「○○を普段使いする!」という威勢のいいサブキャッチとともにお贈りした当連載「粋な絶版名車のススメ」も、今回でとりあえずおしまいである。なぜならば、筆者がある程度身をもって、経験を通じて力説できる「粋な絶版名車」のストックがもはや尽きたからである。
「これまで筆者が紹介した全25車種以外に、粋な絶版名車はこの世に存在しない」などと言うつもりはない。だがそれでも2019年秋の今、ある種の人間が注目してみるべき「現実的な選択肢としての絶版名車」の多くは網羅できたと思っている。
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ただ、話が長くなってしまうため「連載中はあえて説明を省略したこと」もある。
それは、ひとくちに普段使いと言ってはいたが、実際は二つの方向性、すなわち「普段使いA」と「普段使いB」という区分を念頭に置いていた──ということだ。
本当の意味で普段使いできるクルマ「普段使いA」とは、文字通りの意味でガンガン普段使いすることも可能な車種だ。それは例えば、筆者が紹介した全25車種のなかでは下記あたりのモデルが該当する。
・E30型BMW 3シリーズ(六本木のカローラと呼ばれたアレ)
80年代末期に「六本木のカローラ」と呼ばれた3シリーズ。当時は爆発的な売れ行きを誇っていた。スクエアかつ丸みのあるデザイン、そしてコンパクトなサイズからくる運転の楽しさが現代のクルマに対するカウンター的な魅力を持っている。・ミニ(英国製である元祖のほう)
イギリスのBMCが1959年に発売した元祖ミニ。エンジンを横向きに起き、前輪を駆動させるという当時革命的とも言えるレイアウトを大衆実用車で実現した。連載では「人間拡張の境地」を味わえる名車として紹介した。・初代フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ
初代フォルクスワーゲン ゴルフをベースに作られたオープンモデル、フォルクスワーゲン ゴルフ カブリオ1.8。連載では「まるでアコースティック弦楽器をつま弾いているかのような気分にさせてくれるクルマ」と評した。・996型ポルシェ911(3世代前のポルシェ911)
水冷第1世代となるポルシェ 991(タイプ996)。サイズ感や最新型と比較してよりダイレクトな運転感覚、そしてメーカーによるサポートが整っているとして絶版名車に選んだ。・W124型メルセデス・ベンツEクラス(4世代前のEクラス)
「最善か無か」というテーマを掲げていたメルセデス時代の最後の1台と言われるW124。1980年代から90年代初頭への時間旅行を楽しむクルマとして紹介した。・先代メルセデス・ベンツGクラス(のショートボディ)
昨今のギラついたSUVにはない、ちょうどいい枯れ感を持っているSUVとして紹介された先代Gクラス。とくに、90年代末期~00年代のモデルで、ショートボディのものが枯れ感と通っぽさのあるクルマとしておすすめだ。・ボルボ240エステート
80年代から90年代初頭にかけてカメラマン御用達のクルマとして愛されていたボルボ240エステート。連載では、古いなりの運転感覚の大雑把さはあるものの、乗っているとなぜかのんびりと幸せな気分になるクルマと評した。・その他
つまりは絶版車のなかでは比較的新しく、そして比較的安価なモデル群が「普段使いA」である。
無論、いくら比較的新しいモデルとはいえ実戦投入前には「微に入り細を穿つ納車前整備」が必須であり、その整備には「まあまあの予算」はどうしたってかかる。
だが、それ(微に入り細を穿った納車前整備)さえ最初に行っておけば、あとはもう本当に「日常的に」使うことも可能なのだ。スーパーマーケットへ食材を買いに行くなり、ホームセンターまで木材を買いにいくなり、どうぞご自由に……である。
とはいえ古い世代のクルマであることは間違いないため、それでもたまにはちょっとした不具合のため専門工場に入院・通院することはあるだろう。また年に一度の頻度で「健康診断」を受けることも強く推奨したい。さらには数年に一度の「ドック入り」も必要となるだろうし、あと細かいことを言えば、最近のクルマと違って燃費はあまりよろしくないと覚悟する必要もある。
だが、逆に言えば「普段使いA」の注意点などせいぜいそのぐらいなのだ。
それ相応の覚悟は必要しかし「普段使いB」はそう簡単にはいかない。
