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第20回:身も心も凹んだけれど……

掲載 更新 16
第20回:身も心も凹んだけれど……

ポルシェ・718ボクスターで帰宅して、ガレージに駐め、あまり大きく開けられないドアとボディの間から降りてドアを閉め、リモコンキーでドアをロックする。ピカッと一瞬だけ前後左右のウインカーが点いたのを確認して家に入る。

納車以来、まるで儀式のように繰り返している作業を終える間際で異変に気が付いた。

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左側フェンダーの見え方がいつもと違っているような気がした。どういうことかと言うと、ブルーグレーメタリック塗装のボディラインがスッキリとしないのである。どこかが歪んで見える。近付いて見てみると、ショックだった。

ボディが凹んでいるのである。直径2センチぐらいのクレーター状に窪んでしまっている。濁りなく張り詰めていたフェンダーの曲面から緊張感を失わせてしまっている。横からブツかった何かによって、無残にもエクボが作られてしまったのだ。

写真で見るとわかりづらい凹みの箇所。思い当たるフシはない。もちろん、自分で何かにブツけたようなこともない。外出先の駐車場で駐める際には、こうしたトラブルを避けるためと、ドアを大きく開けて自分が降りやすくするために、いつも吟味して場所を選んでいるのに、このありさまだ。

空港や大規模商業施設などの広大な駐車場で出入り口に遠くなったとしても、角か端のスペースを探して駐めるように心掛けている。

不思議なのは、そうしてこちらが他のクルマに近付かないようにしているのにも関わらず、隣に停めてくるドライバーがいるということだ。ガラガラで、他にいくらでも駐車スペースが空いているのにも関わらず、わざわざ駐めに来る真意というのはどこにあるのだろうか?

世の中にはいろんなドライバーがいるものだ。

718ボクスターのフェンダーの凹みは、少し離れてもハッキリとわかる。悲しい。悔しい。やり場のない怒りが込み上げてきたが、どうすることもできない。

凹みの場所から推測すると、隣に停めたクルマのドアの角か縁が当たったのは明らかだ。でも、そんなに強くはなかったのだろう。塗装面を削るような傷が付けられていないだけでも幸いだ。

凹みをハンカチでソッと拭ってみた。人差し指の先で撫でてみても、引っ掛かるような傷はない。だが、自分ではどうすることもできない。

デントリペアという方法があることを思い出し、インターネットで業者を探した。何軒か近くの業者が見付かり、それぞれのホームページを読み較べてみた。豊富な施工例とわかりやすい説明の「デントリペアGo!」という業者の見積もり依頼フォームに必要事項を記入し、凹みの画像を添付して送信した。

果たして、元の曲面に戻してもらえるのだろうか? 修理は可能なのか?

気になる価格は?返信メールはすぐに来た。

「お送りいただきました画像を拝見する限り、修理可能かと思われます」

ああ、良かった!

料金は、「正確には実物を見てみないとわからないが、概算で1万5000円から2万円程度」で、所要時間は1時間から2時間とのことだった。

約束の日の約束の時刻の5分前にデントリペアGo!の軽ワンボックスはやって来た。

「作業のために電気が必要です」

事前に2回確認された理由がわかった。特別製のスタンドに設えられた蛍光灯を点灯し、凹んだ部分に当てて反射した蛍光灯の光が一直線になるかどうかで凹みの修正を見極めるというのだ。蛍光灯は2本あり、1本はそのままで、もう1本は緑色のフィルムに当てた光で窪みを浮かび上がらせるようになっている。

修正する前に見せてもらうと、ボディに写り込んだ緑色の光の帯の中に窪みだけが白くクッキリと浮かび上がっている。これならば、窪みの大きさや位置などが間違いなく特定できる。

凹みを修正するのは、専用工具を用いて裏側から押し出す方法と表側から吸い出す方法のふたつがあるという。

「最近のクルマは、ボディ内部の空間が少なくなってきているので、工具を滑り込ます余地が少なくなってきています」

“空間が少ない”というのは、ボディ内部はがらんどうの空間なのではなく、その中には各種のパーツ、配線やセンサー類、時にはモーター類など意外なものが内蔵されているということだ。

衝突した際にその衝撃を吸収するための空間を確保せねばならず、そこは空けておきながらも、電動化や自動化など様々な知能化を支えているパーツがビッシリとボディ内部に充填されているというのだ。

「ですから、探りながら作業を行わなければならないので、以前と較べると時間は少し余分に掛かるようになっていますね」

と、デントリペアGo!の安藤広昌さんは説得力のある口調で最近のクルマについて述べた。

安藤さんは、凹みの状態と程度を慎重に見極めていく。718ボクスターの左前輪のタイヤハウス裏側のカバーを外し、そこから細長い専用工具を押し込んで少しずつ力を加えていき、フラットに戻していく。

作業の邪魔にならないように見ていたが、どんな力が作用して窪みが修正されていっているのかはわからなかった。とてもデリケートで、アナログな作業のようだ。

工具を使い分けたりしながら作業は続き、30~40分が経った。

「こちらで、いかがでしょう?」

さきほどと同じように、ボディの真正面から眺めてみる。緑色のフィルムの写り込みの中にあった真っ白い窪みがキレイになくなっている。

実物のボディをいろいろな角度から眺め確かめても、さっきまであったはずの窪みは消滅していた。これで新車の時と同じキレイなボディに戻った。安藤さん、ありがとう! 助かりました。料金は、2万1000円だった。

駐車場の区画面積にひとこと!それにしても、公共施設や商業施設の駐車場の区画面積をもう少し広げてくれないだろうか?

クルマのボディが年々少しづつ大きくなっていっているのだから、それに合わせて区画も広がっても良いはずだ。

今でも同じことが行われているかどうか不明だけれども、新春恒例の「東京オートサロン」が行われる時に会場となる幕張メッセの駐車場では、「地面の白線内に駐めないでも構いません。隣のクルマとの間隔を十分に空けて駐めて下さい」という粋なアナウンスが流れていた。

精一杯ドレスアップ&チューンアップした愛車を労わる来場者の気持ちに目一杯寄り添った主催者の暖かい心遣いに唸らされたことがある。

たしかに、あそこの駐車場はとても広大だから、国内外からの来場者が増え続けている東京オートサロンとはいっても、すべての区画が埋まるということはないのだろう。だったら、チマチマと杓子定規に白線ワク内に駐めなくったって構わない。他の施設の駐車場も見習って欲しい。

それと、こちらがわざわざ離れたところに駐めているのだから、そばには寄って来ないで欲しいのだ。切に願うばかり。

文と写真:金子浩久

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みんなのコメント

16件
  • 所謂「トナラー」の仕業かな。

    トナラーはドアパン避ける為にしてると思ってたけど、中には何も考えずにとりあえず人の隣に停める思考の者もいるようだ。
    尚且つ周囲への注意も散漫となると、益々謎の生き物だ。

    あと
    ショッピングモールやスーパーの駐車場は一区画でも入口に近いところに停めたがる人が居るが、そのあるかどうかも分からない近場を探す時間が無駄だと感じないのだろうか…
  • ぶつけられて困るような車でその辺の駐車場に止めない方がいい。あるいは、360度撮せるドラレコ付けて常に録画状態にしておくとか。他人の車に気を使えない人間は意外に多くいるからね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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