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類まれな世界最速「トラック」 ベントレー 4 1/2リッター(2) 唯一の本物コンディション

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類まれな世界最速「トラック」 ベントレー 4 1/2リッター(2) 唯一の本物コンディション

ベントレーが上位4位を独占した1929年

1929年のル・マン24時間レースに、ベントレーはワークスチームとして合計5台をエントリー。4 1/2リッター・ツアラーは4台態勢が組まれた。

【画像】100年前の技術的頂点 ベントレー 4 1/2リッター 3と4 1/4、8リッター 最新バトゥールも 全115枚

今回ご紹介するYW 5758も、その1台。ドライバーを努めたのは、創業者のWO.ベントレーが高く評価していたフランク・クレメント氏と、ジャン・シャサーニュ氏の2人だ。

残る3台は、グレン・キッドストン氏とジャック・ダンフィー氏、ダドリー・ベンジャフィールド氏とアンドレ・デランジェ氏、バーナード・ルービン氏とフランシス・カーゾン氏というペアが組まれた。

もう1台は、ベントレー・スピードシックス。ドライバーは、ウルフ・バーナート氏とヘンリー・ティム・バーキン氏へ任された。

WO.ベントレーは、優勝できるだけの速さで走るよう、チームへ指示。一時レースを大きくリードしたダンフィーは、マシンを停めカフェへ立ち寄り、休憩する場面もあったという。

ルービンとカーゾンのマシンは、3時間後に電気系統の不調でリタイア。YW 5758は順調で、ウエイトバラストの位置がズレたことが唯一のトラブルだった。ブレーキロッドへ干渉し、ピットインを余儀なくされた。

そこまで、スピードシックスに次ぐ2位を走行していたが、ピットアウト後は8位へ転落。だが午後10時を過ぎる頃には、ライバルのクライスラーとスタッツのマシンを追い越し、4位へ回復。ベントレーが上位4位までを独占する、見事な隊列が組まれた。

総合優勝は、スピードシックス。YW 5758は157周を走り、そのまま4位で完走を果たした。

望ましいオリジナルの風合いを保つ

レース後、ジャック・バークレー氏がYW 5758を購入。その後、複数人を経てベントレー・ドライバーズ・クラブを創設した1人、JP.エモンズ氏がオーナーになった。

前オーナー、ハリー・ローズ氏のもとへ渡ったのは1957年。彼は、ル・マン・クラシックなど、複数のイベントへ参戦している。現在のオーナーは、25年前に引き継いだイアン・アンドリュース氏だ。

「わたしはレーシングドライバーではないので、レースの戦績を追加することは難しいですね」。と本音を告げる。そのかわり、極めて価値の高いクルマが、好条件で保存されていることは間違いない。

コンクール・デレガンス水準でレストアしたいという誘惑と戦いながら、彼は望ましいオリジナルの風合いを保っている。戦前のワークス・ベントレーの中でも、唯一無二のコンディションだといっていい。

「このクルマには、類まれな歴史と魂が宿っています。オーラを感じますよね。歴史的な趣きは、お金では買うことができません」

2009年には、ペブルビーチ・コンクール・デレガンスへの出展を、ベントレーから提案された。しかし、コンクールには適さない見た目だと考え、1度は断ったらしい。実際は、リアルな雰囲気が評価され、クラス2位の栄冠を携えてアメリカから戻ってきた。

その年のペブルビーチには、3リッターや美しくレストアされた4 1/2リッター、ブロワー、スピードシックスなど、錚々たるベントレーが揃っていた。その中でも、最高位の賞だった。

世界最速のトラックと表現された勇姿

YW 5758は、2019年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスにも再び出展。ここでもクラス2位が与えられている。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードへの招待も、毎年のようにある。

当時のまま生き抜いた貴重なレーシング・ベントレーは、筆者の心を震わせる。ボンネットが高く、ラジエターグリルには約100年前のル・マンで振られた8番のゼッケン。エットーレ・ブガッティ氏が、「世界最速のトラック」と表現した勇姿へ息を呑む。

サイクルフェンダーもオリジナル。当時は19インチのワイヤーホイールだったが、現在は21インチを覆っている。レザーで仕立てられたドライバーズ・シートをめくると、シート高を調整できるインフレータブル・バッグが姿を表す。

助手席側のドアパネルには、安全な旅を願ったセントクリストファーのメダル。足元には、深夜の修理で活躍する携行ライトが用意されている。これらもすべて当時物だ。

エンジンのアンダートレイもオリジナル。リアアクスルの後ろに積まれた、巨大なガソリンタンクと、その保護材も。

麻が巻かれた、ステアリングホイールの直径は20インチ。バークレーとクレメントが、まさにサルト・サーキットでマシンと格闘していた場所だ。7枚のメーターが、一見無秩序なようにダッシュボードへ並んでいる。

往年のル・マンでの白熱を体感できる本物

点火用のマグネトースイッチは右側。巨大なタコメーターはイェーガー社製で、4000rpmでレッドライン。リアシート部分は、フロントシート直後のバルクヘッドから伸びるトノカバーで覆われ、特有のサイドシルエットを生み出している。

4.4L直列4気筒エンジンを目覚めさせると、ストレートパイプから放たれる圧巻の排気音が周囲に充満する。アイドリング時の回転数は高め。フロアから伸びる、アクセルペダルは中央。僅かに押し込むと、すかさず回転が上昇する。

車重は1625kgと、当時のマシンとしては平均的な重さ。進み始めると、ガシッとソリッドな印象へ感心してしまう。操縦系の手応えにも、それと通じる重厚感がある。

4速マニュアルのレバーをゆっくり傾ける。滑らかに、次のギアへ切り替わる。使われなくなって久しい、ブルックランズ・サーキットの路面はすっかり荒れているが、短いストレートを軽く飛ばしてみる。

この3倍ものスピードで、同時のドライバーが耐えていたのかと想像すると、胸が熱くなる。相当な集中力が必要だったに違いない。小さなエアロスクリーンに身を屈めながら、チェッカーフラッグを追い求めたのだ。

YW 5758以上に、往年のル・マンでの白熱を体感できるマシンは極めて少ない。何しろ、すべてが本物なのだから。

協力:ブルックランズ博物館、アラン・ウィン氏

ベントレー 4 1/2リッター(市販モデル/1927~1931年/英国仕様)のスペック

英国価格:−ポンド(新車時)/50万ポンド(約9600万円/現在)以下
生産数:667台
全長:4380mm
全幅:1740mm
全高:−mm
最高速度:144km/h
0-96km/h加速:−秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1625kg
パワートレイン:直列4気筒4398cc 自然吸気OHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:111ps
最大トルク:−kg-m
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)

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