■新オークションスタイルでヴェイロンが3台も出品
新型コロナウイルスの影が全世界を覆いはじめた2020年の春以来、クラシックカー/コレクターズカーの国際オークションは、すべてオンライン限定に移行。この夏まで、世界各地でオンラインオークションが開催されている。
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それらの落札価格は、これまでの対面型オークション以上に乱高下している感もあるのだが、それでも当初の予測を大きく上回る成功を収めてきたといって良いだろう。
ところが秋に入り、コロナ禍との共存を模索するために、インターネット上だけでなく、実際に会場で車両を入札希望者に見せつつ進行する対面型オークションとの併催をおこなうオークションハウスが、いくつか現れ始めているようだ。
業界大手のボナムズ(Bonhams)社が、9月20日午後(現地時刻)の入札締め切りで開催した「The Bonmont Sale 2020」もそのひとつ。厳密な入場制限や感染対策をおこなうべく、スイス・ジュネーヴ近郊の小さな村、チェセレックスの特設会場に出品車両を集め、そこで競売もおこなったという。
オークションに出された車両は、地元スイスからの出品を優先したためか、二輪車/四輪車あわせて70台と少々少なめの様子。でも、そこは1793年創業の名門ボナムズである。質的には、選りすぐりのクルマが多くを占めていた。なかでも今回の目玉となったのは、21世紀初頭を象徴するハイパーカーの先駆け、ブガッティ「ヴェイロン」とそのバリエーションモデルが、3台も揃ったことであった。
●2007 ブガッティ「ヴェイロンEB16.4」
ボナムズ「The Bonmont Sale 2020」に登場した3台のブガッティ・ヴェイロン。まずは基本となる、2007年型のスタンダード版「EB16.4ヴェイロン」から紹介しよう。
1999年の東京モーターショーにて参考出品された6年後、2005年の同じく東京モーターショーにて、市販モデルとしてワールドプレミアに供されたファーストモデルである。
その名は、1939年のル・マン24時間レースで「ブガッティT57Gタンク」とともに優勝したドライバー、ピエール・ヴェイロンの名前から採られたという。
挟角V8エンジンを2基組み合わせた、複雑至極なW型16気筒8リッター+クアッド(4基)ターボのエンジンが発生する1001psのパワーを生かして、409km/hという市販車としては前人未到の最高速を達成。この数値をベンチマークとして、のちに「打倒ブガッティ」を標榜するフォロワーが続々と登場したことは、記憶に新しいところであろう。
あるいは、国内デビューに際して当時の日本総代理店「ニコル・レーシング」が設定した、1億7700万円というプライスまでがある種の記号性を帯び、「21世紀最初の10年を代表するスーパーカー」あるいは「ハイパーカーの先駆け」と称されることになった。
今回出品されたEB16.4ヴェイロンは、450台が製作されたという、スタンダード・ヴェイロンの1台である。13年前に新車としてスイス国内でデリバリーされ、これまでのオーナーは2人。合わせての走行距離は、まだ約5500kmに過ぎない。
このヴェイロンに対して、ボナムズ社と現オーナーが設定したエスティメート(推定落札価格)は、115万-135万スイスフラン。日本円に換算すると約1億3000万円-約1億6000万円に相当する。
このプライスは、デビュー時の車両価格を思えばなかなかの強気にも感じられるのだが、果たして20日の競売ではオーナー側で秘密裏に設定したリザーヴ(最低落札価格)には届かなかったようで、ボナムズ社営業部門による継続販売となっているようだ。
■1200ps版ヴェイロンは、クーペ or オープントップ、どちらが高い?
