2024年6月に発表された新型MINIクーパー 5ドア。エントリーグレードとなる1.5L直3ターボエンジンを搭載した「C」に試乗することができました。その仕上がりは「らしさ」と「進化」をしっかり体感できるものでした。
第4世代のMINI、5ドアとしては2代目となった。
遡ること22年前、日本では2002年3月2日に誕生したBMW製のMINIクーパー。BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)時代のそれから比べるとボディサイズは肥大化したものの、BMWが手がけて再出発された「新生MINI」は、ビジネス的には大成功といえるセールスを打ち立てました。
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それまでのBMWといえば、ボディサイズの大小に問わず駆動の主軸をリアに置く構造を基本としていました。1955年に登場したBMW最小のモデル「イセッタ」もセンターエンジン・リアドライブ式の後輪駆動モデルでしたし、MINI登場前夜の1994年にはE36型3シリーズを基本としたコンパクトモデル「ti」を登場させましたが、こちらも当然にFRの後輪駆動モデルが採用されていました。
しかしパッケージング的な観点で見れば、コンパクトカーにとって後輪駆動は不利です。キャビンに駆動車軸の影響を受けないフロントエンジン・フロントドライブ(FF)の採用は、フォルクスワーゲン ゴルフやBMC時代のMINIなどの成功になぞらえて、当時のBMWにとって欲しい技術のひとつだったといえます。
そして1994年にBMWはローバー社を買収し、前輪駆動に関する技術を磨き、かくして2001年(日本は2002年)に新生MINIの第一弾が登場しました。BMC製のMINIのデザインを現代的解釈したアイコニックなデザインと、日本規格の5ナンバーサイズに収まる小さなボディにBMWの高品質なプレス技術や高剛性ボディを与えたことで「プレミアム・コンパクトカー」のキャラクターを確立することに成功しました。
F55型からF65型へ進化。仕上がりは紛れもなくフルモデルチェンジ。
さて、本日の主役となる「MINIクーパー 5ドア」は、2014年に登場したMINI 5ドアの後継モデルにあたります。これまでMINIは3ドアハッチバックを基本としていましたが、市場からの大きな要望とさらなるラインナップの拡充のため登場したそれは、3代目MINIより70mmホイールベースを延長し、その恩恵をリアシートに注ぐことで広い後席空間を実現しました。MINIらしいアイコニックで親しみのあるデザインはそのままに、リアドアを追加してファミリーユースの資質を高めたことで、大変な人気を獲得しました。
新型MINIクーパー 5ドアは、その先代モデルとなるF55型で採用されたプラットフォームを踏襲していますが、モデルコードはF65であることから、全面改良に位置づけられています。その進化ぶりは、走りを含めて「新世代」を謳うにふさわしいものであることを、確認することができました。
新型MINIクーパー 5ドアのボディサイズは全長4035×全幅1745×1470mm。先代と比べると全長は20~35mm、全幅は20mm、全高は25mm拡大しています。しかし依然として、Bセグメントに属する小さな体躯が特徴です。フォルクスワーゲン ポロやルノー ルーテシアなどのライバル勢と比較しても、ボディサイズの小ささという点においてアドバンテージがあるのは嬉しいポイントです。
エクステリアデザインは、フロントに関しては先代の後期モデルから採り入れられたボディカラー同色のフロントグリルを踏襲することで、パッと見での大きな変化は見られません。ただし、リップ部分がやや丸みを帯びた造形とされることでより柔和なデザインとされたことは初代MINIにも通ずる雰囲気となり、個人的に好印象です。
サイド部分では、Aピラー下部のサイドパネルにこれまで配されていた「サイドスカットル」が新型では取り払われ、シンプルさを増しました。サイドウインカーがドアミラー内に移設されたため加飾が不要となったとはいえ、少し遊び心を失ったような寂しい部分でもあります。また、キャビンを囲うようにデザインされているサイドモールは従来のメッキパーツから、ブラック塗装へ変更されました。フロント同様に「シンプルさ」を追求したように思われます。
そしてリアを確認すると、先代と比べると大きく異なることがわかります。まず目を惹くのは、コンビネーションランプです。これまでの角丸の四角形から、尖った三角形のようにデザインが大きく変わりました。これは先に登場した新型MINI3ドアと同じく、次世代のMINIデザインへ移行したことがわかります。またエキゾーストパイプがロアバンパーで隠されるようになり、よりクリーンでシンプルな雰囲気を感じさせるデザインとなりました。
