2018年10月に発売されたレクサスの新型ESは、レクサスESとしては国内初登場ながら、1989年のレクサス創設時から、初代LS(日本名トヨタ・セルシオ)とともに店頭に並べられてきた古株で、レクサスの最量販サルーンでもある。ESの伝統通り、トヨタ・カムリと前輪駆動プラットフォームを共有するも、7代目となる新型は現行カムリよりも45mm長いホイールベースが与えられ、旗艦モデルLSより広い室内空間をもつ。
パワートレインはシステム出力218psの2.5リッター4気筒+電気モーターのハイブリッド・システムのみで、価格は580万~698万円(税込)。ちなみに329.832万~434.16万円のカムリとは200万円以上の開きがある。
メルセデスやBMWと比較するのはやめましょう──レクサス新型ESを考える
このエグゼクティヴなエレガント・セダン、新型ESを試乗したフリーアナウンサーの安東弘樹さんと小誌編集長が印象を語り合った。
すばらしいダンパーを手に入れた
安東 僕、レクサスの旗艦LSのエクステリアが正直いって苦手なんです。ちょっとアグレッシブ過ぎる印象があって。ESも同じスピンドル・グリルでそこは似ているけど、不思議とエレガンスを感じました。まとまりもあって、デザインは好印象でした。
スズキ デザインは、とくにプロファイルがいいと思いました。僕はESにはじめて設けられたスポーティ仕様のF SPORTから運転しました。ラグジュアリー志向のversion Lよりひとまわり大きな19インチのホイールを履いていたので、乗り心地がちょっと硬い。居住性は前輪駆動のESの伝統を裏切らない広々、晴れ晴れしたもので、視認性もいいから、気分がよかったです。山口宇部空港を出てすぐに、あ、トヨタ式ハイブリッドのe-CVT(電気式無段変速機)だ、と想起しましたが、エンジン回転に即応するトルクのつきに一驚しました。ハイブリッド車だからこその、低回転域でのトルクの立ち上がりのよさを、変速機がうまく拾うようになっていた。
安東 なるほど、ちょっとわかります。
スズキ で、version Lに乗り換えると、なんと乗り心地がすばらしくいい。こう言っては何ですが、正直、予想外のことで驚きました。これはレクサスの若いエンジニアがカヤバと共同開発したダンパー(「スウィングバルブショックアブソーバー」)ゆえのことのようです。ショックの入力にたいしてダンパーは縮んだり伸びたりしてショックの伝達をやわらげる役割を果たすわけですが、この新開発のダンパーは、小さなショックの初期入力にたいしてもキチンと対応できている。したがって小入力に反応しきれずにコトコトとショックを伝えることがなく、乗り心地に深みが出ていました。トヨタ=レクサス史上、画期的なダンパーではないか、と思いました。で、ドライブモードをスポーツモードに切り替えて、ステアリングに設けてあるパドルでe-CVTのステップギアをパンパンとシフトしていくと、トランスミッションの反応もかなり素早くて、うまくチューニングしてある、と思いました。
安東 僕は、とにかく運転中に変速するのが楽しくてしようがない人間なんです。だから、マニュアル・シフト以外だとちょっと不機嫌になる、というぐらい心の狭いドライバーなんですね。そんなわけで、CVTは苦手なんです。どうももどかしくて……。とはいえ、ESは高速巡航をクルマの性能のなかで大事にしていて、直進安定性はF SPORTのほうがよかったと感じたんですけれど、乗り心地はversion Lのほうがいい、と思いました。じゃあ、もしこのクルマを買うとしたら、僕はどっちをとるだろうか、悩むところです。
スズキ 僕はversion L派です。F SPORTとは、動力性能自体は変わらないですしね。F SPORTはアウディのSラインとか、BMWのMスポーツに似たグレードだから、お好きなひとが選ぶ仕様なのではないでしょうか。version Lはいいクルマだと思いました。
安東 たしかにどちらに乗ってもガッカリすることはないですね。おもてなしの部分とか、シートの座面の長さとかも不満なしでした。
スズキ 前輪駆動ですが、ハンドリングもしっかりしたものでした。とくにすごくファンとかいう性質ではありませんが、ボディがしっかりしていて、version Lのダンパーのパフォーマンスのよさには、メルセデスのCクラスのような印象をもちました。
安東 僕は新しい可変ダンパー付きのCクラスに乗って感動したんです。
スズキ 僕はちょっと古いCクラスのことを言ったんです。というのも、新しいCはまだ乗ってないんです(笑)。これからトヨタおよびレクサスの他車があのダンパーを使うようになるといいなと思って、開発した若いエンジニア氏には「よかったですね」と伝えました。
安東 いや、編集長にそう言われたらうれしいでしょうね。あと、デジタル映像のミラーはどうでしたか?
