もくじ
ー ラリー・ホルトという男
ー ホルトの送ってきた人生
ー マルチマティックの誕生
ー マルチマティックの仕事
ー レース活動で得られる利益
ー ラリー・ホルトとの一問一答 その1
ー ラリー・ホルトとの一問一答 その2
フォードGTが生まれる場所 カナダ「マルチマティック」を訪問
ラリー・ホルトという男
ラリー・ホルトに初めてあったひとは、彼のヘア・スタイルにびっくりするだろう。念のために言うと、ホルトは超高価格車を専門とする会社の副社長でまだ57歳。肩まで広がった白髪まじりの髪とカジュアルな出で立ちから、彼が床屋嫌いで服装に無頓着だということがすぐにわかる。
しかしながら、彼は複雑なクルマの技術開発と製造で世界的に有名な専門家なのだ。アストン マーティンOne-77やヴァルカン、フォードGTなど複雑怪奇なスーパーカー・プロジェクトを何度も蘇らせてきた。
フォードGTを中心としたファクトリー訪問記「フォードGTが生まれる場所 カナダ『マルチマティック』を訪問」をまず読めば、今回のコンテンツはもっとおもしろくなるだろう。
それでも最初に会ったときには、このユニークな外見のホルトがフォード、GM、AMGやアストン マーティンのスーツに身を包んだ重役連中と並んだらいったいどんな感じだろうと想像しないわけにはいかない。ホルトはこういう連中とハイ・レベルの取引を行っているのだ。
著名メーカーの重役は、何といっても、しっかりとした身だしなみが重要だと信じている連中だ。でもホルトの技術開発部門について尋ねれば、彼らがホルトを好きなだけでなく、愛していることがわかるだろう。
トロントで従業員5人からスタートしたマルチマティック社は、今では全国の拠点で900人が働くまでに成長した。「ラリーには驚くよ」とみな口をそろえる。「必ず約束以上の成果を出すんだからね」
いったいどんな男なのだろう。興味が湧いてきた。
ホルトの送ってきた人生
ここ数年の間に、ホルトは高度に洗練された少量生産のスーパーカー・プロジェクトで傑出した成果を上げた。先にも書いたがマルチマティック社が関係したアストン マーティンOne-77とヴァルカンおよび最新のフォードGTである。
ともにル・マンで優勝し、現在1000台の市販車が製造されている。メルセデス-AMGのプロジェクト1の仕事もひそかに継続している。
フォードGTは、マルチマティックにとって最大のスーパーカー契約である。カナダのマークハムにアッセンブリー専用の工場を建設し、カスタマー・デリバリーの直前までマルチマティック社がクルマ自体を製造している。
ホルトは初年度のことを「本当の地獄」と呼ぶ。しかし事態は落ち着き、クルマのオーナーからは製造品質についての賛辞が寄せられ、フォードはご満悦の様子だ。「そのビッグネームに違わぬ品質を必要としているのはフォードなんですよ」とホルトは言う。
幼少のころ、ホルトは「寝室の窓からワイト島が見えた」英国南部の海岸地方で過ごした。BSA(バーミンガム・スモール・アームズ社)のワークス・ライダーだったカナダ人の父は、ラリーが8歳のときに生活のためクルマもバイクも売り払い、家族はトロントに移住した。
彼は幼少期後半をマークハム近郊で過ごした。「オートバイが好きでしたね」と彼は言う。
「14歳になったとき、父の仲間のひとりがローラT212を買ったんです。それでわたしは彼の手伝いをするようになったんです。15歳のときにはヒューランドのギアセットを交換していました。スパナを握ることが天職なんだと感じました」
マルチマティックの誕生
若いラリーの学校選びには驚く。オンタリオの栄光あるウォータールー大学(今ではマルチマティック社が毎年沢山の卒業生を採用している)への入学を反故にしたホルトは、自らを「ナットとボルトの男」だと考え、近くの技術専門学校へ入った。
そこには工作室があり、最初の年から設計図面の授業があった。そこで一生懸命頑張ったホルトは、機械分会の主席となってクラストップで卒業し、夜も猛烈に勉強して当時最新だった有限要素解析法について深い理解を得た。
