「全て頑丈」がいい訳ではない
クルマには、運悪く何かに衝突してしまった場合に備え、車体を意図的に潰して衝撃を吸収しドライバーを守る仕組みがあります。「クラッシャブルゾーン」や「クランプルゾーン」と呼ばれるもの。衝突を吸収するボディという発想はいつ頃できたのでしょうか。
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「クラッシャブルゾーン」という発想を最初に打ち出したのはメルセデス・ベンツでした。同メーカーは1939年から開発部門内で衝突安全性の研究に着手しており、事故時のドライバーの安全性や生存性を高める安全技術の開発を行っていました。
車体を潰して衝突を吸収するという設計思想は、ベンツの技術者だったベラ・バレニーという人物が発案したもの。画期的だったのは、「頑丈なことは安全である」という従来の考えを覆し、「壊れていいところはあえて壊す」という発想になったことです。
もちろん単純に壊れやすくするのではなく、フロントやエンジンルームなど人がいない場所はモノコックボディの骨組や張った鉄板にあえてつぶれやすい機構を作り、運転席や助手席のあるキャビンなど、ドライバーが生存に必要な場所はしっかりと強度を持たせるといものでした。そうすると、フロント部分はつぶれてしまいますが、その部分が衝撃吸収材となって、人がいる場所に加えられる衝撃が大きく軽減されます。
「クラッシャブルゾーン」の特許は、1951年にダイムラー・ベンツ(当時)から申請されます。
バレニーはまずセミモノコック構造を採用した1953年のメルセデス・ベンツ「180シリーズ(W120)」で「クラッシャブルゾーン」を設けた車両を初めて登場させ、その後、1959年に現代の衝撃吸収ボディの基本となるフルモノコック構造を、現在まで続くSクラスの前身である「220シリーズ(W111)」に搭載します。
さらに同年には、実車を使用した衝突実験を開始。これにより、実証実験の面でも世界の自動車メーカーをリードすることになります。
なお、「クラッシャブルゾーン」の特許を当時のダイムラー・ベンツは無償公開しました。それだけではなく、2500件に及ぶ完全関連の特許をベンツは全て無償で公開しています。これは、世界中のクルマが安全になることを配慮しての対応と言われており、ボルボも三点式シートベルトの特許で同様のことを行っています。
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