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バットモービル BMW CSL 169台のキャブレター仕様 M社を象徴するクーペ

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バットモービル BMW CSL 169台のキャブレター仕様 M社を象徴するクーペ

もくじ

ー わずか169台が作られたCSLのキャブレター・モデル
ー アルピナやシュニッツアーによるツーリングカー参戦
ー 181kgダイエットした1165kgのCSL
ー 7J幅のアルピナ製ホイールにオーバーフェンダー
ー 英国限定で存在した500台のCSLi
ー 走行距離6万4000kmのキャブレターCSLを発見
ー BMWモータースポーツの起源
ー BMW 3.0CSLキャブレター(1971年~1972年)のスペック

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わずか169台が作られたCSLのキャブレター・モデル

今回はBMW製のクーペ、CSL誕生の物語を振り返ってみよう。輝かしい1970年代のBMWが生んだモータースポーツの伝説を、たった1モデルで築き上げたといっても過言ではない。通称「バットモービル」と呼ばれていたこともご存知な読者もいるはず。映画バットマンに登場するバットモービルのような、派手なフロントスカートやリアウィングからそう呼ばれた。

当時のBMWとしては最速で希少価値も極めて高く、ビジュアル的にも強くひとを惹き付ける力あった。そんなわれわれを興奮させてくれたCSLだが、誕生前後のことはあまり良く知られていない。特に、1971年の5月から1972年の6月にかけて製造された、169台のキャブレター・エンジンモデルのことは。

キャブレターモデルはすべてが左ハンドル車で、英国では正規で販売されることはなかった。英国の輸入代理店は、BMWのラグジュアリーなイメージに反して、贅肉を剥ぎ取られたようなクルマにあまり興味を示さなかったのだろう。特に当時は、単に営業許可を得ていただけで、BMWの製造部門との距離も遠かったのだ。そんなクルマが、後に大きな注目を集めることとなる。

そもそもE9クーペは豪華なボディトリムに、さほど強固とはいえないボディシェルを持ち、様々な点でレーシングカー向きではなかった。1965年に2000CSとして誕生したクルマが、進化を経て後にヨーロッパ・ツーリングカー選手権で5度も優勝を果たすとは、誰も想像しなかっただろう。しかも、E9型がE24型の6シリーズとしてモデルチェンジをした後でも、さらに3年間に渡って高い競争力を誇っていた。

アルピナやシュニッツアーによるツーリングカー参戦

このE9クーペ登場以前のBMWのモータースポーツでの活動といえば、更に小ぶりな2002と、フォーミュラ2への参戦に限られていた。そんな中、当時はまだ、いちチューニングメーカーだったアルピナ社が、ほとんどストック状態のE9でクルマのポテンシャルを示した。6気筒エンジンを搭載した2800CSクーペは、パワーステアリングを付けた状態で、1969年のスパ24時間レースを完走したのだ。

結果は9位と充分な健闘といえたが、完走するまでに消耗させたダンロップ製のタイヤは延べ40本にも達した。軽量なV6エンジンを搭載したフォード・カプリなどと比較して、BMWの車重がタイヤを摩耗させたことが原因だろう。

当時のBMWは、アルピナやシュニッツアーなどのチューニングメーカーが、CSクーペをベースにした車両でレースに参戦することを自由に任せていた。レースで好成績を納めれば、BMWにとってもその栄光をあやかることができるし、反面、成績が振るわなければ、BMWとしては正式に開発などに関わっていないと主張することができたからだ。

1970年に入り、BMW製のクーペの秘めた力が光り出す。アルピナによる2800CSが、国際レースで2度優勝し、欧州タイトルも視野に入る成績を収めたのだ。そして2800CSの改造されたアピアランスが、そのイメージを高めることになる。ドライサンプ化されたエンジンは284psを発生させ、大きく膨れたフェンダー、「バブル・ホイールアーチ」の中には、小径ながらディープリムの13インチホイールが納まっていた。

しかし、問題は依然としてその車重。フォード・カプリが304ps程度の馬力で970kgの車重に納まっていたのに対し、BMWのクーペは1270kgと重すぎた。ニュルブルクリンクのラップタイムで見ると、10~15秒の差になってしまう。しかし、アルピナとシュニッツアーは、フォード一強の状態を崩すべく、より強いBMWを生み出すことに注力していく。

まもなく、その努力が実る時が来る。1971年の8月、オランダはザントフォールト・サーキットで、ダイエッター・クエスターがドライブする、シュニッツアー2800CSが、RE2600カプリを破り、見事トップでゴールを果たしたのだ。

181kgダイエットした1165kgのCSL

一方で量産モデルでは、2800CSからカルマン社が製造を請け負った3.0CSに置き換わっていたのだが、軽量版モデルの計画をBMWは密かに進行していた。チューニングメーカーの要望に、BMWは耳を傾けていたのだ。これこそ、ヨーロッパ・ツーリングカー選手権のグループ2参戦を目的に、ホモロゲーション獲得として1000台が生み出された、3.0CSの軽量版となる3.0CSL。実は、英国市場向けに作られた右ハンドル車もあり、その数は500台だった。

