革新的メカニズムを搭載した「Gクラス」の電気自動車
あのメルセデス・ベンツ「Gクラス」がBEV(電気自動車)に⁉ そのトピックは多くの人に驚きをもたらしたのではないでしょうか?
【画像】「えっ!…」全方位的に走りが進化! これが革新技術を投入したメルセデス・ベンツ「G580 with EQテクノロジー」です(30枚以上)
「Gクラス」は、昔から変わらぬクラシカルなスタイルが人気の歴史あるクロスカントリーSUV。日本を始め世界中に根強いファンがいて、長い納車待ちが発生しているほどの大人気車です。
そんな「Gクラス」の、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンに続く“第3のパワーユニット”として登場したのがBEV。「G580 with EQテクノロジー」(以下、「G580」)と呼ばれるBEV仕様は、モーターだけですべての駆動力を生み出します。
メルセデス・ベンツにとって、「Gクラス」は究極のオフローダーであると同時に、伝統を継承するSUVラインナップの中心的存在。トヨタでいうと「ランドクルーザー」のようなポジションと考えればいいでしょう。
すなわち「Gクラス」のBEV化は、トヨタの場合「ランドクルーザー」にBEVが用意されるようなもの。そう考えると、「G580」の登場は、とてつもなく衝撃的な出来事だと理解できるに違いありません。
そんな「G580」は、メカニズムも革新的です。
日本にも“前後にふたつのモーターを備えた4WDのSUV”は存在しますが、「G580」はそれどころじゃありません。なんと前後左右それぞれのタイヤにモーターを備える、つまり、合計4つのモーターで駆動力を生み出しているのです。
しかも各モーターは、最高出力147ps、最大トルク291Nmという高出力タイプ。ひとつで「Aクラス(A180)」級の出力と、「Cクラス(C200)」級のトルク」を誇ります。それを4つも備えるのですから、「G580」は超ハイスペックであるとイメージできるでしょう。
4つのモーターを合計した「G580」の“車両としてのスペック”は、最高出力が587psで最大トルクは1164Nm。「Aクラス」4台分の出力と、「Cクラス」4台分のトルクを持つ、とんでもない怪物なのです。
そんなスペックからも想像できるかもしれませんが、「G580」は“エコロジーのためにBEV化された、環境派を納得させるための証拠づくりのようなモデル”では決してありません。
例えば、モンスター級の最高出力や最大トルクは、エンジンを搭載する「Gクラス」の最高峰・メルセデスAMG「G63」(585ps/850Nm)の上をいくもの。
その上で、「G580」において注目すべきは、オフロード走破性が上がっていることでしょう。
最大登坂能力こそディーゼルエンジンを搭載する「G450d」と同じ45度ですが、最低地上高は250mm(「G450d」は230mm)に、アプローチアングル&デパーチャーアングルは32度&30.7度に(同31.2度&30.5度)、そして、どれだけの水深まで走れるかを意味する渡河性能は850mm(同700mm)と、エンジン車以上の走破性を身につけているのです。
メルセデス・ベンツいわく「エコで快適なクルマをつくったのではなく“究極のオフローダー”を目指した」とのこと。つまり「G580」は、悪路に本気なのです。
ちなみに「G580」の車両重量は、「G450d」の2560kg、「G63」の2570kgに対して、500kg以上重い3120kg。一度の充電で走れる航続可能距離は、WLTCモード計測のカタログ値で530kmとなっています。
極限でのオフロード性能を高めるふたつの“飛び道具”
さて、そんな「G580」の走り味は、どのようなものなのでしょうか?
舗装路を乗ってみてまず感じたのは、なめらかでスムーズであるということ。そして、加速が鋭く速いということ、です。
それらは高性能BEVとしては当然のことなのですが、これまでちょっと荒々しい印象だった「Gクラス」としては、明確に“新しい魅力”を手に入れたんだなと実感します。
しかし「G580」最大の驚きは、オフロードでの走りにありました。今回は本格的なオフロードコースでも試乗できたのですが、そこでの走りはまさに“目から鱗”状態。恥ずかしながら筆者(工藤貴宏)は「モーター駆動車は険しいオフロードとは相性がよくない」と勝手にイメージしていたのですが、それは全くの誤解だったことを痛感させられました。
モーター駆動の「G580」は、瞬時かつ綿密に出力をコントロールできます。そのため、エンジン駆動車よりも駆動力の管理がしやすく、凹凸の大きな路面や登坂時におけるアクセルコントロールの正確性が高まっており、スムーズに走ることができます。
その上、各種制御がエンジン車より緻密に入ることから、空転しそうな状況でもタイヤのスリップが驚くほど少ないのです。また、重いバッテリーを車体下へ搭載することで重心が低く、オフロード走行時の挙動が安定し、安心感につながっています。
なかには、オフロード走行時の衝撃でバッテリーがダメージを受けるのでは? と気にする向きもあるかもしれません。しかし、「G580」は、バッテリー下に厚さ26mmのカーボンコンポジット(CFRP)製アンダーガードプロテクションを装着。“10トンの荷重を掛けても大丈夫”というこのプロテクションがバッテリーをしっかり&確実に守るので心配はいりません。
ちなみに、「Gクラス」の定番装備であったフロント、センター、リアの3つのデフロックは、「G580」にはついていません。そもそも、前後左右に独立したモーターを配置するため、デフ自体が存在しないのです。ですが、電気によって出力を制御することで、デフロックと同じ状態をつくることができます。仮想的なデフロックを備えている、と考えればいいでしょう。
ちなみに「G580」は、前後左右に独立したモーターを搭載するBEVならではの機能として、戦車やシャベルカーが左右のクローラーを逆方向に動かすことでその場で360度回転ができる“超信地旋回”と同様の動きをすることができます。“Gターン”の呼ばれるこの機能を使えば、クルマがその場でグルグルと回る、不思議な体験を味わうことができます。
実際に試してみましたが、ゆっくり回るのかと思いきや、想像を超える勢いで素早くターンすることに驚きました。思わず子どものように楽しくなって、何度も試してしまったことはここだけの秘密です。
一方「G580」は、オフロードにおいて超小回りを利かせる実用的な機能“Gステアリング”も搭載しています。
これは、システムを起動させると、オフロードでの低速旋回時にハンドル操作に連動して内側後輪の回転数を意図的に減らし、回転半径を大幅に縮小するという仕組み。感覚的には、超低速だと「スピンするかと思うほどにその場で急激に小さく回る」印象でした。オフロードの狭いスポットで向きを変える必要があるときには、とても重宝することでしょう。
今回、オンロードとオフロードで「G580」を試乗してみて分かったのは、オンロードにおける超高速領域でのエンジン車ならではの伸びや音といった官能性を除けば、このBEVは「G63」に対して性能で優っているということ。
そう考えると、「G63ローンチエディション」の3080万円に対して445万円も安い2635万円という「G580」の価格設定は、リーズナブルとしかいえないでしょう。もしかすると、ガソリンエンジン車より高性能なBEVでありながら、エンジン車よりも安いというのは、史上初のパターンかもしれません。
* * *
最後に、今回「G580」を試乗して驚いたエピソードをひとつ。それは試乗車が履いていたタイヤのことです。
「G580」のタイヤは、悪路走行も想定したSUV用ではあるものの、見るからに舗装路での性能を重視したタイプでした。
そんなフツーのタイヤを履きながら、雨上がりのドロや石ですべりやすいタフなオフロードコースを、涼しい顔して走破してみせたのです。
改めて「G580」の悪路性能の高さに驚かされました。もしもBEVに抵抗がないなら、こんなSUVも大いにアリでしょう。
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