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マニアの間で定期的に登場する話題のひとつが「マツダのロータリーエンジン復活はいつか」という話。こうした話題が定期的に登場する背景には、一定数のロータリーエンジンのファンがいるからなのだろう。
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復活するロータリーエンジン
マツダの最後のロータリーエンジン搭載モデル「RX-8」は、2013年に生産を終了し、現在ではロータリーエンジン車のハンドルを握った経験のある人はかなり高齢化している。それでもロータリーエンジンの待望論が消えることがないのはなぜだろう。
2015年の東京モーターショーで、マツダはロングノーズのクーペ「RX-ビジョン」を発表した。もちろんこれはデザインスタディ・モデルだが、美しいFRのプロポーションを追求したロータリー・スポーツクーペで、「スカイアクティブR」エンジン、つまり最新のロータリーエンジンを搭載していると説明した。
このRX-ビジョンにより、ロータリーエンジン復活という話題が沸騰したのは記憶に新しい。これをきっかけにロータリー復活の話が再燃していくわけだ。
しかし2年後の2017年、同じく東京モーターショーで、マツダは新たに「ビジョン クーペ」を発表した。ロングノーズのこのデザイン・スタディモデルに対して様々な観測が行なわれ、「RX-ビジョンの」延長線にあるモデルとし、次期ロータリーエンジンを搭載するFRクーペという説も登場したが、その後に、このモデルは直列6気筒エンジンを搭載する上級モデルのデザイン・スタディだと判明している。
電動化戦略向けのRE
では、ロータリーエンジンはどうなるのか。その答えは2018年10月に行なわれたマツダの電動化戦略のプレゼンテーションの中にあった。そのプレゼンテーションでは、マツダは2030年にはハイブリッド、マイルドハイブリッドを幅広く投入し、販売車両の中で内燃エンジン+電動化された車両を95%とし、残る5%はバッテリーを搭載したEV、レンジエクステンダーEVとし、生産するクルマの100%電動化を達成するとしている。
そして2019年の東京モーターショーで、マツダ初の市販電気自動車「MX-30」がベールを脱ぎ、2020年秋に発売すると発表した。
「MX-30」はマツダ3、CX-30と共通のプラットフォームとしている。搭載されるリチウムイオン・バッテリーの容量は35.5kWhと控えめで、航続距離は200km(NEDCモード)とされている。
MX30に搭載されるRE
したがって「MX-30」は都市部での使用に限定されるが、航続距離を伸ばすために発電専用エンジンを搭載したレンジ・エクステンダー・モデルの追加が想定されている。その発電用のエンジンこそがロータリーエンジンなのだ。
「MX-30」の駆動用モーターはフロントに横置きに搭載されるが、その横にはロータリーエンジンを搭載するスペースが空いている。その発電用ロータリーエンジンのプロトタイプは、すでに2013年に公表されている。
このときは先代のデミオをベースにした「デミオEV」で、このプロトタイプのリヤラゲッジスペース下側に、発電用エンジンとしてプロトタイプのロータリーエンジンを配置していた。
この時のエンジンは、排気量330ccのシングルローターで、リヤの床下に配置するために水平回転式とし、出力は22kW(約30ps)/4500rpm。ベルト駆動により2倍に増速して出力20kWのジェネレーターを駆動するようになっていた。
「MX-30」に搭載される発電用ロータリーエンジンは、このプロトタイプの発展型で、フロントのモーターと並んで横置き配置されるはずだ。発電用とすることで、運転する回転数は限定され、ロータリーエンジンの最も効率の良い回転域で使用されるため、燃費も想定内となり、小型・軽量で振動が少ないメリットも生かされることになる。
このロータリーエンジンを搭載した「MX-30」レンジエクステンダーの登場は、2021年以降と予想されるが、ロータリーエンジンの復活となることは間違いないだろう。
水素で走るロータリーエンジン
マツダはロータリーエンジンの開発の過程で、様々な燃料の研究を行なっている。その先駆けが、1991年に開発した水素ロータリーエンジンだ。排ガス処理の必要がない水素燃料はその後も研究・開発が進められ、1995年には当時のカペラ・ワゴンに水素ロータリーエンジンが搭載され、公道での実証実験も行なわれていた。
2004年には水素ロータリーエンジンを搭載したRX-8を発表した。水素、ガソリンの両方を搭載し、いずれの燃料でも走行できるバイフューエル方式を採用。ローターハウジングに設置した電子制御水素ガスインジェクターで、直接水素を噴射する方式を採用していた。
この時、水素の貯蔵は350気圧の高圧タンクが採用されている。水素を消費すると燃料をガソリンに切り替えて走行することできた。
このバイフューエルシステムの採用によって、水素とガソリンのどちらでも走行ができるため、水素ステーションなどのインフラが未整備の地域でも、「水素切れ」という燃料切れの不安がなく走行できるのが特長とされた。
このRX-8水素ロータリー車は型式認証を受け、限定リースにより官庁や自治体で使用されている。しかし、この水素ロータリーエンジンの構想も2009年以降は途絶えている。水素を燃焼する内燃エンジンは、確かに排ガスはクリーンになるが、水素の重量エネルギー密度がガソリンよりも大きいものの、体積あたりのエネルギー密度はきわめて小さく、高圧に圧縮した水素でもCNG(圧縮天然ガス)に劣るため、燃料としてエンジンで燃焼させるのは効率という点において、得策ではないということであろう。
効率追求型RE
