いすゞといえば、トラックやバスを生産・販売するメーカーとして知られているが、かつては乗用車を生産・販売していたことをご存じだろうか?
1916年に創業したいすゞは、自動車および船舶、産業用のディーゼルエンジンを得意とし、戦後はトラックやバスなど大型ディーゼル車両の生産で日本を代表するメーカーとなり、1953年以降は、英国ヒルマン社のノックダウン生産(ヒルマンミンクス)から乗用車生産にも進出、総合自動車メーカーを目指した。
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かつてはトヨタ、日産とともに日本自動車界の御三家ともいわれていたのだ。
そして、1993年には小型乗用車の自社開発・生産を中止し、ホンダなど他社からのOEM供給のみとなり、商用車、SUVの生産、販売に経営資源の集中を図った。
2002年9月30日には、さらなる経営資源の集中を図るため、日本国内での乗用車部門から完全撤退し、商用車に専念することとなった。
こうして乗用車部門から完全撤退したいすゞだが、自社生産したクルマたちを見ていくと独創的なデザインの名車が多い。
しかし、ベレット、117クーペ、ピアッツァ、FFジェミニ、ビークロスと、現在流通している、いすゞ車の中古車価格を見ていくと、昨今の旧車ブームの影響で高騰している他メーカー車に比べ、あまり値が上がっておらず、お買い得なようにも思える。
そこで、改めてモータージャーナリストの萩原文博氏に、各いすゞ車の中古車相場を調査してもらい、なぜ高騰していないのか、徹底解説!
文/萩原文博
写真/ベストカーWeb編集部 いすゞ
【画像ギャラリー】思わず見とれてしまう美しいデザインのいすゞ車たち
いすゞ車の中古車価格を徹底調査!
いすゞのクルマはデザインが優れたクルマが多い。写真はビークロス
いすゞ自動車といえば、現在はバスやトラックといった商用車を製造・販売している自動車メーカーだが1993年までは小型乗用車の開発・製造を行い、2002年までは日本国内で乗用車の販売も行っていた。
さらに、歴史を遡ると第1回日本GPが開催された1963年から1973年までいすゞはワークス体制でレースに参戦していた自動車メーカーだったのだ。
1993年、小型乗用車の開発・製造が中止された後は業務提携している自動車メーカーからOEM供給を受けたクルマを中心に販売していた。例えば、ミドルセダンのアスカはホンダアコード。コンパクトセダンのジェミニはドマーニ。ミニバンのフィリーは日産エルグランドだった。
一方、SUV系のビッグホーン、ミュー/ミューウィザード、ウィザード/ウィザードアライブ、ビークロスなどの自社開発車が2002年まで販売された。
今回はいすゞが自社が開発・生産した純いすゞ車の中古車相場を紹介していこう。
現在、いすゞの中古車の流通台数は約2580台。そのうち乗用車は約125台で、ほとんどは商用車というのが現状だ。そのいすゞの中古車のなかで約28台と最も多いのが、117クーペと2代目ビッグホーンとなっている。
117クーペ/1968~1981年
1968年12月から約3年間で月産30~50台、2458台が生産されたハンドメイドの117クーペ(価格は172万円)。ハンドメイドモデルはヘッドライト下にターンレンズが装着されている
1973年3月~1977年12月まで生産された丸目の117クーペ
まずは、いすゞを代表する名車の1台である117クーペを紹介しよう。117クーペは1968~1981年まで販売された2ドアクーペで、デザインは若きG・ジウジアーロが担当した。
1968~1972の初期モデルは「ハンドメイド」と呼ばれており、月産30~50台という小ロット生産だった。
1973年に機械によるプレス成形に目処が立ち、量産体制が整った。そして1977年にマイナーチェンジが行われ、丸型のヘッドライトが角型へと変更された。
搭載されているエンジンは多岐に渡っているが、なんといっても、いすゞ初の量産DOHCエンジン、1.6L、直4エンジンを搭載していることがポイントだ。
現在、28台の中古車が流通している117クーペの価格帯は約117万~約468万円で、最高価格車は1971年のハンドメイドで走行距離4.7万kmの468万円となっている。
丸いヘッドライトの前期型は170万円以上のプライスが付いており、角型ヘッドライトとなったマイナーチェンジ後はほとんどが160万円以下のプライスとなっている。
1970年代を代表する国産名車が100万円台でまだ購入できるのは旧車ファンにとっては朗報といえるだろう。
1977年12月以降の角目117クーペ
上の写真をクリックすると117クーペの中古車情報が見られます!
