様々な道をこなすプロセスこそ真価
アルファ・ロメオ側から電話があり、スイス経由が許された。ステルヴィオ峠以外のルートは調べておらず、既に日は傾いている。それでもイタリア北部の町、ソンドリオをスイス経由で向かう方が間違いなく楽しい。
【画像】はかなく素晴らしい アルファ・ロメオ・ジュリア GTAm 往年のスプリント GTAも 全84枚
国境へ近い、ズルデルノから西へ走る。琥珀色に染まった森を抜けて、道路は緩やかに上昇していく。オフェン峠が目前に迫る。岩肌が露出し、標高は2149mもある。路面は荒れていて、流れるように気持ちの良いカーブが続くルートではない。道幅も狭い。
ダンパーが硬くなり、エグゾースト・バルブが開き、EPSが無効になるレース・モードを選ぶ。別名、モンテカルロ・モードだ。ジュリア GTAmのスピードを上げる。
ジュリア・クアドリフォリオが抱えていた、過冷却気味なことや、トルクベクタリング・デフの効きの予測の難しさといった点は、GTAmでも共通している。それでも、水を得た魚のように機敏に走る。
コーナーでは簡単にテールススライドへ持ち込めるが、リアデフはあまりロックしたがらない。それでも不思議なほど、アルプス山脈では気にならない。
GTAmの真価は、様々な道をこなすプロセスにある。ミドシップ・レイアウトのように、小さい慣性で旋回する仕草や、スピードを速めたいという欲望を駆り立てる演出は、他に例がない。
クイックなステアリングに、柔軟なサスペンションが組み合わされている。そこへ、レスポンシブなV6ターボエンジンに、漸進的に効くカーボンセラミック・ブレーキが融合。GTAmという全体像が完成している。
本能的にワインディングを目指してしまう
より速いモデルも、よりダイナミックな走りを楽しめるモデルもある。しかし感覚としては、それ以上に速く、ドライバーへ訴えかける印象が濃い。それこそGTAm最大の特長だろう。多くのドライバーへ、魔法をかけるような仕上がりだ。
辺りは暗くなり、オフェン峠を下る。地形はなだらかになるが、まだアルプス山脈の中にいる。路肩には断崖が迫り、視界も悪い。気が抜けない区間が続く。
渓谷へ沿うように、サンモリッツ経由でソンドリオの町を目指す。途中、標高2383mのベルニーナ峠へも立ち寄った。ローラーコースターのように曲がりくねり、ヘアピンカーブも連続している。夜間でも、集中していれば素晴らしい道だ。
ジュリア GTAmは、ピタリと正確にラインをたどる。幅の広いトレッドを活かし、乾燥したアスファルトを確実に掴む。ひたすらに愛おしい。
既に数時間も、チャレンジングなルートを運転している。それでも、別のワインディングへ続く交差点へ出くわしたら、本能的に、義務的に、曲がってしまう。魔法へ掛けられたように。
気付くとイタリア国境を超えていて、盆地に佇む小さなソンドリオへたどり着いた。すっかりGTAmは汚れてしまった。後ろを走ってきた、地元のフィアット・パンダ並みに。
一晩を明かし、翌日のランチタイムにはイタリア北部のバロッコ試験場へ到着した。アルファ・ロメオにまつわる、様々な思いが入り乱れる。
はかなく素晴らしいアルファ・ロメオ
2021年の英国では、1574台のアルファ・ロメオが売れた。メルセデス・ベンツより9万6371台も少ない。世界的な販売台数も、喜べるものではないようだ。サルーンとクロスオーバーの、優れたモデルを揃えているにも関わらず。
もうじき発売されるクロスオーバーのトナーレと、プジョー2008がベースの純EVが、改善してくれるかもしれない。それでも、抜本的にブランドを活気づけることは難しいように思う。
ステルヴィオとジュリアには、販売を上向かせる動向はない。8Cの後継モデルに相当したミドシップと、600psのジュリア・クーペの計画は、頓挫したようだ。
キーをバロッコの担当者へ渡し、1600kmをともにしたジュリア GTAmを離れる。眺めるだけで心が奪われるアルファ・ロメオと、次はいつ出会えるのだろう。
アルファ・ロメオを一層特別な存在にしている理由の1つは、そのモデルのはかなさにある。才能を受け継いだ次期モデルが登場するまでに、長い月日が必要になるかもしれない。すぐに改良を加え、新型へ落とし込むBMWとは違う。
高度な技術力と情熱を備えていても、製品へ一貫して展開するという姿勢も心もとない。自信さえも揺らいでいるようだ。その点で、アルファ・ロメオはホンダとも似ている。
新CEO、ジャン・フィリップ・インパラト氏は、悩めるブランドを変えられるかもしれない。だが、相当難しい課題になるだろう。
ぜひ新CEOには、一度バロッコの試験場でジュリア GTAmを思い切り走らせて欲しい。1時間で充分。アルファ・ロメオが素晴らしいと、体験できるに違いない。
アルファ・ロメオ・ジュリア GTAm(欧州仕様)のスペック
英国価格:15万ポンド(2310万円/予想)
全長:4669mm
全幅:1923mm
全高:1397mm
最高速度:307km/h
0-100km/h加速:3.6秒
燃費:9.3km/L
CO2排出量:244g/km
車両重量:1540kg
パワートレイン:V型6気筒2981ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:540ps/6500rpm
最大トルク:61.1kg-m/2500rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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