F1グランプリは第2次世界大戦以降、最大の挑戦に直面している。いまなにがおきているか。モータージャーナリストの赤井邦彦が解説する。
3大陸で最低8レース
本来なら2020年シーズンのF1グランプリはオーストラリア、バーレーンの2戦を消化して、今週末には初開催のベトナムGPを迎えていたはずだった。ところが新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で開幕戦から次々と中止が決定、早々に中止を決めていた中国GP(第4戦)を筆頭に、続く第5戦オランダGPから第8戦アゼルバイジャンGPまで中止が決まってしまった。この中には第7戦に予定されていた伝統のモナコGPも含まれている。
F1グランプリがこうした事態に直面するのは70年の歴史を振り返っても希なことだ。それだけに、FIA((国際自動車連盟)もリバティメディア(F1開催権所有者)もレース主催者もチームも戸惑いを隠せない。このままウイルス禍が続けば、さらなるグランプリの中止が追い打ちをかけ、選手権の成立が困難になる可能性がある。規則によると、F1グランプリの選手権は3大陸に於ける最低8レースの開催が義務づけれられている。現時点では22レースあるうちの8レースが中止で、残り14レース。しかし、ウイルス禍が夏前に終息する可能性は低く、第9戦カナダGP(6月15日)以降のレースも開催ははなはだ怪しい。そうなれば、第2次大戦で数年にわたってレースが開かれなかった期間を除き、初めての経験になる。
第2次世界大戦は1939年9月から45年9月まで6年間にわたって全世界を巻き込んだ。戦前のレースでもメルセデスベンツやアルファロメオが覇を競ったが、1939年5月のトリポリGPが終了してすぐ第2次大戦が勃発したため、グランプリはそれを最後に6年間にわたって開催されなかった(実際には戦火の届かない南米で数戦行われた記録がある)。再開されたのは47年のことだ。その後、戦前はバラバラだった規則を統一するに当たって1947年にFIAが改組され、1950年にFIA世界選手権としてのF1グランプリが幕を開けた。戦争は人類が始め、自らの首を絞めた諍いであり、レースの中止は必然的といえた。しかし、今回のコロナウイルス禍によるレース中止は(現段階では)人智の及ばない事象であり、F1グランプリに初めての苦い経験を与える事になった。
2011年のバーレーンGP
初めてと書いたが、実はF1グランプリの中止はつい最近にもあったことを思いだした。2011年の開幕戦のバーレーンGPだ。2010年からアラブ諸国で広がった民主化運動「アラブの春」の余波を受けて、バーレーンでも民主化に向けて2011年2月14日に反政府デモが勃発した。この騒乱は国権を握るイスラム教スンニ派と国民の大多数のシーア派の対立が根底にあり、簡単には終息しなかった。3月に入っても騒乱は収まらず、3月13日に予定されていたバーレーンGPは当初は10月30日に延期、その後開催に向けての動きに批判が集まり、ついには中止が発表された。F1グランプリが欧米に留まらず世界各地に展開するようになって、以前は考えられなかったことだけれど、思想や慣習が開催に影響を及ぼすような事態も起こってきたというわけだ。バーレーンGPの中止の根底には宗教問題が絡んでいる。
さて、今年に目を向けると、冒頭に書いたように3月25日時点で8レースが中止あるいは延期になった。コロナウイルス禍が終息してから残り14レースを開催することになるが、日程の調整等で残り全戦を行うことは恐らく無理だろう。リバティメディアのチェイス・ケリー代表は、何戦かを2021年の初頭に移行させ、最低15レースは開催したい意向だが、カレンダーの調整、主催者(プロモーター)の希望などを考慮すると、非常に厳しい状況だと言えるだろう。
一度白紙に戻る?
私は、2020年のF1は選手権に縛られることなく、一度白紙に戻したらどうかと提案したい。2020年のFIAフォーミュラ1世界選手権は存在しないことになるが、仕切り直して2021年から再開したらいい。スポンサーをはじめとして多くの関係者から批判が出ることは承知の上。その対抗策として、ウイルス禍が終息した後、可能な国・プロモーターの協力を得て選手権の掛からないレースを行う。3戦でも4戦でもいいだろう。2021年に向けて無理のないスケジュールでやればいい。かつてはタイトルの掛からないF1レースが行われていたこともある。過去から学ぶことも貴重ではないか。
私と同じことを考えている人物のコメントが今日(3月28日)のニュースに掲載されていた。かつてF1グランプリの開催権を所有していたFOM(フォーミュラワン・マネージメント)のバーニー・エクレストンのコメントだ。彼はロイターとのインタビューで次のように語っている。
「もし私がまだF1に携わっていたら、今年のF1グランプリは選手権としては開催しない。現状で先を読むのは不可能だ。みんなの安全を考えれば、実現しない意味のない調整をしないことだ。リバティメディアには上手くやって欲しいが、とても可能だとは思わない。不可能な事は不可能だと理解すべきだ」
賢明な考えだと思う。
PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)
1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。
文・赤井邦彦
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