思わず擬人化したくなる愛らしさ
photo:Ryota Sato(佐藤亮太)
【画像】愛らしさ600%! フィアット600eの詳細 全61枚
フィアット600e(セイチェント・イー)は簡単に書けば、500eの姉貴分となる5ドアハッチバックだ。サイズは全長4200×全幅1780×全高1595mmと500eの全長3630×全幅1685×全高1530mmよりだいぶ大きいが、同じフィアットで現在も併売される500Xの全長4280×全幅1795×全高1610mmよりは、ひと回り小さい。
600=セイチェントはフィアットで1950年代~に、500=チンクエチェントの上級車種として使用されていた車名で、1990年代に一度復活し、今回は久々の採用となる。
“e”の名のとおりBEVで、156ps/270Nmを発するモーターをフロントに搭載し、フロントを駆動するFFだ。54kWのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続距離は493km(WLTCモード)で、充電は急速のCHAdeMOに対応。車重は1580kgとなっている。
ボディカラーは撮影車のスカイブルーとイメージカラーのサンセットオレンジがオプション扱いで、ホワイトが標準となる3色展開だ。グレードは『600e LaPrima』のみで、価格は585万円となる。今回はBEVのみの発表だが、イタリア本国には1.2リッター3気筒のハイブリッドがあり、それも日本導入予定だ。
こう記していくと、BEVとしてはオーソドックスなプロフィールとなるが、600eの特徴はなんといってもそのスタイリング。シルエット自体はシンプルながら、500eのテイストを散りばめることで、ひと目でフィアットとわかるファニーなデザインを実現している。ヘッドライトがどこか眠そう? と思わず擬人化したくなる愛らしさで、自宅ガレージに迎え入れた日は、新たな家族ができた気持ちになるはずだ。
走りは終始、軽快かつスムーズな印象
個人的に600eは、イタリアで発表された時から気になっていた。初めて購入したクルマがフィアット・ウーノ・ターボで、それ以来、フィアットのハッチバックが好きであり続けている。その後、プント系は正規輸入が続いたものの、1クラス上のハッチバックはブラビッシモ(本国名ブラーボ)を最後にスティーロやティーポは正規輸入されてこなかったので(500Xはあったにせよ)、今回600eが日本導入されると聞いてかなり色めき立った。セイチェントの名前もよければ、サイズも現在のライフスタイルにマッチし、……これはちょっと欲しいかも、となっていたのだ。
というわけで期待大で臨んだ試乗、第一印象は”軽い”であった。まずステアリングが軽く、車検証上の総重量は1855kgと他のBEV同様に決して軽くはないが、動き自体にそれほどの重量は感じさせず、動き出しは軽やかだ。
走行モードはエコ、ノーマル、スポーツで、センターコンソールでドライブ(D)とスイッチを兼ねるBを押すと、回生ブレーキが強めになる設定。ただし強めになるといっても、それこそワンペダルにもなる他のBEVたちと比べるとそれほど強くはなく、そちらに慣れた方には物足りないかもしれない。ちなみにパドルシフトは用意されていない。
バッテリーが床下にあることもあり重心は低めで、走りは終始、軽快かつスムーズな印象だ。BEVで静かすぎるがゆえ、多少速度を上げると外の音が結構入ってきて、ツインエアエンジンの”バタバタバタ”という音が懐かしくなったのと、路面が悪いところで少し後ろが跳ねるような場面もあったが、敢えて書けばというレベルだ。
スポーツモードは出力特性が変わるだけで、個人的にはステアリングに手ごたえが増すといいのではと思ったが、その加速はBEVらしくスムーズかつ気持ちのいいもの。公道では終始、十分なパフォーマンスを発揮してくれた。
イタリアはデザインで勝負
AUTOCAR UK編集部が伝えたように、イタリア本国では500eの生産が一時ストップ。半導体不足、進まぬインフラ整備、揺らぐ各国の電動化政策など、外的要因に翻弄されながら、世界的にBEVは誰が見ても伸び悩んでいる。
そのため600eとプラットフォームを共有し同じ工場で生産するアルファ・ロメオ・ジュニアやランチア・イプシロンも、ハイブリッドモデルを用意。同じフィアットでいえば、BEVとハイブリッド2本立てのグランデ・パンダを出しつつ、現行パンダをパンディーナとして生産続行するなど、メーカーの動きは慌ただしい。
ここ日本でもインフラの問題はあるが、BEVの長期レポート車を抱えている筆者は、上手につきあえば十分に楽しめる、いや、今楽しまなければ損ではないかと思っている。
そんな中で600eは、必要な装備はひととおり備わっていて、逆にBEVにありがちな余計なものがついていない印象もあり、オーソドックスでシンプルなプロフィールは、その走り同様、ストレスを感じさせないものだった。それはエンジンの振動や音がなくなったことによる、BEVとしてのアドバンテージもあるのだろう。
いやそれでもエンジンがいいという方はハイブリッドを待てばいいし、スタイリングに惚れたら、BEVをデザイン買いすればいいだろう。確かに決してリーズナブルとは言い難い価格設定だが、撮影中にまるで動物のように愛らしい顔で見つめられて、「この子は連れて帰らないとダメかも……」と思ってしまった。個性の差をつけにくいBEVカテゴリーにおいて、イタリアはデザインで勝負! という、昔も今も変わらぬ底力を見せつけてきたのである。
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