スズキ あれは慣れが必要でしょうね。
安東 僕もそう思います。まだ解像度が低いじゃないですか。紅葉がちょうどきれいだなーと思って、ミラーに映る画質が肉眼とはるかに差があって、そこだけがどうしても気になってしまって。
スズキ 僕は逆に情報量が多すぎてわずらわしいと思いました。ミラーは運転に必要な情報だけを拾えばいい、と考えるからです。思い通りの運転をするためには紅葉の彩度がわかる映像情報は必要ないですよね。
安東 う~ん、そうですか。編集長の話を聞いて、レクサスESのことが自分のなかでだいぶ明快になってきました。ESを選ぶかたはしゃかりきになって飛ばすかたではないでしょうし。
スズキ かつてのCMイメージ的には「国際線機長」ですからね。
安東 レクサスES300、日本名トヨタ・ウィンダムのテレビCMですね。僕が覚えているのは、国際線の機長とNBAのヘッドコーチと脳外科医でした。
スズキ やっぱりそういうひとなんじゃないですか、ターゲットは。あるいはLSとかLCに乗っている男性の奥さんとか、娘さん。
安東 レクサスのセダンを1台だけ選ぶとしたら、僕はESを選ぶと思います。ゴルフに行くシチュエーションも含めて、快適なビジネス・サルーンを求めるという目で見ると、新型ESは的を射てますからね。ゆったりと疲労の少ない状況で、ある程度の距離を移動する、という目的には現行のLSよりむしろESのほうが近い。サルーン系のレクサス全体がESのエレガンスの方向性に進めばいいのに、とさえ思いました。それでは編集長、まとめをお願いします。
スズキ レクサスのなかではESは鬼っ子なんじゃないか、と僕も思います。レクサスのそもそもの嚆矢である初代LSは、メルセデスのEクラスぐらいの値段でSクラスぐらいの品質感のあるものをめざして誕生した。V8にしたのもSクラスのメインがV8だったからで、「源流対策」をキイワードに掲げて、V8エンジンそれ自体をものすごくスムーズにした。そういう文脈からすると、スタート時からレクサスの世界になんらかの事情で紛れ込んだ前輪駆動のモデルであるESは、はじめから別種のレクサスだったはずです。ベースとなったカムリはレクサス・ブランドとは無関係に、健全なミドルクラスのための、燃費がよくて広々とした、乗り心地がいいクルマとしてつくられたわけですから。とりわけ初代カムリはトヨタのなかでは抜群に合理的な、素性のいいクルマで、新型ESにもその血を感じました。非常に健康的な広さがあって、居住性もとてもいい。で、僕にとって最大のニュースは、いままでできなかった、すばらしいダンパーがとうとうできたことです。それが新型ESの一番の魅力だと思いました。
安東 これからが楽しみです。
LEXUS ES
レクサス創業時から入門用として店頭に並んだ。その後の商品拡充で立ち位置が変わるも、現在もレクサスの販売の屋台骨を担う。累計販売台数は220万台を突破。日本市場ではハイブリッドの300hのみの展開で、スタンダードと豪華仕様の「version L」、スポーティ仕様の「F SPORT」の3グレードの設定がある。
SPEC(ES300h version L)
全長×全幅×全高:4975×1865×1445mm、ホイールベース:2870mm、車重:1730kg、前輪駆動、ハイブリッド=システム出力:218ps、2.5ℓ直4=最高出力:178ps/5700rpm、最大トルク:221Nm/3600~5200rpm、電気モーター=最高出力:120ps、最大トルク:202Nm、車両価格:698万円(税込)
安東弘樹
フリーアナウンサー
1967年、神奈川県生まれ。成城大学を卒業後、1991年アナウンサーとしてTBSに入社。2018年3月のTBS退社後は、フリーランスのアナウンサーとして活動している。自動車マニアで知られ、車歴は42台。自動車専門誌では連載コーナーをもち、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員を務める。
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