マツダは、この水素ロータリーエンジン以外でも、モーター駆動と組み合わせたロータリー・ハイブリッドも実現している。
最も新しい技術を投入したロータリーエンジンには「RENESIS」という名称が採用され、RX-8に搭載され13B型ベースの13B-MSP型からこの名称が使用されている。
この13B-MSP型では、吸排気の各ポートはすべてサイドハウジング経由とし、ローターハウジングからの吸排気用ポート(ペリフェラル・ポート)は全廃されている。13B-MSPの前期型は各ローターあたりの吸気ポートを2箇所設け、2ローターなので合計4ポート吸気とした。後期型では吸気を6ポート式とし、吸排気のオーバーラップをゼロにして燃焼を改善している。
この13B-MSP型の発展型として、サイドハウジングを鋳鉄からアルミ製にし、直噴システムを採用したのが最新世代のロータリーエンジンとされている。この最新世代のロータリーエンジンはモーターショー用のコンセプトカーとして発表されているが、その後も継続的に研究・開発されているかは不明である。
ヴァンケルエンジン
さて、ロータリーエンジンは、海外ではヴァンケルエンジンと呼ばれている。基本原理はドイツ人のフェリクス ヴァンケルが発明したため、ヴァンケルエンジンと呼ばれているのだ。
このヴァンケルエンジンはオットーサイクル式の内燃エンジンであるが、かなり特殊なエンジンだ。ヴァンケルは当時のNSU社(後にアウディに吸収合併)で、このエンジンの開発を行ない、NSU社が特許を所有した。
マツダ(当時は東洋工業)は1961年にこのヴァンケルエンジンの技術ライセンスを取得し、独自のノウハウを投入してロータリーエンジンを生み出し、1967年にコスモスポーツを発売した。マツダはその後も46年間にわたってロータリーエンジンを開発し続け、当初の10A型(491cc×2)から12A型(573cc×2)、13A型(655cc×2)、13B型(654cc×2)などを送り出している。いずれのエンジンも基本的に高出力のスポーツモデル用とされていた。
NSU社のヴァンケルエンジンの技術ライセンスは、多くの自動車メーカーが取得しているが、ほとんどは研究、試作段階に留まっており、量産エンジンとしてはマツダのみが成功している。
しかし、そのマツダも2007年の「サステイナブルZoom-Zoom宣言」、2012年の中期経営計画「構造改革プラン」の策定過程でロータリーエンジンの生産終了を決定し、RX-8が2013年に生産を終えたため、ロータリーエンジン搭載モデルは消滅した。
ローターとハウジングで構成
通常のオットーサイクル・エンジンは、円筒形のシリンダー内を円筒形のピストンが往復運動し、吸気、圧縮、燃焼、排気という4行程を行なうが、ロータリーエンジンは、まゆ形のローターハウジング内を三角形のローターが回転し、ローターハウジングとローターの間に生じる空間の容積を変化させることで吸気、圧縮、燃焼、排気を行なう。
そのため、ローターはオットーサイクルのピストンとコンロッドの機能を兼ね、またローターの中心部の丸い穴部に内歯のインターナルギヤを設け、偏芯したクランクシャフトの機能を持つエキセントリック・シャフトを噛み合わされている。
ギヤの噛み合せにより、ローターの1回転に対し、エキセントリックシャフトは3回転する構造で、ローターとローターハウジングの間の作動室の容積は、ローター1回の自転の間に、拡大と縮小が2回ずつ生じる構造だ。つまりローターの1回転、エキセントリックシャフト3回転の間に3回の燃焼・膨張行程が生じるというのが特長だ。
ロータリーエンジンの特徴
ロータリーエンジンの基本的な特徴は、軽量・コンパクトなパッケージングになり、FR駆動の場合はフロント ミッドシップに搭載ができる。トルク特性がフラット型になりトルク変動が小さいため、2ローター・エンジンの場合は直列6気筒エンジンと同等のトルク変動レベルとなる。
さらにローターが回転運動して燃焼するため、振動・騒音が少ない。往復運動エンジンに比べ動弁システムが不要であるなど、部品点数が少なくシンプルな構造になっている点もロータリーの特徴だ。さらに出力軸1回転あたりの燃焼回数が通常のエンジンの2倍となるため、同じ総排気量に比べ出力が高く、燃焼温度は低く、ノッキングしにくいので多様な燃料に対応しやすいなどの特徴があるのだ。
しかし、その一方で本質的な欠点も持っている。それは燃焼室が扁平で長さが長いため、冷却損失が極めて大きく、同時に長い長方形の燃焼室であるため、均一な高速燃焼が難しく、熱効率を上げるのが困難なことがある。さらに回転するローターとローターハウジング、サイドハウジングの接触面に通常のピストンリングに相当するシール材(アペックスシール)が必要で、そのシール材の接触面積が大きいため、シール摩擦が大きく、その耐久性の確保が課題である。そしてローターがローターハウジングと摺動しながら回転運動をするため、潤滑のためにオイルの供給が必要でオイル消費が多いことなどが欠点とされている。
またロータリーエンジンの吸排気は固定されたポート穴から行なわれるため、近年の4ストロークエンジンのような、可変バルブタイミング、可変バルブリフト機構などによる吸排気の自在なコントロールが不可能という点も大きな欠点といえる。
こうした特長を持つロータリーエンジンはスポーティなエンジンとされる一方で、冷却損失の大きさと均一な高速燃焼が難しいことから、燃費性能には不利であり「サステイナブル Zoom-Zoom宣言」でロータリーエンジンが消えることになる原因となったと考えられているのだ。
しかし、冒頭で説明したように、その「使い方」次第でこれらのデメリットが相殺できれば、音や振動などにメリットのあるロータリーエンジンは復活できるというわけだ。
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