおいに注目を集めたものだ。
ただし、登場したときは気になる点もいくつかあった。とくに、後輪用モーターの制御が不自然で、人間の感覚がついていかないほどクイックに曲がってしまったのだ。
こうした背景もあり、2018年10月25日に実施されたマイナーチェンジでは、不自然と思われたフィールを改善し、かつブッシュやスタビライザーの剛性アップによってサスペンション設定を見直したという。
「あらゆるシーンでのコントロール性や、ドライバビリティー、路面との接地感のさらなる向上を目指し、動的性能を進化させました」と、新型NSXについてホンダは広報資料で要約している。
実際、運転すると、操縦感覚は「すばらしい!」のひと言だった。ボディがからだにぴったりフィットした感覚で、クルマが走り、曲がり、そして止まるのである。
また、モーターのアシストによる加速感覚は相変わらず異次元であるものの、これまでに比べよりナチュラルになった。スーパースポーツカーといえば、8気筒や12気筒などの大排気量エンジンを搭載しているので、ほかのクルマに比べると十分独特な加速感覚を楽しめる。アクセルペダルを踏み込んでから、一瞬とはいえ回転が上がるのを待ち、そこからいきなりトルクが(大)爆発するものだ。
しかし、NSXの加速感覚はさらに独特だ。なぜなら、モーターのアシストによっていきなり大トルクが発生するからである。さらに、搭載するエンジンは2000rpmから550Nmの最大トルクに達し、かつモーターのアシストもくわわるため、ピーク時はシステム合計で646Nmもの最大トルクを発生するからすごい。
ただし走行モードのうち、「トラック(レース場)」を選んでいないかぎり、静粛性が高いせいもあり、加速時に暴力性を感じさせない。これもまた、加速感覚の独自性を高める要因だ。
なお、9段のDCT(デュアルクラッチ変速機)を介しての加速性能は、静止状態から100km/hまで、海外のプレスによると3秒ないしは3.1秒といわれる。
パワートレーンがハイブリッドゆえ、一般的な高性能スポーツカーらしい“音”や、エンジンの爆発する感覚が楽しめるかどうか気になる人も多いはずだ。しかし、それは問題ない。想像以上にガソリンエンジンを楽しめるのもNSXの特徴である。なぜなら、速度があがっていくと、V型6気筒エンジンが主体になるからだ。
搭載するV型6気筒エンジンは、爽快感のあるサウンドとともに、どこまでも加速していく感覚だ。運転しながら、なにか似ているクルマがあるだろうか……と考えたが、思いつかなかった。ポルシェやアストンマーティン、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレンでもない。ホンダだから作れた、唯一無二のスーパースポーツなのだ。
そのエンジンと組み合わされる足まわりについても、今回のマイナーチェンジによってダンパーの設定が見直された。それにより、これまで以上に自然なコントロールが可能になったうえ、フラットライド感が強くなっている。同時に、操舵フィールも改善された。デュアルピニオン式のステアリングシステムの設定をあらため、ステアリングホイールの切り始めから一貫して、ドライバーがダイレクト感をより強く感じるようにしているという。くわえて、コンチネンタルが提供する専用タイヤも新しくなった。
こうした改良もあって、実際のコーナリング能力はすこぶる高かった。曲がりはじめから、抜け出して加速するまでの一連の動きは、息をのむぐらいの快感だった。ターンインのとき、すっとノーズが内側に向いていくタイミングの速さはおそらく電気モーターが”いい仕事”をしているのだろう。さすがだ。
また、速度域にかかわらずターンインが気持ちいい。なるほど、NSXはスポーツカーとしてよく出来ているのである。ドライブモードのなかでも、市街地向きの「クワイエット」でも、充分、忠実な操舵感覚が得られる。サーキットのみならず、あらゆるシーンでつねに楽しいクルマなのだ。
走りの良さにくわえ、スタイリングも個性があってよいと思う。リアフェンダーと一体化したエンジンフードの存在感は強烈だし、LEDライトが並んだフロントマスクも迫力がある。
また、真横からプロファイルを見ると、Aピラーとルーフが接合されるあたりがピークになっている。ポルシェ911に代表される伝統的なスポーツカーデザインをうまく現代的に昇華させているとも言える。
さらに、新型には「サーマルオレンジパール」という新色も設定された。今回の試乗車のボディカラーがそれだ。8万5000円のオプションであるが、NSXのキャラクターによく合っていると私は思う。
気になる点はカスタマイズパーツの少なさだろうか。2370万円のNSXを買うひとなら、カスタマイゼーションにも大いに興味があるはずだ。フェラーリやポルシェなど海外のライバルたちが熱心な分野でもある。それらモデルとおなじようにカスタマイゼーションの楽しみを提供するためには、あまたのオプションの用意が必要なのできっと大変だ。とはいえ、せっかくここまでいいクルマを作ったのだから、ホンダには是非がんばってほしい。そすれば、NSXの人気はより高まるはずだ。
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