2021年4月にホンダから発表された「GB350」。早速このニューモデルに触れる機会に恵まれたので、あまり長い時間ではなかったが、興味深く試乗させていただいた。その時の模様をお届けしたい。ホンダは今回「ワクワクする楽しさを新しい形で提案している」という。はたしてその「新しい形」とは……。
文:竹山ケンタ/写真:南 孝幸、ホンダ
新たな空冷ビッグシングル
空冷ビッグシングルエンジンを積む現代に残るクラシカルなバイクというと、誰もが思い浮かべるのがヤマハのSR400だと思うが、今年ついに生産終了が決定した。
ホンダ「GB350 S」誕生! スタンダードモデルのGB350とともに詳細発表
これで空冷ビッグシングルのオンロードモデルは遂に終わってしまったか……と危ぶんでいたさなか、新たにこのカテゴリーに最新モデルが登場した。しかも、車体・エンジンともに現代の革新的な技術による新設計だという。
そもそもGBってナニ??
「GB」という車名は、かつて1983~1997年までホンダが発売していた、空冷シングルのオンロードスポーツモデルにつけられていたシリーズ名だ。
その車名がラインアップから消えて21年経った2021年、我々の前に再び現れたGBは、かつてよりクラシカルな350ccのバーチカル型空冷シングルエンジンを搭載しており、旧「スポーツ」GBとは少々趣が異なる。
GBは、SRに代わってこのビッグシングルカテゴリーの代名詞的存在になり得るだろうか。
音 × 振動 = 鼓動感
そもそも、ビッグシングルエンジンの気持ちよさとは何だろう。その質問をバイク乗りに尋ねると、「音がいい」「鼓動が気持ちいい」「ゆっくり走ってても超気持ちいい」などという言葉が返ってくる。また、同様のフレーズをメディア上でもよく目にする。
4ストロークのシングル=単気筒エンジンは、文字通りシリンダーが1組のエンジンである。そのため、燃焼の間隔が最も長く、発生する「振動」や「音」が一発一発はっきりと粒立っているのが特徴だ。
また多気筒に比べ、この一発一発で路面を蹴っているのを感じやすい。排気量が大きくなればなおのことだ。
これらの「音」「振動」「蹴る感覚」が複雑に絡み合いバランスしたものが「鼓動感」となって乗り手に伝わる。
鼓動感は「パルス感」「脈動感」とも言われる。人間の「脈」がドクン、ドクンとするように、エンジンが脈打ってるかのごとく乗り手に伝わる感覚だ。
これは、低回転域であるほど感じやすい。ゆっくり走って気持ちいい、心地よいと感じるのはそこだろう。
オンロードのバイクは、時代とともに多気筒化が進み、振動が少なくなり、高回転まで滑らかに回って速くて乗りやすい乗り物へと進化してきた。だが、ビッグシングルのこのような魅力には、昔から根強いファンがいるのもまた事実である。
ごく自然なライディングポジション
現車に近づいて見ると、クラシカルな丸型ヘッドライトにボリューム感のあるタンク、空冷フィンが美しい直立したシングルエンジンは、まさにビッグシングルの王道とも呼べる組み合わせ。
跨ってみると、ハンドルバーはやや絞り角(引き角)をつけて手前にセットされていて、自然に手を伸ばして握りやすいところにグリップがある。
ステップはシート真下よりも少し前よりのレイアウトで、リラックスした極々自然なライディングポジション。体格を問わず、ストレスなく堂々と乗れそうだ。
シート高は800mmと数値上では足つき性の良い部類に入るはずだが、シート下左右のサイドカバーの張り出しが大きいため、足を下に下ろす際に少々邪魔になる。身長170cm以下のライダーには足つき性が少し厳しく感じるかもしれない。
ボア×ストローク比70×90.5mm
やや低めに設定されたアイドリング回転は、シングル独特の心地良い排気音を生み出し、GB350が持つ世界へとライダーを誘うかのよう。
搭載されるエンジンは単気筒というだけではなく、今どきなかなか見ないほどのロングストロークの数値となっている。そのためか、走り出すと予想以上に鼓動感があり、路面を蹴り出す瞬間をめちゃくちゃダイレクトに感じられる。
低回転からスロットルをガバッと大きめに開けて加速をすると、力強いパルスの効いた迫力のある排気音とともに、これまで味わったことがないくらいに「息の長い」鼓動感を楽しめる。
シングルエンジンは、回転上昇とともに鼓動感が薄れて振動が増していくのだが、GB350はある程度回転を引っ張っても鼓動感が長く続き、その際の振動がとても少ない。味わい深い時間を長く堪能できるのである。
マフラーは重厚感とパルスを高めるサウンドチューニングにより、通り過ぎただけでGB350とわかる排気音を得ていて、日常使いの市街地だけでも気持ちよさ全開だ!
