物議を醸した7月のフランス・ポールリカール開催以来、約2カ月のサマーブレイクを経た2023年TCRヨーロッパ・シリーズ第6戦が、9月22~24日のイタリア・モンツァで再開された。
そのオープニングヒートでは、総勢14台での争いを制した新鋭コービー・パウエル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)がフランスからの連勝で今季2勝目をマークし、選手権首位を行く先輩トム・コロネル(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)に肉薄することに。
TCRスペインと戦略的提携。相互交流強化に向け参戦サポートのプライズも/TCRサウスアメリカ
続くレース2では、予選最速を自らの手でフイにしていたルベン・ヴォルト(ALMモータースポーツ/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)が、10番グリッドからの逆転勝利を達成。ホンダの新型モデルにヨーロッパ・シリーズ初優勝をもたらした。
シーズン序盤は新生TCRワールドツアーとの併催が続いた欧州最高峰シリーズだが、その後は世界戦に釣られるかのように不穏な空気が漂い、アクシデントやペナルティ裁定への不満が噴出。極め付けが前戦に発生した名門ターゲット・コンペティションによる反乱劇で、各車両間で採用されるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)に不満を表明したチームは、レースウイーク会期中にも関わらず「即時撤退」を断行する異常事態となった。
この第6戦モンツァを前に、正式なエントリーリストには地元イタリア勢でゲスト参戦を決めたフェリーチェ・ジェルミニ(PMAモータースポーツ/アウディRS3 LMS 2)を含む全17台が記載されたが、その内訳はアウディが12台でヒョンデが3台、そして初代のリンク&コーと最新型のホンダが各1台という偏りのある車種バラエティとなった。
走り出しからウエットとなった金曜FP1には現実的に14台がコースインし、まずはコロネルが最速タイムを記録。続くFP2ではパウエルが上位4台を占めたアウディの先頭に立ち、午後の予選でもRS3 LMS2の天下が続くもの……と思われた。
しかし雨のモンツァで圧倒的なポールポジションを獲得しパドックを驚かせたのは、予選Q1で6番手だったFL5型シビックRで、上位5台をアウディRS3 LMS 2が占めるなか首位から0.851秒差でQ2進出を決める。
迎えたポール争奪戦では、まずニコラ・バルダン(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が基準タイムを記録し、それをすぐさま僚友のヴィクトル・ダビドフスキー(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)が塗り替えていく。
さらにパウエルがそのタイムを0.026秒詰め、セッション残り時間もわずかとなったところで、ヴォルトのFL5型シビックRが鮮烈なアタックラップを敢行。ここで1分56秒758と2番手以下に対し0.505秒差という圧倒的なギャップを築き、アウディ5台を打ちのめす自身初ポールポジション獲得となった。
「最速タイムだなんて本当に気持ちいいね。僕の無線は終始不調で、自分がそれを達成したことにさえ気付かなかった。このままポールを勝利に変えることができればと思っているし、スタート次第だけどその後は差を縮めることができると思う」と喜びを語ったヴォルト。
■レース2ではヴォルトのFL5型シビックRが10番手から逆転勝利
しかし無情にもモンツァの雨は強まる一方で、土曜現地18時25分に予定されていたレース1は延期が決定。改めて日曜午前にリスケジュールされる。これで歯車が狂ったか、路面にはまだウエットパッチが残る日曜レース1のスタートで、ポールシッターのFL5型シビックRはフィールド全体がすでにターン1に近づくまで動き出すことができず。ここで実質、勝利の可能性を失ってしまう。
そこからは文字どおりアウディの独壇場となり、冷えた路面でタイヤを作動温度まで上げるのが難しい条件のなか、ほぼオープニングの全周にわたってウィービングを繰り返したパウエルが、僚友バルダンに対して快適なギャップを築いていく。
しかし序盤の3周目にはセーフティカー(SC)が発動する大クラッシュもあり、せっかくのマージンが削られることに。また、このSCにより当初の10周から2周が延長された決勝最終盤には、選手権首位コロネルのアウディから煙が上がり、前日にペナルティなしでターボ交換を承認されていた大ベテランは、今度はショックアブソーバー破損でピットに帰還しリタイアを喫してしまう。
これで事実上の勝負は決し、ラリークロス出身の新鋭パウエルが国際ツーリングカーでの2勝目(TCRワールドツアー併催戦を含め今季5勝目)を記録し、2位バルダン、3位ダビドフスキーとコムトゥユー陣営のアウディが表彰台を独占する結果となった。
ただし、このヒートで最も注目を浴びたのはポディウムではなくその背後で、スタートで出遅れ一時は13番手まで後退したヴォルトは、そこから怒涛のカムバックを披露して4位でフィニッシュした。
この勢いのまま午後16時25分から始まったレース2では、そのFL5型シビックRが予選リバースグリッドの10番手から発進したにも関わらず、オープニングラップでトラブルを回避して7番手に進出。3周目には早くもトップ5に到達する。
さらに5周目にコロネルもパスしたヴォルトは、ここからバルダンとの首位争いを展開。前後を入れ換える一進一退の攻防が続くも、ついに8周目の最終“クルヴァ・アルボレート(旧パラボリカ)”でアウトサイドから豪快にオーバーテイク。そのまま独走に持ち込み、バルダンとコロネルを従えてのトップチェッカーとなった。
「何だか落ち着かないけれど、本当に良いレースだった」と、新型モデルとともにシリーズ初勝利を挙げた安堵と喜びを語ったヴォルト。
「週末を通してずっとスピードを出せたし、これだけの速さを出せたのは本当に信じられないことさ。今回は自分のすべてを出し切れたけど(最終戦の)バルセロナでは40kgのバラストを搭載するし、より困難になるだろうね」
これでスタンディング上は10点差となった首位コロネルとパウエルに、ジョン・フィリピ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)を含めた三つ巴の様相となった今季のTCRヨーロッパ・シリーズ。その最終戦は10月20~22日にスペインのバルセロナで争われる。
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