最初に断っておくが、ボクはフェラーリマニアではない。また、スーパーカーに憧れていたわけでもない。ごくごく普通のクルマ好きであると自負する。
所有してきたクルマも、ちょっと変わっているかもしれないが、どれもフェラーリと比べれば常識的であると思う。参考までに述べると、BMWの初代「1シリーズ」にはじまり、アウディ「A1」、スマート「フォーツー カブリオ」、ボルボ「C70」、DS「3 カブリオ」、アバルト「500」、ルノー「トゥインゴGT」、そして今、乗っているのがアルファロメオ「ジュリア」だ。
100万ドルのフェラーリほど美しいクルマはないかもしれない──フェラーリ モンザSP1 日本初上陸!
お気づきかもしれないが、直近4台はイタリア/フランス車を乗り継いできた。ドイツブランドが大半をしめる日本の輸入車市場においては、依然どれも個性あるクルマかもしれないが、これらについても確固たる志を持って購入したか? と、問われればそうでもない。
アバルトは「MT車に乗るべし」と、某レーシングドライバーの勧めに感化され購入し(べつにアバルトでなくてもよかった)、トゥインゴは「ドアがやっぱり4枚欲しいし、オートエアコンもあれば便利……」と、快適性(アバルトに比べて)を求めて乗り換え、そしてジュリアへの代替動機にいたっては「気楽なAT車に乗りたいし、先進安全装備も魅力的!」と、MT車への思いはどこへやら……。どれも、場当たり的に乗り換えてきたのであった。しかもほとんどは、半年から1年単位で乗り換えているうえ、新車である。1台のクルマを長く乗るユーザーには信じられない話だろうし、下取り価格を考えれば「なんてもったいないことを……」と、思う読者も多いはず。
しかし、何台ものクルマを取っ替え引っ替え乗るのも案外悪くない。仕事柄、メーカーが所有するクルマに乗る機会が多いものの、自身で所有すると、新たな発見があったりして面白いのだ。たとえば、トゥインゴGTのシートヒーターは異様に早く、しかも驚くほど暖かくなるし、ジュリアのオーディオシステム(ハーマン・カードン製)は想像以上にいい音を奏でる。どれも、チョイ乗りでは気づけなかった。
また、クルマの買い替えによって、仕事のモチベーションがアップしたり、気分転換になったりするから、自身の人生にとって少なからずプラスになっていると思う。
とはいえ、さすがにフェラーリは飛躍し過ぎではないか? と、思う読者は多いはずだ。ボクでさえ「本当に大丈夫か?」と、半信半疑である。でも、しょうがない。偶然、出会ってしまったのだから。
愛車となった「360モデナ」に出会ったのは、神奈川県を中心にアルファロメオやプジョーなどの正規ディーラーを展開する「GST」のバックヤードだった。
DS 3から今のジュリアにいたるまで、ボクは一貫してGSTでクルマを買い替え続けている。しかも、担当者はおなじだ。ボクがイタリア/フランス車を乗り継いできたもうひとつの理由は、担当者との長年にわたる付き合いによるところも大きい。気づけば10年以上の付き合いだ。
実は高校生だったころ、ほんの少しのあいだ、GSTの店舗でアルバイトをしていた。そのときお世話になった営業マンこそ、今、ボクがお世話になっている担当者だ。当時「いずれ大人になったとき、GSTでクルマを買います」と、宣言したことが果たして、7年後、本当に実現してしまった。
それからというもの、担当者からの勧めもあり、頻繁に乗り換えてきた。とはいえ、今回のフェラーリは勧められて購入したわけではない。
2019年1月、ジュリアのフロントソナーが不調ではないか? と、思いディーラーへ持ち込んだ。担当者から「1度、不調か正常かテストしてみましょう」と提案され、バックヤードへクルマを移動した。
バックヤードには多数のフィアットやアルファロメオが並ぶなか、なぜかフェラーリがポツンと置いてあった。濃紺の360モデナは、雨が降ったせいもあり、お世辞にも綺麗な状態ではなかった。
