この記事をまとめると
■NASCARとは一般的に市販車両(ストックカー)を使ったレースを意味する
「アウト・イン・アウト」の常識を覆す! 中谷明彦が生み出した「V字ライン」の衝撃
■2022年の第35戦で「ミニ四駆走法」が話題となった
■「ミニ四駆走法」が実現した経緯や是非について解説する
アメリカの人気モータースポーツ「NASCAR」で起きた”珍事”
おもしろいテーマが編集部から届けられた。「ミニ四駆走法は本当に速いのか?」というテーマである。話がモータースポーツ、それもアメリカのNASCAR(ナスカー)での出来事になるので「何のこと?」とピンとこない人のほうが多いのではなかろうか。
テーマとして挙げられた「ミニ四駆走法」とは、その言葉どおり、ミニ四駆のような車両の走らせ方が実際に起きてしまい、それが問題視された事件(?)である。
では、まずNASCARについて説明しておこう。NASCARとは、Natinal Aasociation for Stosk Car Auto Racingの略で、市販車を使ったサーキットレースを運営する組織として1948年に設立された団体のことを指すが、一般的にNASCARという呼称は、市販車両(ストックカー)を使ったレースのことを意味するようになっている。使用する車両は、当然ながらアメリカ製の大型セダンで、バンクを持つオーバルサーキットを中心に開催され、現在アメリカでもっとも人気の高いシリーズ構成のレースである。
2022年シーズンは、通常のシリーズ戦24戦に、チャンピオンを決めるプレイオフラウンド4ステージ10戦を加えた36戦で開催された。使用するコースは、スーパースピードウェイ(1周2.5マイル級、全区間アクセル全開走行が可能、NASCARではデイトナとタラデガのみが該当)、インターミディエイト・トラック(1周1マイルから2.5マイルまで)、ショートトラック(別称ショートオーバル、1周1マイル以下)、そしてロードコース(年間2戦程度、現在はソノマとエレクハートレイク)で構成されている。
衝撃吸収のための「SAFERバリア」を巧みに利用した壁走り
今回、ミニ四駆走法が問題となったのは、2022年の第35戦が開催されたマーティンズビル・スピードウェイでのことだった。同コースは1周0.526マイル(847メートル)で、NASCARを開催するオーバルサーキットとしてはもっとも短いコースのひとつである。当然、2本の直線を結ぶ4つのターン(コーナー部分)は曲率もきつくなり、コース設定としては低速コースとなる。
この低速ギヤでアクセル開度を調整しながら走る第3ターンで、ロス・チャステイン選手が5速ギヤに入れ、アクセル全開のままターンアウト側の「SAFERバリア」に車両の側面ほこすりつけながら走行。壁に接しながら走るスタイルが、ミニ四駆と同じだったためミニ四駆走法と命名されたわけだが、チャステンはここでイン側を走る車両を5台ゴボウ抜き。当時10番手を走っていたチャステインはこれで5位に浮上し、翌週に開かれるチャンピオンシップレースの賞典対象車として同レースへの出場権を獲得。
ターンアウト側に張り巡らされたバリアが、その名のとおり衝撃を和らげる「SAFERバリア」だったため、チャステインの車両には大した損傷もなく、ハイスピードで第3ターンを走り抜けられたことから5台のパスに成功したというわけだ。
留意しなければならないことは、チャステインがこの走りを実行した時点で、競技車両はバリアに沿って(接して)走ることは違反(故意、不可抗力に関わらず)という規則がなく、チャステインの走りがそのまま認められたことである。当然ながら、この走りには賛否両論あり、虚を突く鮮烈な走り方だった、とその発想を認めるドライバーも多かったようだ。ちなみに、チャステインがSAFARバリアに車体をこすりつけながら走ったミニ四駆走法のトップスピードは、通常の走りより50マイル(約80キロ)ほど速かったという。
しかし、主催者側は、本来衝突時の衝撃を和らげるために設置した「SAFERバリア」を、速く走るために積極的に利用する方法を認めることはできないとし、今後は禁止という方向で検討が進められているという。
ちなみに、コーナリングに関して似たような例は日本にもあり、通常のサーキットでコーナーイン側に設けられたコンクリートカーブ(ゼブラゾーン)を、積極的に踏んで走る走法は、ペナルティの対象と判定する例も見られている。ミニ四駆走法にしても、ゼブラゾーンに踏み出した走りにしても、何が故意で、何が不可抗力だったかを正確に判定する必要があり、判定を下すことが難しいと思われる。それにしても、勝負に勝つためには、突拍子もない走りを考えつくものである。
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