2代目ビッグホーン/1991~2002年
ビッグホーンのなかでも一番人気だったのはハンドリングバイロータス
続いてビッグホーン。中古車は初代が2台、2代目が約28台流通している。ここでは流通台数の多い2代目に絞って紹介する。
2代目ビッグホーンは1991年に登場。当初は5ドアのロングボディだけで、3ドアのショートボディは1992年に追加された。
搭載されたエンジンは3.1L、直4ディーゼルターボ、そして3.2L、V6ガソリンエンジンの2種類。
ガソリンエンジン車には、ハンドリングバイロータス、イルムシャーという海外のブランドがチューニングを施したモデルを設定。
最もホットモデルの3ドアイルムシャーRSは5速MTのみが組み合わされていた。1995年、そして1998年にマイナーチェンジを行い、1998年はディーゼルエンジンがコモンレール式直噴に変更。またガソリンエンジンは排気量を3.5Lへとアップさせ、2002年まで販売された。
現在、2代目ビッグホーンの中古車の価格帯は約80万~約140万円。グレードでは後期型の3.5プレジールIIロング4WDが約6台で最も多く、次いで、3.0DTプレジールロング4WDと3.0DTプレジールIIロング4WDが約5台となる。
ホットモデルのイルムシャーはガソリンエンジン車がなく、ディーゼル車がわずか2台流通している程度だ。
ハンドリングバイロータスもわずか2台しかないが、この2台が現在100万円以上の価格を付けている。こうして見ると、ビッグホーンはハンドリングバイロータスの人気が高いというのは、昔から変わっていない。
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FFジェミニ/1985~1990年
街の遊撃手というキャッチコピーで人気だったFFジェミニ
ホイールのデザインが斬新だったジェミニイルムシャー
続いてコンパクトセダンのジェミニ。最終型はドマーニのOEM車だったが、中古車として流通しているのは、いすゞが生産した3代目まで主流。
そのなかで流通台数が最も多いのは5台で1985年にFFジェミニの名前で登場した2代目だ。
「街の遊撃手」というキャッチコピーともに、2台のジェミニがまるで社交ダンスを踊っているかのように街を走るTV-CFを覚えている人も多いはず。
1987年にはサイドマーカーを回り込ませた通称つり目といわれるフォグランプ一体の異型ヘッドランプを採用したほか、同時にグリル形状も変更された。
また、1986年にドイツのチューニングメーカーであるイルムシャーが手がけた1.5Lターボエンジンを搭載したスポーティモデルのイルムシャー、1988年には1.6Lエンジンを搭載し、イギリスのスポーツカーブランド、ロータスがチューニングした、ZZハンドリングバイロータスが通過されるなど、スポーティグレードを設定している。
流通している中古車もこのイルムシャーやハンドリングバイロータスが中心で、価格帯は約37万~約80万円となっている。
1990年に登場した3代目ジェミニの中古車は4台が流通していて、価格帯は約38万~約86万円でこちらもイルムシャーが中心となっている。
現在ジェミニの中古車で100万円以上のプライスが付いているのは初代ジェミニのFRモデルだけで、価格帯は約79万~約220万円。
すべて1979年のマイナーチェンジ後のモデルとなっている。グレードでは、1.8L、直4DOHCエンジンを搭載したZZ-Rが最も多くなっている。
2代目ジェミニのハンドリングバイロータス
ハンドリングバイロータスのコクピット
レカロシートを装着したハンドリングバイロータス
上の写真をクリックするとジェミニの中古車情報が見られます!
ベレット/1963~1973年
いすゞが誇る名車、ベレットGT-R
そのほかのモデルで流通台数が多いのは、9台流通しているベレット。ベレットは1963~1973年まで販売されたモデルで、いすゞのレースにおけるワークス活動を支えた一台だ。
スポーティモデルは、日本初のディスクブレーキを採用し、四輪独立サスペンションによって当時国産車のなかでは抜群の運動性能を誇り、日本で初めてGT(グランツーリスモ)というグレードを設定した。
ベレットというと1.6L、直4DOHCエンジンを搭載したGT-R(後期型はGT typeR)を思い浮かべるが残念ながら現在は流通していない。過去の販売車両のを調べると400万円前後で販売されていた。
現在ベレットの中古車の価格帯は約150万~約295万円で、1800GTが主力となっている。ノーマル車だけでなく、公認車検をとったレース仕様車も販売されている。
上の中古車情報をクリックするとベレットの中古車情報が見られます!