BMWはレーシングドライバーのヨッヘン・ニーアパッシュをトップに据えた、モータースポーツ部門の立ち上げも進めていた。彼はフォード・カプリのサーキットでの活躍を支えた人物で、BMWのセールス部門チーフ、ボブ・ルッツによって引き抜かれてきた。1000台の軽量版3.0CSLの製造を約束した上で、移籍に同意したそうだ。

公道版のCSLが初めてわれわれの目前に表れたのは1971年のジュネーブ・モーターショー。標準のCSより181kgも軽量で、車重は1165kgと発表された。ドアやボンネットなど、可動部分のボディパネルはすべてアルミニウムに置き換えられ、フロントノーズやルーフなど、ボディ構造をなすスチール部分も軽量化のために厚みが削られていた。

軽量化のための対策は他にも施されており、リアのサイドウインドウはアクリル製で、フロントとリアガラスはより薄いラミネートガラスを採用。フロントバンパーは備わらず、リアバンパーはポリエステル樹脂の成形品で、重量はわずか2.5kg足らず。

車内への防音材は削られ、フロアカーペットも薄いものになり、防錆処理も薄膜化された。もっとも、カルマン製のボディは全般的に防錆処理が充分ではなかったけれど。またボンネットとトランクのラッチ部分も、軽量化のために省かれるという徹底ぶり。ボンネットの固定には、クロームメッキ仕上げのレーシーなボンネットピンが用いられている。

7J幅のアルピナ製ホイールにオーバーフェンダー

もちろん、パワーステアリングとパワーウインドウは備わらない。アクリル製の三角形のリアサイドガラスは、ヒンジ分の重量を省くために、はめ殺しタイプになっていた。天井の内張りは余計な反射を抑えるために黒色が採用され、大柄でリクライニング機構付きだったフロントシートは、スキール社製の軽量なバケットシートに交換された。シート中央部の表皮はコーデュロイになり、大きく張り出したサイドサポートは黒の人工皮革製。リアシートも同様に張り替えられてある。

E9が発表された当時から、直径が大きくリムが細いステアリングホイールの評判は良くなかったが、小径でグリップの太い、3スポークタイプのものに付け替えられてある。ドア内側のコーテジーライトは、ラリー用のマップリーディング・ライトに交換。トランク内の内張りやリアウインドウの熱線、トランクリッド裏に取り付けられていたBMW製の純正工具も省かれていた。

徹底的にサーキット走行に余分な装備を省かれていたCSLだが、追加されていたものは7J幅のアルピナ製のアルミホイールに、クロームメッキされたオーバーフェンダー・モール。幅の広いタイヤをフェンダー内に留めている。ちなみに標準のCSやCSiのホイール幅は6Jだった。縦長のキドニーグリルの横には、マットブラックに塗られたフェイクのエアベント。ショルダーラインには、3.0CSLと型抜きされたストライプ・ステッカーがあしらわれている。生産初期のCSLのボディーカラーとして、コロラド(オレンジ)、ゴルフ(イエロー)、インカ(ゴールド)、ヴェローナ(レッド)の特別色も設定された。

ビルシュタイン製のショックアブソーバーとプログレッシブ・レートが採用されたスプリングのおかげで、クルマの乗り心地はややソフトな印象。装備が削られても、乗り心地の良さまでは削られなかった。タイヤのキャンバー角も見直され、ステアリングのギアレシをも低められている。25%ロック設定のリミテッドスリップデフも搭載されているが、実は2800CSクーペでは標準装備だったもの。なぜか後継モデルとなった標準の3.0CSには、採用されていないのだった。

エンジンは、3.0CSと同じM30と呼ばれる2985ccの直列6気筒。ソレックス35/40ツインチョーク・キャブレターを2基搭載し、最高出力は182psとなっていた。トランスミッションは平凡なゲトラグ製の4速マニュアル。最高速度は212km/hと、標準のCSより数値の面では劣っていたが、0-100km/h加速は7.2秒がうたわれていた。減速比3.45:1のディファレンシャルのおかげで、3速で160km/hを出すこともできた。

英国限定で存在した500台のCSLi

3色に塗り分けられた、三つ折りのCLSのパンフレットに掲載されていたパワーウェイトレシオは5.8kg/ps。1972年に発行されたものだが、それには3003ccのキャブレター式のCSLも載っているものの、実際にリリースされたという情報はない。3003ccまでボアアップされたエンジンには、すべてボッシュ社製のフュエルインジェクションが採用されている。

ちなみに、CSLiと呼ばれる500台限定の右ハンドル車も登場している。冒頭で紹介した英国市場向けのクルマで、シティパッケージと呼ばれる特別仕様が施されており、CSやCSiのものと同じバンパーも装備されていた。CSLiには、パワーステアリングなど重量のかさむ快適装備も実装されており、軽量化という本質は損なわれている。