「あのフェラーリはなんですか?」と、担当者に聞いたところ「気づいちゃった?」と、見せてはいけないものを見せてしまったかのような「しまった!」という表情に変わった。理由はわかる。なぜなら、ボクが1度でも興味を持ってしまったクルマに、たいてい乗り替えてしてしまうからだ(ちなみに担当者は、ジュリア クアドリフォリオに乗り換えて欲しかったらしい)。
聞くと、置いてあった360モデナは下取り車であるという。ワンオーナーで整備をきちんと受けてきたそうで、しかも前オーナーは何台もクルマを所有する素封家というから程度は良さそうだ。
「この360モデナはどうされるんですか?」と、質問すると、担当者は「まだ未定だけど、欲しいの?」と、聞いてきた。詳しい程度も聞いていないのに「価格次第なら!」と、思わず返答してしまった。なにか運命的な出会いを感じたのだ。
早速、確認してもらったところ、「正確な金額はまだわからないけど……」と、前置きしつつ提示された数字は、想像より安価であった。その瞬間、「これは神様が『買いなさい』と、言っているのだ!」と、都合のいい解釈をし、購入への意志を固めていくのであった。
フェラーリの歴史にそれほど詳しくないし、360モデナがどんなクルマかもあまり知らないうえ、維持費をまったく考えていないにもかかわらず、「買おう!」と決めたのは、今振り返るとずいぶん無謀であったと思うばかりだ。
数日後、販売価格が決定した。ボクが購入可能な金額である。おなじ金額を出せば新車のポルシェやメルセデスAMG(どちらも機種によるが)も購入出来るが、どうでもよかった。頭のなかはすっかりフェラーリで一色だった。
とはいえ、ボクはフェラーリに疎い。周囲に購入を相談すると「すごいね!」と言われるも、「やめたほうがいいのでは?」と、心配された。でも、心配されるほど興味が湧いてきたのも事実。“冒険心”が芽生えてきたのだ。
くわえて、自動車ジャーナリズムにかかわる業界でも、フェラーリに乗る人はほとんどいない。人と被るのをあまり好まない筆者としては、唯一無二の個性にも惹かれたのであった。
かくして、印鑑証明と実印を携えディーラーに向かったボクは、はじめて実車に触れたのであった。ちなみに、フェラーリに乗ったのは人生初である。
とりあえず、エンジンをかけてみる。一発で始動したV8エンジンの音は荒々しい。これがフェラーリサウンドか! と、フェラーリサウンドがなんたるかもよくわかっていないのに感動する。恐る恐るアクセルを踏み、エンジンを吹かすと、回転数の上昇にあわせ、エンジン音が“ブォーン”と官能的に高まる。「フェラーリ、すごいではないか!」と、すっかり感動してしまった。
くわえて、インテリアのヤレはほとんどない。エアコンもちゃんと動くし、プラスチックのベタつきもない。純正工具もしっかり備わっている。走行距離も2万km弱と少ない。なんといってもワンオーナーだ。
完備していた整備記録簿を読む限り、問題はあまりなさそうだ。発注当時のオプションリストまでしっかり残っている。大切に扱われてきたのだろう。
とはいえ、フェラーリだ。いくらコンディションがいいとはいえ、維持にどれほど費用が必要か未知数だ。とりわけ、ミッションはF1マチックである。乗り方にもよるが、場合によってはクラッチ交換などに多額の金額を要する。
一瞬、「どうしようか……」と、悩んだものの、最終的に「距離を走らないから問題ない」という結論にいたった。
クルマ関係の仕事に就いてからめっきり愛車に乗る回数が減った。そのため、所有車の走行距離はまったく伸びなくなった。今乗っているジュリアは半年で約3000km、以前のトゥインゴGTは1年で約4000kmしか乗らなかった。この2台以上に実用性の低いフェラーリであるがゆえ、きっとほとんど乗らないはずだ。思うに、半年で2000kmも走らない気がする。だから、故障のリスクは問題なし! と、(都合よく)判断したのだ。
決心した。ボクはフェラーリを買うことを。まだ解決すべき事象はあったにもかかわらず、契約書に押印した。若気の至りとはなんとも恐ろしい限りである。
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