ピアッツァ/1981~1991年
1981年に登場したピアッツァはG・ジウジアーロのデザイン
ピアッツァの元になったコンセプトカー、アッソ・ディ・フィオーリ(1979年発表)
続いて5台の中古車が流通している3ドアクーペのピアッツァ。5台のうち3台が1981~1991年まで販売された初代モデルとなる。
ピアッツァは117クーペの後継車ということもあり、デザインはG・ジウジアーロが担当し、ほぼコンセプトカーのアッソ・ディ・フィオーリのイメージを保ったまま量産化されているのが特徴だ。
初代ピアッツァの中古車の価格帯は約148万~約160万円でやや値上がり傾向がみられる。販売開始から約40年も経過しているにも関わらず、ノーマルコンディションのクルマが多いという奇跡に近い状況だ。
1981年に登場したピアッツァは、1983年にマイナーチェンジが行われ、ドアミラーを装着。
1984年には前年に登場したアスカ用エンジンにインタークーラー付きターボエンジンを搭載したモデルを投入(XE、XS)。最高出力は180psで、当時、2LのSOHCエンジンとしては最も高出力だった。
航空機のコクピットを思わせるピアッツァのコクピットデザイン
そして1985年には旧ドイツのチューナー、イルムシャーに足回りのチューニングを依頼したイルムシャーグレードを追加。
MOMO製ステアリング、レカロ製シートを装着し、イルムシャーシリーズ専用デザインのフルホイールカバーを装着したスポーティな外観を持っていた。
1987年には一部改良され、テールランプの大型化やアルミホイールの意匠変更、コンソール/ステアリングのデザイン変更を受けた。
また1984年から受注生産となった1.9L、DOHCを廃止。2L版の出力表示をネット化(180psは150psに、1.9L、SOHCはグロス表示の120psのまま)。
1988年にはロータス社との技術提携により、ハンドリングバイロータスを追加。MOMO製ステアリング、ロータスチューンドサスペンション、BBS製2ピースアルミホイールなどを装備。
このモデルで国内モデルでは初めてリアサスペンション形式が変更され、それまでの3リンクから5リンクとなった。また1.9L版が廃止され、2Lターボに一本化された。
イルムシャー、ハンドリングバイロータス以外にも、ヤナセによって販売されたピアッツァネロがある。
これは、1971年以降GM傘下であって国内販売網の拡大を意図したいすゞと、日本におけるGM車の正式な輸入代理店であり、販売車種の拡大を意図したヤナセとの提携によって生まれたモデルである。
ネロはイタリア語で黒を意味するもので、ブラックやピンストライプが入れられ、1984年には異形2灯ヘッドライトからインパルス(ピアッツアの輸出仕様)用の異形4灯に変更され、さらに1988年にはインパルス用のボンネットフードが採用され、可動式ヘッドライトカバーが廃止された。
そしてデビューから約10年が経つ1991年8月に販売が終了した。
初代ピアッツァの中古車は、数年前には100万円以下も見られたが、現在値上がり傾向にあるので、今が手に入れる最後のチャンスかもしれない。
一方の1991年に登場した2代目ピアッツァの中古車は約100万円のプライスが付いており、やはり人気は圧倒的に初期型に軍配が上がる。
1985年に追加されたピアッツァイルムシャー
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ビークロス/1997~2000年
今見ても色褪せないデザインのビークロスが100万円以下で買えるとは驚き
セミハンドメイドであったにもかかわらず、発表当時で295万円というバーゲンプライスは他社も含めた他車パーツの流用でコストを抑えた賜物。ヘッドライトのシールドビーム部分はオートザムキャロル、フロントターンレンズはダイハツオプティ、サイドターンレンズはユーノスロードスター、ポジションレンズは日産パオ、ハイマウントストップランプはユーノス100(ファミリアアスティア)の純正部品が流用された
5台の中古車が流通しているのがビークロス。ミドルサイズSUVのビークロスは1997~2000年にかけて発売された。
デザインはベルギーにあるIEE(いすゞ・ヨーロッパ・エンジニアリング)で行われ、エクステリアデザインのキーデザインはサイモン・コックスが行い、元日産自動車専務執行役員・デザイン本部長を務めた中村史郎氏がチーフデザイナーとなり、完成にこぎつけた。
シャシー、プラットフォームはビッグホーンのものが流用され、エンジンもビッグホーンに搭載されていた215ps/29.0kgmの3.2L、V6が積まれ、4速ATを組み合わせている。
リアゲートは背面タイヤのようなデザインが施されており、後方視界が悪かったため、リアカメラ連動型モニターを搭載するなどハイテク化も注目のポイントだ。
ハイテク化といえば、搭載されている4WDシステムはTODと呼ばれる電子制御のトルクスプリット式のフルタイム4WDだった。
現在、ビークロスの中古車の価格帯は約49万~約98万円とすべて100万円以下で購入可能となっている。個性派SUVの先駆けとなったビークロスがこの価格で購入できるのも今のうちかもしれない。
コクピットはウイザードから流用されたものだが、専用のMOMOステアリングやマルチカラーのレカロシート、オーガニックがテーマのドア内張りが装着されている
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いすゞの中古車はあまり暴騰していないので今がチャンス!
G・ジウジアーロが手掛けた美しいピアッツアは100万円台で購入することができる
かつてはサーキットを沸かし、その後いち早くSUV路線へと転換したいすゞ。そのいすゞが手がけた乗用車の中古車は残り少なくなっている。
しかし、ほかの名車に比べると、中古車価格が高騰していないことにお気付きだろうか?
丸目のハンドメイドの117クーペにしても500万円以下、ベレットGTタイプRも400万円前後、初代ピアッツァも100万円台、ビークロスも100万円以下と、数年前と比べると少々高くなっているかなという程度で、他メーカーの名車と比べ暴騰している印象はあまりない。
いくつかの旧車専門店に聞いてみたが、その要因として考えられるのは、「いすゞ車は、海外での人気はさほど高くなく、特にアメリカでの需要が高くないので、外国人バイヤーが日本に来て買い漁ることもないからではないか」という。
しかし、いつ触手が伸びて価格が高騰するかわからない。この落ち着いた相場の今こそ購入のチャンスといえるだろう。
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