インテリアの進化には驚き! リアシートの居住性も向上。
新型MINIクーパー5ドアは、3ドアと同様、インテリアに大革命が訪れました。直径240mmの円形有機ELセンターディスプレイを採用したインパネ部分は、これまでのMINIらしい雰囲気を残しながら、デジタル化が急速に進んだ印象です。運転席メーターは廃止され、代わりにヘッドアップディスプレイを標準装備し、速度計や運転支援の動作状況などを、そこで確認するようになりました。
またセンターコンソール部分も大きく変更されました。インフォテインメントのコントローラーが廃止されたほかギアシフトはトグル式に変更されインパネ部分へ移設されたことで、センターコンソール部分には大きなオープントレーが設置され、ユーティリティ性が格段に向上したように思います。
気になるリアシートですが、ホイールベースは先代と同じ2565mmとなりますので、居住性は変わりません。しかし、先代のようにドリンクホルダーがリアシートにくっ付くように配置されることはなく、きちんと3人乗車が可能なレイアウトへ変更されたことで、左右の足運びが格段にスムーズになりました。
ラゲッジルームは275Lと、先代モデルよりも3L減となりますが、およそ変わらぬユーティリティ性を確保していると言えます。何より、6:4分割可倒式リアシートを活用することで最大925Lのラゲッジルーム容量を実現しているところは5ドアならではと言えます。
パワーアップが図られた新型のパワートレーン。走り味はMINIそのもの。
遅くなりましたが、試乗に入ります。今回お借りしたモデルは新型MINIクーパー 5ドアの中でもっともリーズナブルなモデル「C」です。1.5L直3DOHCターボエンジン「B38A15P」は最高出力156ps、最大トルク230Nmを誇ります。これは先代に搭載された「B38A15」よりも同20ps/30Nmのパワーアップが図られており、その進化ぶりが期待されます。
走り始めて驚いたのは、その静粛性。タイヤのパターンノイズやパワートレーンから発生するノイズレベルが先代と比べて大きく低減している印象でした。とくにエンジンのアイドリングストップ&スタート機能による再始動時のノイズ、そしてバイブレーションが相当抑え込まれていました。
速度を増していくと、先代よりもとくに低回転域でのトルクが太くなった印象で、パーシャルでアクセルペダルを踏み続ける加速に対しては、力強さが増しており、日常走行においてパワー不足を感じる機会はありませんでした。
乗り心地に関しては、ハッキリと硬く、常にガチっとした「剛性感」を感じることができます。MINIの可愛らしいルックスから想像するよりもずっと硬派で、BMW色の強い(すなわちドイツ車ぽい)走り味が特徴です。ただし先代モデルよりも、ひとクラス上質になった雰囲気は、この走りからも感じることができました。
高速道路へ入ると、さすがにロードノイズも大きくなり、ゴォーゴォーとタイヤからの音が車内へ響くようになります。が、それは先代のそれと比べるとハッキリと静かであり、同セグメントのライバル勢と比べても同等レベルであるとお伝えすることができます。
直進安定性はさすがMINIで、ビタっと路面にへばりつくような所作は、エントリーモデルの「C」であっても感じることができます。ひとたびレーンチェンジでハンドルを切ると、スパッとノーズの向きが変わる「ゴーカートフィール」を体感することができます。運転する楽しさ、を全面的に感じることのできる仕上がりです。
新型は「上質さ」を感じる仕上がり。運転支援の進化にも注目。
新型MINIクーパー5ドアの走り味は、まさしくMINIそのものと言えるものだったと結論づけることができます。さらに、新型は「上質さ」がアドオンされた雰囲気で、プレミアム・コンパクトカーに相応しい完成度でした。
とりわけ、ステアリングフィールに関しては、太いハンドルリムを握って親指に力を込めながら切り込むと、驚くほどクイックに曲がってゆくという振る舞いは、伝統的なMINIらしさ(というよりもBMW時代のMINIらしさ)に包まれています。
さらにMINI5ドアでは、今回試乗した「C」のほか、2L直4ターボエンジンを搭載する高出力版の「S」が用意されています。先代モデルで人気だったディーゼルモデル2種類は新型で廃止されていることは残念ですが、ガソリンエンジンでも高効率化が進み燃費性能は向上していますし、「上質さ」という観点で言えばやはりガソリンエンジンこそが新型の乗り味には相応しいと思います。
運転支援技術も進化を遂げ、ACCはレーンキープにも対応するなど、これまで以上に装備面での充実ぶりが光る新型。唯一無二のルックスと、比類なきドライブフィールはMINIクーパーならではの味であり、新型はそれを紛れもなく受け継いでいると言えるでしょう。(写真・根本貴正)
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