新型=3代目MT-09はエンジン・車体とも刷新
初代のヤマハ MT-09の登場は2014年のこと(初公開は2013年、発売が2014年)。
ネイキッドモデル+モタードマシンといった独自のイメージを打ち出し、ライディングポジション含め個性的な車体構成に新開発の並列3気筒エンジンを搭載。
その開発コンセプトは、乗り手の意思とシンクロするように操ることができる「シンクロナイズド・バフォーマンス・バイク」だった。
【画像28点】排気量拡大&徹底軽量化!新型ヤマハMT-09の進化ポイントを写真で解説
燃焼によって生じるトルクを効果的に用いるため、クランクシャフトマスによる慣性トルクを抑制し、ライダーのスロットル操作に応じる後輪への出力フィーリングを重視したクロスプレーンコンセプトに基づいた3気筒エンジン=CP3を採用したのが大きな特徴だ。
初代MT-09は、そのパワフルな出力特性によって非常にエキサイティングなマシンであると同時に、求めやすい価格も魅力のひとつだった。
しかし、より高い質感と、扱いやすさを求める市場の声を反映し、2017年登場した2代目はハード面を進化・熟成させ、スタイリングを大きく変えた。
翌2018年にはサスペンションを強化したMT-09 SPもラインナップに加えられ、この2代目でMT-09はほぼ完成の域に達したと思われていた。
しかし、今回の2021年モデルでエンジン・車体ともに新設計──つまりMT-09としては「初のフルモデルチェンジ」が行われ、さらなる質感と走りの向上を追求した3代目に生まれ変わったのである。
そのキーワードは「Torque&Agile」(トルクと素早さ)という初代から変わらないものだが、3代目の開発コンセプトは「The Rodeo Master」(ジャジャ馬使い)。
2代目では扱いやすさをテーマにしたものの、3代目は原点へと立ち返ったように思える。しかし、ただのジャジャ馬ではなく実はきっちりと調教が利いていおり、その完成度は素晴らしいのだ。
3代目MT-09のエンジン「845ccから888ccへ排気量を拡大」
未だ独創的である並列3気筒エンジンは、ヨーロッパで施行されている最新の環境規制「ユーロ5」に適合させるとともに内容を一新。従来型をベースにするものの、78mmのボアはそのままにストロークを59mmから62.1mmに延長し、排気量を845ccから888ccへ拡大(圧縮比は11.5と従来同等)。
同時にピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフトなど慣性部品も新設計し軽量化も追求されている。
その結果、最高出力は116psから120psへとアップしている。これはユーロ5適合による出力低下を補うための排気量拡大がもたらした「恩恵」といった感じだろうか。
フレームも新設計になって、エンジン搭載位置も従来の47.5度から52.3度へと若干引き起こされた。
吸排気音のサウンドチューニングにも相当こだわっている。
エアクリーナーボックスのファンネルは3本出し、車体下部にレイアウトされた排気系は1.5段の膨張室を採用したサイレンサーの出口を真下に向け、路面からの反射音がライダーへと跳ね返る構造としているのだ。
加速時には駆動力と吸排気音がよりシンクロするようなこれら工夫によって、走りのエキサイトメント性を向上させている。
新型MT-09の車体「軽量化を追求しつつ、ディメンションも大きく変更」
新設計のフレームは、ヤマハ自慢のCFアルミダイキャスト技術によって、最低肉厚1.7mmを実現した軽量アルミフレームを採用。薄さ3.5mmだったこれまでのフレームに比べると、シンプルな構成で滑らかな外観を見せる。
内容的には縦・横・ねじりといったフレーム剛性の最適化を施しており、特に横剛性に関してはエンジンのパワーアップに合わせて従来型から50%の剛性アップを果たしてエンジンの出力拡大に対応。
同時に、フレームとスイングアームで2.3kg、車体全体で約4kgもの軽量化が行われている。
中でも大きなフィーチャーは、ヤマハ独自の「スピンフォージドホイール」の採用だ。これは鍛造ホイールレベルの強度と軽さを鋳造製法で実現したもので、従来型に比べ前後合計で約700gの軽量化を達成している。
またステアリングのヘッドパイプ位置を従来型に比べ30mm下げており、ステアリング周りの位置を低くしてフロント荷重をかけやすくし、ハンドリングの自由度拡大を狙っている。