デビューののちのヴェイロンには、多種多様なビスポーク特装車両が少数のみ作られたほか、エンジンやボディに手を入れた派出モデルも、続々と設定されていった。
●2012 ブガッティ「ヴェイロン16.4スーパースポーツ」
2012年型「ヴェイロン・スーパースポーツ」も、派出モデルのひとつだ。2010年「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」にて世界初公開されたスーパースポーツは、もとより驚異的な高性能を誇るヴェイロンをベースに、さらなるブラッシュアップを図ったモデルで、30台ほどが生産された。
まずエクステリアでは、エアロダイナミックス性能にさらなる磨きをかけるべく、固定式ルーフを後方へ延長し、エンジンの上を完全にカバーするデザインとした。
フロントはエアインテーク開口部の拡大とデザイン変更をおこない、リアには大型のダブルディフューザーと、空力的デザインを盛り込んだ新エグゾーストシステムを採用。また、総カーボンファイバー製モノコックには新しいファイバー構造を導入し、ボディ剛性をアップしつつも軽量化を達成したとアピールされていた。
8リッターW16+4ターボのエンジンは、ターボチャージャーの大径化や大型インタークーラーなどを採用したことによって最高出力を1200psまでスープアップ。一方、サスペンションについてもスプリングやスタビライザーを強化。もともとはレーシングカー用に開発されたという専用設計のショックアブソーバーも採用し、このクルマの本分たる超ハイスピード域でのスタビリティを高めている。
そして、この恐るべき高性能を証明しようとした当時のブガッティは、この「16.4スーパースポーツ」のワールドプレミアに先立って、ドイツのVWグループのテストコースに車両を持ち込んで最高速チャレンジを実施した。
このスピード記録チャレンジでは、元F1ドライバーにして、2006年からブガッティの公式ドライバーを務めていたピエール・アンリ・ラファネル氏のドライブで2回の計測の平均値、431.072km/hが、市販車の新しいギネスブック世界最高速記録として正式に認定されることになった。
スーパースポーツの製作台数はわずか48台のみで、日本国内での販売価格は2億8900万円だったとされている。今回の「The Bonmont Sale 2020」に出品された車両は、スイスにデリバリーされ、現在に至るまでワンオーナー車。走行距離は693kmに過ぎない。
そして、ボナムズ社が設定したエスティメート(推定落札価格は)は、160万-210万スイスフラン、日本円換算では約1億9000万円-2億5000万円だったのだが、9月20日におこなわれた競売では184万スイスフラン、日本円換算で約2億1100万円でエスティメートに到達。無事落札となった。
ヴェイロン・シリーズのなかでも、ギネス記録更新に代表されるアイコニックな記号性を持ち、しかも希少であることが評価されての落札価格と推測されよう。
●2013 ブガッティ「ヴェイロン16.4 Gグランスポーツ・ヴィテッセ」
ボナムズ「The Bonmont Sale 2020」に出品された3台のヴェイロンのなかでも、究極の1台ともいえるのが「グランスポーツ・ヴィテッセ(Grand Sport VITESSE)」だろう。
いよいよモデルレンジ最終期を迎えていたヴェイロンに設定された、オープントップの「グランスポーツ」と最強版「スーパースポーツ」両方の要素を併せ持つ「グランスポーツ・ヴィテッセ」は、2011年3月のジュネーヴ・ショーにて世界初公開された。
VITESSEはフランス語で「スピード」を意味するとのこと。そのペットネームが示すとおり、グランスポーツに、スーパースポーツにも搭載される1200psスペックのパワートレインを搭載したモデルだった。
また、これまでのグランスポーツ以上にボディ剛性が高められていたほか、スーパースポーツに盛り込まれた空力チューンの多くが移植された。
最高速度は410km/hと公表されたが、実際の記録チャレンジでも408.84km/hをマーク。まさにオール in ワン、「全部乗せ」のようなヴェイロンながら、その推定落札価格は160万-210万スイスフラン、日本円換算では約1億9000万円-2億5000万円と、今回同時出品されたヴェイロン・スーパースポーツと同額とされていた。
オークションに出品されたのは、92台が製作されたグランスポーツ・ヴィテッセのひとつ。こちらもほかの2台と同様スイスで登録された。WEBカタログによると現在に至るまでワンオーナーで、走行距離はわずか577kmと発表されている。
そして20日の競売では、リザーヴ(最低落札価格)に届かず、こちらもボナムズ社営業部門による継続販売となってしまったようだ。流札に終わった理由としては、第三者が入札するオークションでは、前オーナーの印象が残りやすい、真っ赤なカラーリングが敬遠されたことなども考えられよう。
しかし、やはりスーパースポーツの2倍近い台数が製作されたことが、大きな要因のひとつとなってしまったことは否定できない。
グランスポーツ・ヴィテッセの92台も充分にレアといえる数字なのだが、やはり希少価値が重視されるこの世界では、製作台数は少なければ少ないほどプライスに反映されてしまうというのは、やむを得ないことなのだろう。
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