スズキが新型コロナウイルス感染拡大に伴って操業を延期していたインド西部グジャラート州の工場を2021年4月から稼働することを決定した。スズキの21年3月通期業績見通しは、主力市場であるインドの四輪車販売が前年同期比20%減となることなどから、営業利益が同26%減と大幅減益となる見通し。インドでは依然として新型コロナ感染者や死者が高水準で発生している。先行き不透明さは増している中でスズキは新工場稼働という大きな賭けに打って出た。
足元は回復も楽観視できず 「現在のコロナの状況を見ると何が起こるか分からない。政府が重視するのが感染防止か、経済なのかも読みづらい。(先行きは)神のみぞ知るだ」(スズキ・鈴木俊宏社長)。
業績急回復のスバル、なお残る懸念材料 中間期黒字も先行き不透明
スズキにとってインドは世界販売の半分を占める主力市場だが、3月下旬から新型コロナの感染拡大でロックダウン(都市封鎖)が実施された。この影響でスズキの4月のインド販売はゼロとなり、5月も1万4000台程度にとどまった。インド販売の不振が業績を直撃、スズキの20年4~9月期の連結営業利益は同37%減の749億円だった。
ただ、足元では急回復している。4~6月期のインド販売は同82%減だったが、7~9月期は同20%増と前年を上回る水準となった。業績面でもインドに加え、国内販売が順調に回復したこともあって、4~6月期に13億円と赤字一歩手前にまで落ち込んだ営業利益は7~9月期に736億円と、四半期ベースでは前年を上回る水準にまで回復した。それでも先行き楽観視できる状況にない。
前年のインドの新車市場は低迷が続いており、もともと水準が低かった。20年7~9月期の営業利益は、一昨年の18年7~9月期と比べて10%減のレベルだ。さらにインドでは依然として新型コロナの感染者と死者が増え続けており、深刻な状況が続いている。再びロックダウンが実施される可能性も拭えない。
先行き不透明な中で、固定費の負担が増大する新工場の稼働をスズキが決断した理由は何故か。一つは収益力に対する自信の表れだ。
「ケチケチ経営」が本領発揮 スズキは生産設備などを、法定償却期間よりも大幅に短い平均3年間で償却するが、今回は一部の償却を先送りした。設備投資についても「不要不急」なものについてはすべて先送りした。さらに、テレワークの実施などによって出張費や交通費など経費の大幅削減を実行し、スズキが得意とする「ケチケチ経営」の本領を発揮。営業利益段階で、4~9月期に諸経費の削減と減価償却費だけで前年同期に比べて1000億円超の増益効果を生み出した。「非常態勢で経費削減を実行してきた」(鈴木社長)ことで、筋肉質な経営となり、これが7~9月期のV字回復につながった。
もう一つの理由が5割のシェアを握るインド市場で、今後も主導権を握り続けることに対する焦りだ。もともとグジャラートの新工場は、4月に操業開始する予定だったが、新型コロナ感染拡大で一旦、7月に延期した。その後、市場の先行きが不透明なことから稼働時期を未定としていた。新工場の生産能力は年間25万台で、稼働すれば固定費が膨らみ、稼働率が順調に上がらなければ経営の大きな重しになる。
一方、ライバルは積極投資に動いている。シェア2位の現代自動車はインドの工場の生産能力を増強したほか、グループの起亜自動車が昨年末、年産30万台規模の新工場を本格稼働し、新型車を相次いで投入、マルチ・スズキの追撃に本腰を入れている。
シェア50%キープのため、ギリギリの決断 スズキも、インドの販売をてこ入れするため、新型車の投入を計画しているが「新機種を生産する設備の手配などを考慮すると、新工場を来年4月までに稼働しないと、他の工場の生産にも支障が及ぶ」(鈴木社長)状況だった。かといって新型車の投入を遅らせることは、インド市場でシェアを奪われることになりかねない。シェア50%をキープするためにも、新工場の来年4月稼働はギリギリの決断だった。
筋肉質経営に対する自信と、ライバルに対する焦りから、工場稼働の勝負に出たスズキ。インド市場が順調に回復して、市場に受け入れられるモデルを投入できるかが、今後のスズキの業績のカギを握る。
(編集委員 野元 政宏)
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