もちろん、左ハンドル車でも同様に快適装備を搭載したクルマも選べた。BMWのボブ・ルッツは社用車として、3003ccのCSLにエアコンなどを付けたフルオプション状態のクルマ乗り回していたそうだ。セールス部門を率いていたルッツは、もし1000台のCLSを販売するなら、選択肢としてインジェクション・システムも必要だと考えていた人物。実際はレースには不向きではあったため、ホモロゲーションはキャブレターで通している。

CLSは0.25mmボアアップすることで、3003ccを獲得。M30型の直列6気筒ブロックとしては限界と呼べる数値だったが、ETCCでは3ℓ以上のグループ2クラスに参戦することになる。BMWのモータースポーツ部門としては、さらに排気量を増やすことを計画していたようだ。

また一層軽量なクーペ・プロジェクトの試験的な意味合いも、キャブレター仕様のCLSは含んでいた。ヨッヘン・ニーアパッシュがBMWに加わると、BMWモータースポーツ社として独立することが決まり、クーペ開発のプロジェクトには勢いがつくこととなる。

キャブレターを搭載したCSLは169台が製造され、21台がアルピナやシュニッツアーなどのチューニングメーカーやプライベーターが購入し、レースカーへと作り変えられている。残りの台数は、ヨーロッパ各国のBMWディーラーを通じて、一般へと販売された。

3003ccのインジェクション・モデルには、右ハンドル車と左ハンドル車とでも違うシャシーナンバーが振られ、識別のために2275/2285という番号が付いている。一方でキャブレター仕様のCSLには、通常のSCシリーズと同じ、2210や2211、2212というシャシーナンバーが充てがわれた。

走行距離6万4000kmのキャブレターCSLを発見

シャシーナンバー2211723のCSLは、169台のキャブレター車の中で85番目に製造されたクルマ。1972年1月21日にラインオフし、当時の7500ポンド(108万円)という金額でイタリアのワイン商が購入した。

カラーコード002番の鮮やかなコロラド・オレンジで塗られ、46年たった今でも走行距離は6万4000kmほど。塗装も当時の状態を保っている。軽量なCSLだが、その独創性や価値の認識が不十分だったこともあって改造されているケースが多く、この状態を保っていること自体が珍しい。

しかし今日では、CSLはBMWのモータースポーツにおけるアイコンのような存在。E9クーペとしては珍しく、2211723はまったくサビのないボディが保たれている。何しろ、製造をしていたカルマン社にはこんな冗談が残っているほど。「カルマン社がサビを発明し、イタリア人へ提供している」 あながち、完全なでまかせともいえないけれど。

このCSL、幸運なことに初代オーナーとイタリアのアスティ地方に1990年台はじめまで一緒に過ごしている。その間、環境の良い納屋で保管していたそうだ。そして2009年、英国にあるBMWの専門店、クラシックヒーローズのバーニー・ハルズがこのクルマの存在を知る。

ハルズは長年CSLを修理・販売し、自身でも運転してきたが、このCSLに出会うまで、キャブレター仕様のクルマは目にしたことがなかった。手に入れると、ミュンヘンのBMWクラシックへCSLを送り、可能な限りオリジナル状態に戻すべく、クルマの状態認証と解説書を準備してもらった。「BMWクラシックの方も興奮していました。彼らもCSLのキャブ車は見たことがなかったそうです」

ブレーキは組み直され、ゴム製のモールなどは新品に交換。ビルシュタイン製のダンパーもリビルトされたCSLは、純粋なオリジナルのお手本のような仕上がりだ。少ないながらも厳選されたハルズのBMWクラシック・コレクションの中でも、自慢の1台となった。

BMWモータースポーツの起源

現在ではE9型のファンにとって、キャブレターのCSLは垂涎の的ともいえるクルマだが、新車当時は販売に苦労していた。ホモロゲーション取得のために生み出されたクルマとはいえ、レースに参戦しようというひとは限られていたからだ。薄い防錆処理にバンパーやエアコンも備わらず、標準モデルよりも堅牢さや快適性で劣っているのに、価格は高かったのだから無理もない。

現在、貴重で純粋なCSLを目にできるクルマの殆どは、コレクターが所有していたものだと考えていいだろう。BMW M1はBMWモータースポーツ社、現在の「M」社の正式な初めてのレースカーではある。しかしその歴史を刻み始めたクルマは、このキャブレター仕様の3.0CSLだといえる。

BMW 3.0CSLキャブレター(1971年~1972年)のスペック

■価格 新車時7500ポンド(108万円)/現在20万ポンド(2900万円)以上
■全長×全幅×全高 4658✕1676✕1351mm
■最高速度 212km/h
0-100km/h加速 7.2秒
■燃費 5.3~7.0km/ℓ
■CO2排出量 -
■乾燥重量 1165kg
■パワートレイン 直列6気筒2985cc
■使用燃料 ガソリン
■最高出力 182ps/6000rpm
■最大トルク 25.9kg-m/3700rpm
■ギアボックス 4速マニュアル

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