雑味のないクリアな味わい
今回の試乗にあたり「単気筒なので、ある程度の振動と手足のシビレは仕方ないかな?」と覚悟して臨んだのだが、高回転域でも(多少の微振動があるものの)不快に感じるレベルの振動がない。まずこれに驚いた。
GBの開発陣に聞いてみたところ、エンジン内部の2軸バランサー機構(従来の2軸バランサーとは構造が違う)で振動軽減を行なったのみで、車体の振動対策はしていないとのこと。つまり、エンジンそのものの振動対策がとても良くできているということになる。
試乗前に「ライダーが心地いいと感じる振動やパルス感のみを残し、不快に感じる振動は排除しました」と聞き、にわかには信じられなかったのだが、なるほど、見事にそれが実現されている。驚くほどに「雑味がないクリアな鼓動感」を作り出されているのだ。
ビッグシングルには振動が付き物で、それを愛するファンもいるが、ただ振動が多かったり、音が大きいだけっていうのは疲れてしまうし、不快に感じる事もあると僕は思う。
その点、今回のGBには不快な振動がほとんどない。なのに鼓動感はたっぷりとある。これは今まで感じたことがない、新鮮な感覚だ。
トルキーで乗りやすい
カタログスペック上では最大出力20PS/5,500rpmで、GBより排気量の小さいレブル250の26PSよりも少ないが、トルクは3.0kgf・mと350ccらしい数値。しかもそのトルクを、3,000rpmという低回転で発生する(レブルは2.2kgf・m / 7,750rpm)。
下からトルクがあるから、走り出しはもちろんいい。60~80km/h程度までの加速でも余裕があり、市街地やバイパスなどで交通の流れに乗るのに、パワー不足を感じる事はないだろう。
ちなみに、標準装備されるトルクコントロール(HSTC)は、未舗装路や濡れたグリップの低い路面でのスリップをアシストする、あくまで補助的な設定だ。
穏やかな乗り心地
サスのストローク量は前後とも120mmと、ごく一般的な数値。しかしながら、実際に乗るとそれ以上に感じる。有効ストロークを長く使い、ゆったりと良く動く、柔らかめのセッティングとなっている。そのため、路面追従性は良好である。
深くストロークした際は奥でも踏ん張り感がある。また、2人乗りをしても吸収性の良さは変わらず快適だ。
エンジンとフレームは、エンジン下部の前後とシリンダヘッド部で締結し、エンジンを車体の強度部材とするのが現代では通常の手法だ。
しかしGB350は、エンジン下部だけで4箇所の締結部を設け、シリンダヘッドとフレームは締結をしていない。これにより、フレームの「しなり特性」がうまく出ていて、穏やかな車体特性となっている。
これは乗ってもそのように感じられる。このフレームをうまく使った特性がエンジンのフィーリングとよくマッチしている。
安定性があるのに軽快なハンドリング特性
前19/後18インチのホイール径も安定性に寄与していて、ハンドリングは基本的に穏やかだ。しかし、ワインディングでの切り返しや市街地走行での操縦性はクセがなく、想像以上に軽やかであった。
標準装着タイヤのダンロップ・GT601は適度なコシ(踏ん張り)とボリューム感があって、吸収性がいい。また、横方向のヨレ感が少なく転がり感がいい。倒しこみが軽く感じる要因の一つなのであろう。
レブルシリーズをはじめ、近年のホンダ車は安定性と軽快感という相反する特性を両立する、魔法のようなハンドリング特性を作るのがとても上手だと思う。
ブレーキは、前後ともに油圧ディスク+ABSという現代バイクの標準的な仕様だ。
