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【買えないなら作っちゃえ】ティレルP34 伝説の6輪F1が蘇る レース愛好家が精巧に再現

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【買えないなら作っちゃえ】ティレルP34 伝説の6輪F1が蘇る レース愛好家が精巧に再現

伝説の6輪マシンを自分で作った男

昔、レミントン社製シェーバーの海外の広告で、「感動して会社を買いました!」というものがあった。ミシガン州の不動産開発業者であるジョナサン・ホルツマンの話を聞いていると、これと同じような米国の資本主義精神が頭に浮かぶ。

【画像】ティレルP34【すべての写真を見る】 全5枚

ホルツマンはF1の熱狂的なファンで、1976年製のティレルP34を購入してヒストリックレースに出場したいと考えていたが、誰も売ってくれなかった。それで諦めたのかというとそんなことはなく、彼はなんと自分で作ることにした。「我々米国人のことを知っているでしょう?ノーとは言えないんですよ」と彼は笑う。

クラシックカーの世界では、「オリジナリティ」こそ素晴らしいものであり、「Rワード(レプリカ)」はしばしば汚い言葉だと考えられている。自身のヒストリック・レーシングカーが本物であることを証明すれば、その価値は急上昇する。歴史的に重要なドライバーがレースに参加したことを証明すれば、価格は再び上昇する。そして、グランプリなどの国際的なレースで実際に優勝したことを証明すると、ケタが変わる。

本物に偽装しようとする人には災いが降りかかる。しかし、ホルツマンは違った。ホルツマンは、自分がやったことをすべてオープンにしているし、実際、「古いものに似せた新しいものを作った」と声高に訴えている。ただし、新しく作った2台のP34については「レプリカ」ではなく、「コンティニュエーション」であると主張している。

コンティニュエーションには「継続」という意味があり、生産終了したクラシックカーの復刻生産に使われることが多い。通常は自動車メーカーが当時の部品などを使用して仕様を忠実に再現するものだが、ホルツマンは個人でP34を作り、コンティニュエーションモデルとしてレースに参加している。

ティレルP34というマシンは、単なる骨董品ではない。デザイナーのデレク・ガードナーは、4輪駆動を専門とするハリー・ファーガソン・リサーチ社に勤務していた1968年にP34のアイデアを思いついた。彼はケン・ティレルを説得して、革命的なF1カーのコンセプトを実現させたが、4輪駆動は構想に入っていなかった。その代わり、ノーズの後ろに隠れている4本の小径(10インチ)ホイールが空力的な揚力と抗力を減少させる効果があると言われていた。

後にフェラーリのワールドチャンピオンとなるジョディ・シェクター(当時はティレルから参戦)が、1976年にP34を駆ってスウェーデンGPで優勝し、ジェームス・ハント、ニキ・ラウダに次ぐ3位でシーズンを終え、チームメイトのパトリック・デパイユとともにティレルをチームランキング3位に押し上げた。

6輪のメリットについては議論の余地があるが、当初P34が成功を収めていたことは確かだ。しかし、グッドイヤーの小径タイヤの開発が停滞した2年目のシーズンには、その成果はほとんど見られなかった。仕方なくティレルは既存のマシンを改造して、1977年シーズンに臨んだ。

ティレルからの承認も獲得

ホルツマンにオリジナルのマシンを売らなかったのは、元ミナルディのF1ドライバーでBMWのル・マン優勝者でもあるピエルルイジ・マルティニ。彼は2台のP34を所有している。

「マルティニには一度も会ったことがありませんが、1977年製のマシンを250万ドル(約2億8000万円)で買いたいと申し出たところ、断られてしまいました」とホルツマンは言う。「でも、彼が断ってくれて本当によかった。1977年のマシンにそれだけのお金を払っていたら、1976年のレースは誰も見られなくなっていただろうからね」

そこで、1970年代にF1に参戦したプライベーター、コリンの息子で、英ウォリントンに拠点を置くCGAエンジニアリング社の社長であるアリスター・ベネットがアイデアを出した。彼とのやり取りについて、ホルツマンは次のように話している。

