一カ月にわたってマラネッロ(フィオラーノ)で開催されたイベント、“ウニベルソ・フェラーリ”が幕を閉じた。「何だそれは?」という方もいらっしゃると思うので、まずはその概要を簡単に記しておこう。
イタリア語のウニベルソとは英語でいうところのユニバースで、言うまでもなく“宇宙”とか“世界”という意味だ。つまり、件のイベントは“フェラーリの世界”とでも訳すのが適当だろう。同時にこのタイトルで、イベントの主旨は十分に説明されると思う。
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2018年に自動車オークション落札価格の世界記録を更新したこともある250GTO。当時出品された250GTOは、約54億円で落札された。©Lennen Descamps今年(2019年)もまたフェラーリにとって節目の年だった。スクーデリア・フェラーリ、正式名ソシエタ・アノニマ・スクーデリア・フェラーリの90周年。エンツォ・フェラーリが後のフェラーリ社の核となった自身のレーシングチーム(株式会社)をモデナに設立してちょうど90年が経ったというわけだ。ちなみに、これは有名な話だけれども、エンツォ自身がキャリアを積んだマシンも、またジェントルマン・ドライバーたちにスクーデリア・フェラーリを通じて供給したマシンも、当初はアルファロメオだった。
©Lennen Descamps“ウニベルソ・フェラーリ”イベントがフェラーリ本社(なかでもスクーデリア・フェラーリ部門)に隣接するテストトラック“フィオラーノ”の脇に設営されたのも、その90周年を祝うという意味が多分にあったと思う。会期はイタリアGPの開催される九月の一カ月。フィオラーノの奥に立てられた立派なイベント施設には、フェラーリの今と昔のハイライトが詰め込まれていた。
©Lennen Descampsフェラーリのすべてを体験できる終わったばかりのイベント会場のなかを振り返ってみよう。入ってすぐに出迎えてくれたのは、今期のGPシーズンを戦うF1マシン、SF90だった。その脇にはベルギー、イタリア、シンガポールと会期にまるで合わせたかのように3連勝した証、グランプリ・トロフィーが“さりげなく”展示されていた。
©Lennen Descamps隣の部屋へ移動すれば、いっきに過去へとタイムスリップ。そこは“フェラーリ・クラッシケ”と呼ばれるクラシック部門の展示で、ブース中央にはその価値50億円は下らないと言われる至宝のコレクターズアイテム250GTOが鎮座していた。フェラーリ・クラッシケでは過去モデルの認定(工場出荷時と同等の内容であることの証明)やレストレーションのみならず、最近ではアカデミーも開催し人気を博している。クラシック・フェラーリの扱い方や走らせ方をフィオラーノでみっちり学ぶというスペシャルプログラムだ。
さらにその奥の部屋へと進めば、そこにはフェラーリオーナーにとって究極であり対極にある2つの世界観が同時に展示されていた。
©Lennen Descampsひとつはカヴァルケード(直訳すれば馬車の行進)に代表される“GTライフスタイル”展示、もうひとつはFXXプログラムやF1クリエンテといったトラック活動を支援する“コルソ・クリエンティ&コンペティツィオーニGT”展示だ。6億円以上で取引されるラフェラーリ・アペルタやル・マン24hレースでクラス優勝した488GTEなどが飾られていた。
要するに、公道(グラントゥーリズモ)とサーキット(コンペティツィオーニ)という対極のシーンにおける究極のフェラーリライフを紹介するもの。いずれもフェラーリオーナーにとっては憧れの世界であり、そこに到達することをオーナーになってからの目標にするカスタマーも多い。
©Lennen Descampsモーターショーに代わる重要なブランディング食事にたとえるなら、もうこのあたりで満腹と言いたくなるところだが……。
フェラーリファンが狂喜乱舞したのはその先、今と近未来のスペースだった。そこにはモーターショーを模した巨大な空間が設営され、最新モデルのSF90ストラダーレやF8、既存ラインナップの812スーパーファストやGTC4ルッソ、ポルトフィーノが飾られていたほか、9月頭にこの場所でワールドプレミアされたばかりの新型モデル、812GTSとF8スパイダーにも“触ることができた”のだから!すべての個体が乗り込み自由で、訪れた人たちにとっては、フェラーリの今とこれからに触れることのできるまたとない機会となったことだろう。
最高出力720psを発生するF8スパイダー。リトラクタブルハードトップを採用しながらも、488ピスタやマクラーレン 720S スパイダーと同等の性能を誇る。基本的にオーナーやカスタマー向けのイベントで、世界中のフェラーリオーナーたちが正規代理店を通じて参加したが、9月の週末は2回にわたって一般客にも開放されていた(Web予約客のみ)。最新のフェラーリに触れる機会が彼らにとっていかに貴重だったかは、想像に難くない。
頭の天辺から足のつま先まで跳ね馬に満たされたシアワセな人たちが最後に出会うのは、イコナ・シリーズのSP1&SP2モンツァという限定モデル2台だ。なんと会期中にはVIPカスタマー向けの特別試乗会も開催されたという。
6.5リッターV型12気筒エンジンを搭載し、最高出力800psを発揮するモンスター級のオープンカー。フロントにV12エンジンを搭載するオープンカーとしては、ごく一部の限定車を除いておよそ50年ぶり。会期1カ月の間に1万4千人以上が訪れた。ミラノから約2時間、最寄りのボローニャ空港からでも1時間かかるこの聖地まで“わざわざ”やってくる跳ね馬血中濃度の高い人たち、と考えれば、モーターショーイベントでの数十万人レベルの集客に匹敵することだろう。奇しくも、9月の会期中にはフランクフルトショーが開催されており、マラネッロは今回、欠席している。
コマーシャル&マーケティング部門シニアバイスプレジデントのエンリコ・ガリエラ氏によれば、「モーターショーにはいろいろと制約があって、私たちの望む展示ができない。広さも施設も十分ではなく、せっかく来ていただいた方たちへのおもてなしも不十分になる。それではブランドイメージに関わると思い、自らこのようなイベントを開催することにした」と言う。
©Lennen Descampsフェラーリブースといえば、どのモーターショーでも最大の華だった。世界のブランドが一堂に介する場所で、その勇姿を拝めなくなっていくことは寂しい限りだけれども、恐らく、モーターショーのように多くのブランドをただ並べて比較鑑賞する大マーケティング時代が終わりつつあるということだろう。巨大百貨店と同じ、だ。
フェラーリ初の市販PHEV、SF90ストラダーレ。システム合計出力で1000psを発揮し、0-100km/h加速は2.5秒、0-200km/h加速は6.7秒を記録する。©Lennen Descamps総覧はネットやヴァーチャルで十分。その先、自ら実際にアシを向ける先は、気に入ったブランドのみ。となれば、わざわざやってくる人たちを落胆させないためにも企業側にはいっそうの工夫が望まれる。フェラーリの答が、“ウニベルソ”なのだった。
©Lennen Descampsマラネッロによれば、来年以降も同様のイベントを開催する予定だという。
シングルシート・ロードカーのMonza SP1。最高出力810psのV型12気筒エンジンを搭載しており、ルーフやウィンドウがない独特のプロポーションが特徴だ。©Lennen Descamps文・西川淳 写真・フェラーリ・ジャパン 編集・iconic
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