これによってマッセイ・ファーガソン(トラクターの王様ハリー・ファーガソンは今でも彼の英雄である)で職を得た彼は、大西洋を挟んで有限要素解析を教えて回るのに忙しかったが、会社が突然倒産してしまった。
ホルトはカナダの自動車部品大手マグナに転職し、まもなく創立者トニーの息子であるピーターと出会う。運命の出会いだった。ピーターは自身の会社であるマルチマティックを立ち上げたばかり。ちょうど、自動車メーカーが何から何まで自社で設計する時代から、サプライヤーに設計を委託するようになる時代への転換期だった。
ホルトには夢のような話だ。そして紆余曲折はあったものの、それ以来彼がずっとマルチマティックに在職している根本的な理由はこれなのである。
「技術開発はそれ自体で収益を上げる必要があるとピーターには言ったんです」とホルトは続ける。「製品は作るけど人まねはやめよう、と彼は答えました。われわれのミッションは、望み通りの製品を開発したり解決策を提示することによって顧客の問題を解決することだ。他と同じだったら、単なる量産品メーカーになってしまう。それはわれわれのビジネスではない、とね」
マルチマティックの仕事
最初の仕事のひとつはGMのサターン・シリーズのドア・ヒンジの設計/製作だった。1980年代後半、飛ぶ鳥を落とす勢いだったホンダに対抗するために作られたクルマだ。
マルチマティックはヒンジには高い精度と専門性が必要だとすぐに理解し、今でもヒンジを専門のひとつにしている。もうひとつ、200万ドル(約2億円)の仕事があった。AIVと呼ぶオール・アルミ製のフォード・トーラス用のドアを作る仕事だ。
「プロジェクトは大成功でした。フォードはこのプロジェクトでアルミに関する多くの専門的知見を習得することができたんです」とホルトは言う。「アウディより先行していたんです」
この仕事を通じて、ホルトはフォードの技術開発のボスであるニール・レスラー(レーサーでもある)に出会った。その結果、マルチマティックはトーラスSHOレーシングカーを製作し、フォードに納めるということになった。
スコット・マックスウェルが運転するクルマは6レースで優勝し、1992年のファイヤーストン・ファイヤーホーク・チャンピオンシップでは大活躍した。ホルトは優勝したときの高揚感が好きだった。
これをきっかけとして、マルチマティックはレースに関係するようになる。以来、マークハムのクルマ(一部を除きほとんどがフォード)は北米の至る所でレースに参加し、2016年に最新のGTがル・マンでクラス優勝する以前にも数々の誇るべき勝利を挙げている。
ホルトの肩書きは技術開発担当の副社長であるが、実際には最大の顧客であるフォードとGM(それぞれ売り上げのおよそ35%を占める)相手の仕事はすべて自部門で仕切っている。9億ドル(約900億円)の規模だ。
マルチマティックには他にふたつの部門があり、それぞれに副社長が付いているが、スペシャルカーの製造とレース活動は技術開発の一部署であり、誇らしげに壁に飾られた30年に及ぶ特許証明書がその成功を雄弁に物語っている。
ホルトは技術開発とレース活動で得られる利益を3つ挙げる。
レース活動で得られる利益
ホルトは技術開発とレース活動で得られる利益を3つ挙げる。
「もしドア・ヒンジだけをやっていたら」と彼は言う。「まったく別の会社になっていたでしょう。今の会社には、クルマの技術開発をやりたいという若い学生がたくさん集まってきます。これからも増えるでしょう」
「エンジニアが増えるということは、社内プロジェクトで人手が欲しいときでも大丈夫だということです。それに、何よりもまず、レースでは大きな仕事につながるような技術を覚えられます。例えばアクティブ・エアロとかカーボンファイバー技術です。レースは、世界で何が行われているのか、何が必要とされているのかを学ぶ助けになります」
今後はどうなるのか? フォードGTプロジェクトが終了した後はどうするか、マルチマティックではまだ何も決まっていない。