「わたしは、『買おうとしたけど買えなかった』と話したんです。するとアリスターは、『わたし達なら作ることができる』と言いました。彼との間で記憶が違うところがあって、わたしは彼が『2つ作ろう』と言い出したと思っているんですが、彼はわたしが言ったと思っています。いずれにしても、わたしは『OK』と答えました」

「なぜ2台なのかというと、レースでは2台でチームを組むのが普通だからです。コレクションやミュージアムではなく、レース場に2台あるのは素晴らしいことだと思ったのです」

最初の課題は、ティレル家に、このマシンが「ティレル」として正式に分類されるための許可をもらうことだった。ヒストリック・レーシングカーを専門とするスピードマスター社のジェームズ・ハンソンが、チーム創設者の故ケンの息子であるボブ・ティレルとの交渉を担当した。

「そんなことは考えたこともありませんでした」とティレルは言う。「熟考の末、最終的には『6輪車がレースに出られないのはもったいない』という結論に達したんです。最も有名なF1カーと言っても過言ではありません。だからこそ、2台のライセンスに合意したのです」

このライセンスは、「コンティニュエーション」と「レプリカ」を区別するための重要なポイントである。CGAは、ティレル家が所有している230枚のオリジナル設計図を入手することに成功。1977年末にティレル社に入社した製図技師のジョン・ジェントリーがコンサルタントとして加わり、CADの作業を監督した。また、1977年のシャシー6(スイスの時計メーカー、リシャール・ミルが所有)を分解して部品をスキャンする機会にも恵まれた。複雑な3Dのジグソーパズルを、1つ1つ作っていくような感覚だろうか。

また、細部のディテールについては、思いがけないソースがあった。ホルツマンは、「ノーズとシートの図面が見つからなかったんです。そこで、タミヤ(田宮模型)の模型をスキャンして実物大にしたのです」と語る。

次に欲しいF1マシンとは?

アリスター・ベネットは、次のように振り返る。

「一番厄介だったのは、シャシーのエンジニアリングと構造でした。リアエンドは比較的簡単ですが、P34のリアバルクヘッドから先の部分はほとんどが特注品です。フロントアップライトがその例で、半分はアップライト、半分はキャリパーという奇妙な配置で、狭いスペースに押し込まれています。幸いなことに、CADに対応した図面があったのですが、それでも機械加工は大変でした」

素材の選択にも細心の注意が払われた。現代的なカーボンファイバーではなく、含浸加工を施したグラスファイバーをノーズに使用するなど、可能な限り当時の仕様を踏襲した。また、ジェフ・リチャードソン・エンジニアリング社製のコスワースDFV V8エンジンも、当時の仕様のものを使用している。現代の機械加工技術を駆使することである程度は作業が簡単になったが、それでもプロジェクトは6か月遅れで進行した。

コンティニュエーションモデルの1台は、7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでパレードに参加した。ホルツマンは、ブランズハッチやシルバーストン・クラシックにも参戦しており、今秋にはスペインとポルトガルで開催されるヒストリック・ミーティングにも参加する予定だ。彼によれば、オリジナル車両の価値が上がり続けていることや、アストン マーティンやジャガーが過去のモデルを新たに製造していることなどから、人々の反応はおおむね良好だという。

「純粋な好奇心があります。わたしは、アイデアを押し付けるのではなく、『シンプルに考えてみてほしい』と言っているだけです。オリジナルの車両はとても高価なので、人々は怖がって乗ることができないでしょう。だから、価値の高いオリジナルを評価し、それほど価値がなくても作りの完璧なコンティニュエーションを認識してほしいのです」

ティレルは7台のP34を製造したが、現存するのは5台のみ。シェクターはシャシー8を所有しているが、ホルツマンはこの個体を、コンティニュエーションとレプリカの中間のハイブリッドと呼んでいる。シェクターは、ホルツマンと彼のP34を自身のカーフェスに招待し、感銘を受け、貴重なセッティングのアドバイスを提供してくれたという。

では、実際に運転してみてどうだったのだろうか?

