ドライバーの意思を展開しやすい240Z
S30型のダットサン240Zは、ドライバーの意思を展開しやすい。ステアリングホイールはトライアンフTR6より大きく、進路は乱されにくい。引き出しやすい馬力と滑らかな5速MT、ダイレクトで情報量の多いステアリングが組み合わさり、能力を探りやすい。
【画像】運命を分けた2台 ダットサン240Z トライアンフTR6 TR4とTR8、最新フェアレディZも 全133枚
今回のレッドの240Zは北米仕様ということもあり、サスペンション・スプリングはソフトだが、コーナーで傾きすぎることもない。引き締まった操縦性を叶えつつ、タイヤをアスファルトへ押さえつけ、酷く傷んだ路面からドライバーを守ってくれる。
コーナリング中の不意の路面変化でも、落ち着きは失いにくい。まるで1980年代の日本車のように、懐が深く安心感が高い。飼いならす、といった表現は不要。ドライバーが望むほどに、スポーツカーとしての楽さも高まる。
この個性を生んでいる理由の1つが、ボディにある。1970年代初頭から、北米ではコンバーチブルを販売できなくなるという情報を耳にしたダットサンは、フェアレディの次期モデルをロードスターではなくクーペへ切り替えた。その結果、洗練性が追加された。
ルーフが備わることで風切り音などに悩まされることがなく、モノコックボディの剛性も高めている。グリーンのTR6はセパレートシャシーで粗野な振動までは生じないものの、比べるとソリッド感は乏しい。
とはいえ、TR6がクーペだとしたら、240Zにはない喜びが失われてしまう。トライアンフはコンバーチブルがイイ。
両車の違いが色濃く表れたインテリア
同じ1969年に北米デビューした2台だが、その後の運命は決定的に異なった。ダットサンは日産となり、6代目を大幅に改良した7代目フェアレディZが先日発表されたのはご存知の通り。
他方のトライアンフは後継モデルのTR7で失速。自動車メーカーとしても存続できなくなった。アメリカのスポーツカー市場の嗜好が、英国から日本へシフトしたことを示していた。主要な層の世代交代が進んだことも表していた。
TR6は、ドライビング・ファンに対して完全にファオーカスされている。古くからのピュアな興奮を求めるドライバーにとっては、素晴らしい内容といえた。
240Zは、スポーツカーで日常の自動車利用のすべてをまかないたいと考える、現代的なドライバー向け。実用性もないがしろになっていない。1980年代に登場した後継モデルは、運転の魅力を若干失った。だが、普段使いとの親和性は一層高かった。
インテリアを比べると、両車の違いが色濃く表れている。240Zは北米のトレンドを掴んでいた。カウルの付いたメーターにカーブを描くダッシュボード、スイッチの付いたセンターコンソールなどは、C3型のシボレー・コルベットを連想させる。
エアベントが並んだ使い勝手の良いベンチレーションに、手の届きやすい場所にあるラジオ、座り心地の良いシート、広い荷室など、日本車らしいソツのなさもある。ボディサイズは現代の基準では小さいものの、1970年代当時も小さすぎることはなかった。
古き良き時代という魅力に溢れたTR6
TR6のインテリアは見るからにクラシカル。ウッドパネルのダッシュボードに大きなメーターが並び、エアベントは2か所しかない。
プラスティッキーな240Zより質感は高く、古き良き時代という魅力には溢れている。メーターのベゼルや、ドアパネルの要所要所にクロームメッキが輝く。美しいスミス社のメーターが、車内全体の雰囲気を作り出している。
だが、人間工学に対する意識は低かった。不快なわけではないものの、腕まわりの空間にはもう少し余裕が欲しい。
トライアンフもダットサンも、クラシック・スポーツカーとしての訴求力に不足はない。それでも240Zは信頼性や快適性、実用性を備えつつ、秀でた動力性能と楽しさとを両立させた巧みなバランスにある。
150psを少し上回るという最高出力は近似しているが、現実の世界では240Zがより速く目的地へ到着できることも間違いない。TR6は現在でも人気のブリティッシュ・クラシックだが、スポーツカー市場の進む未来は決まっていた。
後継モデルとなるTR7では、トライアンフはロードスターではなくクーペボディを選んだ。市場の変化へ対応するべく、プラスティック製のダッシュボードに5速MT、柔軟なサスペンションを与え、ダットサンを追おうとした。
TR6のようなモデルが、その後に誕生することは他社からもなかった。240Zに対する回頭を、多くのメーカーが追い求めたこととは対照的に。
協力:アルン社、レン・ウォルシュ氏、フォーウェイズ・エンジニアリング社
ダットサン240ZとトライアンフTR6 2台のスペック
ダットサン240Z(日産フェアレディZ/1969~1973年/北米仕様)のスペック
英国価格:2288ポンド(1971年時)/5万ポンド(約830万円)以下(現在)
販売台数:15万6078台
全長:4140mm
全幅:1625mm
全高:1283mm
最高速度:201km/h
0-97km/h加速:8.0秒
燃費:8.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:1038kg
パワートレイン:直列6気筒2393cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:153ps/5600rpm
最大トルク:20.1kg-m/4400rpm
ギアボックス:5速マニュアル
トライアンフTR6(1969~1976年/英国仕様)のスペック
英国価格:1536ポンド(1971年時)/3万ポンド(約498万円)以下(現在)
販売台数:9万4619台
全長:3949mm
全幅:1549mm
全高:1270mm
最高速度:191km/h
0-97km/h加速:8.2秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−
車両重量:1122kg
パワートレイン:直列6気筒2498cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:152ps/5500rpm
最大トルク:22.6kg-m/3500rpm
ギアボックス:4速マニュアル
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