インド仕様がベースのモデルというと、インドの現地メーカーのモデルでリアブレーキの効き方が唐突なモデルもあった。今回の試乗では前後ともにブレーキのタッチ・効き方ともに適切で前後バランスも良く、不満は感じられなかった。
ABSの介入タイミングは適切で、気になる作動音もないし、制御も特に違和感はなし。緊急制動時にも大いに安心だ。
お気に入りポイントを発見
僕のお気に入りのポイントは、前側も後ろ側も下に踏み込んでシフト操作をできる(カブのような)シーソー式のシフトペダル。
シフトレバーの後ろ側、つまりカカトで踏む位置の高さ設定が絶妙。かなり時間をかけて設計検討されていたようで、操作性がバツグンによかった!
馴染みのないライダーも多いかもしれないが、このタイプはシフトアップ時にペダルをつま先でかき上げなくていいので、靴を汚したり痛めたりすることなく、確実にシフト操作ができるから、バイク用じゃないお気に入りのスニーカーやフォーマルな革靴でも、気兼ねなくバイクに乗って出かけられる。
この装備がGBの何たるかを語っているように思えた。
GBにする? それとも……
時代を逆行するように現代に産声をあげた空冷ビッグシングルエンジンのGB。その乗り味は、従来のクラシカルなビッグシングルとも、近年のヨーロッパ車に代表されるようなレーシーなものとも異なる。
これまで僕が出会った、どのバイクとも違う全く新しいものだ。
現代の技術により、ビッグシングルに乗る敷居の高さが見事に下げられている。そういった意味で、ヤマハのSRと比較するべき対象ではないように思う。
もし比べるならば、昔のGBと比べてどう?ではないだろうか。
最新のGBはスタイリッシュで大人っぽい色気があり、走ってみればどこを取ってもクセがなく乗りやすい。音もカッコいい。街乗りはうってつけだ。
日常の足としても扱いやすく、街乗りからレジャー、ツーリングをこなし、いつでもセルで簡単始動。常にフレンドリーで気軽に楽しめる空冷ビッグシングルだ。
ハイスピードなシチュエーション以外は、ほぼまんべんなくフォローでると思う。ビギナーからベテランまで、幅広い世代にオススメできる一台だ。
ただし、このクリアな鼓動感による新しい乗り味は、昔からあるビッグシングルのようなナチュラルな印象とは少々異なり、意図的に作り出された感があることは否めない。
これを、昔からのオールドシングルファンはどう受け止めるのだろう……。GB350のクリアな鼓動感を心地よく感じながら、そんな思いが頭をよぎった。
GB350/350Sの主なスペック
※《 》内はGB350 S
[ 表が省略されました。オリジナルサイトでご覧ください ]
[ アルバム : 【写真9枚】ホンダ「GB350」 はオリジナルサイトでご覧ください ]
GB350Sは、2021年7月15日(木)発売予定
既にたくさんの情報は出ているが、スタンダードに比べるとやや前傾になるライポジ(シート・ステップ位置も異なる)、より深いバンク角を確保したマフラー、フロントの剛性UPスタビライザー、リア17インチで太めのラジアルタイヤを採用したスポーティな仕様となっている。
開発陣によるとGB350S専用にFIのセッティングも変更したそうだ。どんな乗り味になっているのか、ベースモデルの完成度が高いだけに発売日が待ち遠しい。
文:竹山ケンタ/写真:南 孝幸、ホンダ
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