「最初にウェールズのペンブリーというフラットなコースでテストをしたのですが、とても速く、競争力がありました。気づいたのは、ブランズハッチのように地形が複雑なコースだと、前輪の内側が持ち上がるということです。しかし、ブレーキングやコーナリングでは、前輪が4つか2つかの違いはあまり感じられません」

「素晴らしいのは、直線での空力です。他のマシンの後ろにいると、すぐにゲインを得られたり、後ろの人を引き離したりします」

だからこそ、彼はP34を所有している(うち1台は売却予定)。他にも、コリン・チャップマンがマクラーレンと競ってカーボンファイバーをF1に採用した1981年のロータス87Bや、ジョン・バーナードの傑作でパドルシフトのセミオートマチック・トランスミッションを導入した1989年のフェラーリ640も所有している。どれも革新的なF1マシンだ。

ホルツマンは、他にどんなマシンを集めたいと考えているのだろうか。

「ブラバムのファンカーを2台作りたい!ということで、バーニー・エクレストンと話し合ってみたいですね。見てみたいと思いませんか?」

ゴードン・マレーが1978年に所有していたブラバムBT46Bは、F1のボスであるエクレストンが速すぎる(?)と判断して撤退させる前、ただ1度だけスウェーデンGPで優勝したことがある。ライセンス交渉がうまくいくといいのだが……。ホルツマンも、この件に関しては「ノー」と答えざるを得ないかもしれない。

P34で戦ったF1ドライバーに聞く

南アフリカ人のF1ドライバー、ジョディ・シェクターは当時、6輪のティレルP34にはあまり興味がなかったという。その理由を語ってくれた。

――デザイナーのデレク・ガードナーから計画を聞いたとき、どう思いましたか?

「うーん……。まあ、しばらくはわたしに隠していましたけどね。最初に知ったのはいつだったか覚えていません。わたしにはあまり意味のないことでしたが、続けていくうちにやはり意味のないことになってしまいました」

――前面の面積が小さいのは、空気抵抗を減らすためだったんですよね?

「その通りです。わたしは空力の専門家ではありませんが、後ろは同じ大きさのままでした。少しは効率が良くなったのでしょうか?可能性はありますが、そうではないかもしれません」

「ブレーキの効きが格段に良くなったと言われていますが、理論的にはその通りでしょう。道が平坦で真っ直ぐなときはそれでいい。しかし、コーナーを曲がった途端、小さな車輪の片方が持ち上がるため、ブレーキから足を離さなければなりません。優位性がないのです」

――最初から疑問を持っていたのですね。

「そうですね。テストのとき、チームは実際にそうであるかどうかにかかわらず、優れていることを証明しようとしました。でも、運転していて楽しかったですよ。何でもできます」

――ですが、成功したのではないでしょうか?

「実際のところ、わたしが覚えていた以上に成功しています。数年前に見たときには気がつきませんでした。スウェーデンGPで勝ったことはわかっていましたが、よく壊れました。ザントフォールトに行ったときも、ずっと『壊れるんじゃないか』と不安でしたよ」

「オーストリアでは前輪の片方が壊れて大クラッシュ。スウェーデンでの練習走行では、片方のホイールが外れてしまいました。あまりにもたわむので、アライメントやキャンバーをほとんど毎回リセットしなければなりませんでした」

――スウェーデンで失ったホイールについては、面白い話がありますよね?

「わたしがコースから戻ってきて、ピットにマシンを停めたときのことです。デレクがマシンの上に座り、『ハンドリングはどうだ』と聞いてきました。わたしは『ちょっとアンダーステアだね』と言って、笑いました。彼はホイールがなくなっていることに気づいていなかったんですよ。メカニックたちは、誰かがそれを外したと思っていたんです」

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