「設備投資はすでに元を取ってあります」とホルトは言う。「なので、このプロジェクトが終わっても問題はありません。だから次に何をやるか、頭を悩ますのはやめました。自動車産業には沢山のチャンスがあります。将来をはっきりと見通すのは難しい。フォードのEVはひとつの世界を作りつつあります。他のメーカーでも同様でしょう。おそらく、それがわれわれの進む方向かもしれません。しっかりやっていれば、いつでも仕事はありますよ」
柔軟であり続けることが将来のビジネスへのキーだとも言う。もうひとつ、ビジネスを貫く技術開発への情熱を持ち続けること。
「あなたは今日、わたしと話しているだけではないんですよ」と彼。「最高にうまくいっている素晴らしいエンジニア集団と話をしているのです。わたしと同じくらいクレージーな連中がこのビルの中に60人はいます。わたしの仕事はクレージーをふるいにかけることだと言ってもいいくらいです」
「われわれにはクレージーであることが必要なんですよ」
ラリー・ホルトとの一問一答 その1
マルチマティック独自のクルマを作る?
「皆、なぜ自分たちのクルマを作らないのかと聞くんです。われわれがフォード、GM、AMGそれにアストンと仕事をしているからでしょう。最低でも1億ドル(約100億円)のプロジェクトです。それにはOEMが必要です。われわれはフォードGTプロジェクトでの役割に誇りを持っています。われわれは自分たちの得意なことをやります」
主要自動車メーカーの将来は?
「大きな会社は将来像を描こうと努力しています。新規参入者にビジネスを奪われるんじゃないかと心配しています。これが最大の悩みなのかどうか、良く知りませんが」
「コダックやブロックバスターの例を引き合いに出すひとがいますが、クルマはまた別です。クルマは本当に製造するのが難しいものなんですよ」
現代のクルマを未来のクルマに改造することは?
「たぶん、未来のクルマと言っても全く新しい自動運転の設計だけではありません。従来メーカーは電気自動車のパワートレインや自動運転システムを調達し、今あるクルマに組み込むのです」
テスラのプロジェクトについてどう思う?
「イーロン・マスクは、クルマを製造販売する難しさを過小評価しています。まだ一銭も稼いでいないわけだし。上手くいけばいいとは思いますが。彼は素晴らしいセールスマンであり偉大な人物ですが、まだ先は長いでしょう」
ラリー・ホルトとの一問一答 その2
次世代カーボンファイバー構造とは?
「量産車にもカーボンファイバーが使われるようになるとわれわれは強く信じています。現在、カーボンファイバーをプレスするような、新しい製造方法、製造技術を開発中です。すぐにでも実用になります。この技術の用途が見つかるのに時間はかからないと思います」
自動運転車のドライブ・フィール、ハンドリングについて
「自動運転のクルマのドライブ・フィールはどんな感じなのか。今のクルマとは違った技術が必要になるだろうと思います。われわれはパドゥア大学のバイオメカニクスの研究者と連携しています。乗り物酔いを起こさせる内耳のメカニズムの専門家です」
R&Dのリスクについて
「一部の機関は科学者が多すぎてシンクタンク状態です。理論的なことばかりで本来の趣旨から逸脱している。今のシリコン・バレーの妄想癖も困りものですね。みな、新しい偉大なアイデアを見つけようと必死ですが、地に足が付いているのか、よくわかりませんね」
アクティブ・サスペンションの新たな役割とは?
「自動運転のクルマに乗るひとのために、フル・アクティブ・サスペンションが必要になるのではないでしょうか? どうすれば乗客を本当に快適にすることができるのか? そもそも、後ろ向きに座ることもあるわけだし。社内で本を読むときには何が必要か? 旅行中、だれもが窓の外を見ているわけではありませんからね」
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