Bカテゴリーに入るモデルとは、要するに「かなり高価でハイバリューな絶版名車、あるいはけっこう古い年式の絶版名車」だ。それすなわち、ご紹介したなかで言えば下記である。
・ランチア デルタHFインテグラーレ(往年のラリーで大活躍したクルマ)
ランチア デルタHFインテグラーレ 16V エボルツィオーネII、略してエボ2と呼ばれるイタリアの絶版名車。自動車愛好家の憧れ的なクルマだが、壊れやすいことでも有名。しかし発売から25年経ったいま、伊達自身の経験と合わせ流通しているのは優良個体のみではないかと紹介した。・フェラーリF355(5世代前のV8ミッドシップフェラーリ)
360 MODENA以降の高性能化に伴う大仰なデザインに対し、女性的で可憐なデザインが感じられるF355。1960年代から80年代ごろまでのフェラーリには、こうしたデザインが見られたものだ。・964型ポルシェ911(空冷エンジンを搭載していたポルシェ911)
・アルピナB6 2.8/2(かなりレアなBMWアルピナ)
連載で主に取り上げたのはE36と呼ばれるBMW 3シリーズをベースにアルピナが製造したモデル。写真はE36型の一世代前となるE30型をベースにしたアルピナのB3 2.7。「アルピナが本当のアルピナだった時代に作られた3シリーズ」と評した。・ジャガーXJ-S(往年のジャガー製2ドアクーペ)
ジャガーのスポーツ性とプレミアム観が独特の混淆を見せていた時代のクーペ と評したジャガー XJ-S。最高のクルマを様々なものを度外視して求めるメーカーとユーザーの、粋が現れたクルマとして紹介した。・ポルシェ356(911登場前夜のポルシェ製スポーツカー)
・その他
上記のような貴重で希少なモデルであっても、「事前の完璧な整備」と「使用中の十分なケア」を存分に行う覚悟があるならば、実はスーパーマーケットにもホームセンターにもごく普通に乗っていくことはできる。
さすがに大きな木材は載らないだろうが、フェラーリF355を飛ばしてホームセンターまでバケツとかを買いに行っても構わないのだ(実際、ごく少数だがそういった使い方をするフェラーリオーナーも存在している)。
毎日乗らずとも満足できるだけの魅力だが、「できるから」といって普通に普段使いをしてしまうと、どうしても下記2つの問題が生じてきてしまうのである。
●問題1:何かとデリケートなクルマが多いので、普段使い用に酷使していると、やっぱりあちこちが壊れてくる(で、その修理費用は高い)。
●問題2:普段使い車として使用すると「走行距離」が延びてしまうため、その後のリセールバリューが著しく毀損される可能性が高い。
まあ「問題2」については、ダンディズムの観点から言えば無視したいところではあるのだが、リアリズムの観点から言うなら無視はできない大問題であろう。
こういった問題が発生することが大いに予想されるため、「普段使いB」に該当する絶版名車に関しては、普段使いといっても「せいぜい週に一度ぐらいの頻度で使う」というスタイルを筆者は想定していた。
「たかが週に1回走らせるぐらいで『普段使い』を謳うとは、看板に偽りありじゃないか!」との非難もあるかもしれない。
確かにそのとおりでもあるのだが、筆者には筆者の言い分もある。
カテゴリーBに入る絶版名車各位はそのデザインも、存在感も、さまざまな種類の「走りの魅力」も、とにかくすべてが強烈である。強烈というか、濃い口である。
そして濃い口であるがゆえに、毎日乗らずとも十分「満足」できてしまうのだ。
普段は、ガレージにとまっているそれを眺めて「……やっぱ、いいな」と独りごちる。
そして週に1回とか月に3回ぐらいとか、つまりは「たまに」というニュアンスで実際に走らせ、これまた「……うん、やっぱり最高だ」と独りごちる。
そんな感じの「普段使い」でも十分お腹いっぱいになるのがカテゴリーBであり、「むしろ毎日乗る必要がない」とすら言える一群なのである。
まあいずれにせよ、多少のカネとそこそこの覚悟さえあるならば、絶版名車を手に入れ、それとともに暮らすのはさほど難しいことではない。そしてそれは、金太郎飴的と言えなくもない最新世代のクルマとの暮らしと違い、貴殿の日々にさまざまな「物語」を提供するはずだ。
連載は終わるが、ご興味がある方はこれからも「絶版名車」の存在と流通情報に目を光らせておいてほしいと、切に願っている。
文・伊達軍曹 編集iconic
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