同時にシート高は従来型5mmアップの825mmとなって、ライディングポジションは心持ち前傾が強いものとなった。
倒立フロントフォークはインナーチューブ径41mm。プリロードを15mm幅で変えられ、減衰は伸び/圧とも11段階に調整可能。加えてリヤショックはリンクレイアウトを変更して、従来型よりもピッチングを抑えるセッティングとなった。
「軽快なハンドリングだが安定感もある」という矛盾を最新電子制御で両立
新型=3代目MT-09に乗ってみて最初に分かるのは、この車体全体を新設計したことによる洗練されたハンドリングだろう。
ハンドリングの軽快さは初代・2代目でも大きな特徴であり、いわばMT-09の個性であるが、3代目はそこにさらなるフロント周りの安定感、接地感が加わっている。
そもそも、特に初期型のMT-09では出力や車体に対して、その足まわりが高速・高荷重になると若干負けていた印象があったのは否めない。
この傾向は2代目にもやや感じられ、フルパワー全開の場合は、出力や車重の集中するバネ上の大きな質量とそれを支える足まわりの釣り合いがバランスせず、扱いに神経を使う場合もあった。
それは軽快感とのトレードオフの関係のようにも思えたが、3代目ではそういった気遣いも必要なく、試乗コースとなったクローズドコースにおける高速・高荷重時でもマシンを信頼して存分に振り回せた。
剛性バランスを変えた新フレーム、軽くコンパクトになった車体の効果だろうが、利点であった軽快なハンドリングはそのままに、低速から高速までの安定性、信頼性は大きく向上しているのだ。
エンジンはと言うと、従来型より「ややパワフル」といった感じだ。
排気量・最高出力ともに数値が向上しているので当たり前ではないかと言われるかもしれないが、注目すべきはフィーリングの変化だ。
軽く吹け上がるシャープさに若干、力強さというか重々しさが加わったフィーリングで、開けはじめの唐突さもなく、スムーズさに磨きをかけている。しかし、中低速の加速感は、初代MT-09の尖った感覚に近い。
3代目が大きく異なるのは、緻密な電子制御を採用したことでその出力や車体挙動を巧みにコントロールしている点だ(IMU=慣性計測装置の搭載はこの3代目が初)。
たとえばスロットルのラフな開閉を行っても、あるいは加減速のタイミングを誤っても、冷や汗をかくような危うい挙動を見せるようなことはほとんどない。
要は最新のスーパースポーツレベルに洗練されており、躊躇なくスロットルを開けていけるのだ。
その制御を司る6軸IMUユニットはヤマハ製で(*)、エンジンの状態、車両の挙動などを3次元的に解析し、トラクションコントロール、ウィリーコントロール、ABSなどにフィードバックされる。
*編集部註:多くのバイクメーカーがボッシュなど電装品メーカーのIMUを採用するのに対し、ヤマハは自社の車両に合わせた緻密なセッティングを追求し、IMUは自社製にこだわっているという。
ドライブモードは4段階になり、1がフルパワーで、2と3がスロットル操作に対する出力の過渡特性(バタフライバルブの制御)、4はレインモードで、過渡特性だけでなく出力そのものも抑制する。
ドライブモード1のフルパワーではMT-09本来のジャジャ馬ぶりが味わえる。
最高出力120psという数値だけ見るとリッタースーパースポーツに比べてマイルドに思えるかもしれないが、かなりダイレクトな出力や体感フィーリングはその数値以上のもので、かなりエキサイティングだ。
しかし、電子制御のおかげで車体挙動が大きく乱れることはないし、ハンドリングも安定感があり、車体もしっかり踏ん張ってくれる。
「きっちりと調教が利いている点が素晴らしい」と冒頭に書いたのは、このことである。
ドライブモード2と3はフルパワーまでの過渡特性(要は到達時間)が穏やかなので、ストリートやツーリングでは扱いやすくちょうど良いかもしれない。モード4以外の最高出力は同じだが、2と3であれば経験の少ないビギナーでも扱いやすいはずだ。
3代目MT-09は各々技量の異なる幅広いライダーがそのパワーに臆することなく、自分のペースで存分に走ることができるバイクではないだろうか。
このように、とてもエキサイティングでありながら信頼感を向上させた3代目MT-09であるが、唯一の不満はといえば全開加速からのフルブレーキングをした際に感じる足まわりのヨレや不安定感である。
理由は限界付近のダンピング不足かもしれない──もっともそういうシチュエーションはレーシングコースでの走行くらいしかないだろうが、あえてアラを探せばそういうことになるだろう。
3代目ヤマハ MT-09主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW<120ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2090 全幅:795 全高:1190 ホイールベース:1430 シート高:825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:189kg 燃料タンク容量:14L
[車体色]
ディープパープリッシュブルーメタリックC(ブルー)、マットダークグレーメタリック6(マットダークグレー)、パステルダークグレー(グレー)
[価格]
110万円
迷ったら買い!「MT-09 SP」が3代目MT-09真の姿だ
そして、その部分を見事に解消し、MT-09の持つポテンシャルをパーフェクトに堪能できるのが、2代目MT-09から登場した上級グレード、ハイスペックな前後サスペンションを装備した「MT-09 SP」だ。
フロントフォークはインナーチューブに摺動性の高いDLC(ダイヤモンドライクコーティング)を施したKYB製フルアジャスタブル。スタンダードの15mm幅プリロード調整に加え26段の伸側減衰調整を装備するほか、圧側減衰力は高速と低速で別個にセッティングが行える。
リヤショックは専用設計のオーリンズ製フルアジャスタブル。調整幅はプリロードが無段階の8mm、減衰特性は伸び側30段、圧側20段と、スーパースポーツレベルの足まわりが奢られている。
総じてMT-09 SPではダンピングの効いた落ち着いた動きで、スタンダードよりも加減速でのピッチングが抑えられている。これは乗ってすぐに分かる。
前述のフルブレーキング時の安定性、あるいはコーナー進入時の過渡特性、さらにはコーナー立ち上がりのスロットルオンにおけるリヤの踏ん張り感など、そのメリットは様々な場面で如実に感じられる。
たとえばサーキットでの高速走行などで、スタンダードだとコントロールを意識するシチュエーションでも、MT-09 SPなら意識しないで済むし、コーナーのライン取りを誤った際に修正を加える……なんてことも容易だ。
走行ペースも明らかにスタンダードより速くなるし、何よりもライディングプレジャーというものをこれほど感じさせるモデルもそうそうないだろう。
限界付近の絶対性能ではなく、普通の人間の扱える領域の限界付近で、マシンをコントロールして好きなように走らせることが楽しいのだ。
そしてスロットルを開けたいという衝動にちゃんと応えてくれる、そのトータルパッケージのレベルの高さは素晴らしいと思う。
スタンダードとSPのエンジンは全く同じ仕様だが、足まわりのグレードアップによってSPはほぼ別物といえる存在になっている。あるいは、3代目MT-09の持つ実力をフルに味わえるのがSPと言ってもいいだろう。
税込価格で16万5000円の違いがあるが、その価値は十二分にあると断言しても良い。
なおMT-09 SP専用装備として、4~6速使用時、速度レンジ50~180km/hのクルーズコントロールも追加されるので「自分はサーキットを走らないから……」というライダーであってもSPを選ぶ価値はあるはずだ。
ヤマハ MT-09 SP(2021年型)主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW<120ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2090 全幅:795 全高:1190 ホイールベース:1430 シート高:825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:190kg 燃料タンク容量:14L
[車体色]
ブラックメタリックX(ブラック)
[価格]
126万5000円
レポート●関谷守正 写真●山内潤也/ヤマハ 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
もしくは事故でフロント損傷して
なんとか帰っているようにみえる写真ですね。
これがいいって人もいるのでしょうが
初期のmt09 のようにスタンダードなデザインの方が
売れるような気がしてなりません。