2023年のF1日本GPが終わった。3日間通して22万2000人、決勝日だけでの10万1000人のファンが鈴鹿サーキットに訪れた。
F1日本GPの取材には、世界各国から数多くのメディアが取材に訪れ、世界各国に情報を発信している。彼らの目には、圧倒的な強さでレースを制したレッドブルのマックス・フェルスタッペンの強さも強烈に映っただろうが、それ以上に日本のファンの素晴らしさが印象に残ったようだ。
F1ドライバーだけどドリフト大好き! エステバン・オコンが熱弁「去年は奥伊吹に行った。筑波はゲームで1000周はしたよ!」
英国オートスポーツのF1ライターであるジェイク・ボクソール-レッグが、F1日本GP後にコラムを寄稿。日本のF1ファンの素晴らしさを世界に伝えた。
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私が育った2000年代初頭、F1は痛ましいほどにニッチなスポーツだった。日曜日の午後にテレビの前に座り、必要以上に速いクルマが行き交うのを眺めるのを好む人は、実に稀なことだった。しかも開催地は、地球上の遠く離れた異国のサーキット。レースの中継こそ地上波で見ることができたが、ニュース番組でF1に関する報道がなされるのも稀なことだった。
今ではF1の人気も向上し、当時よりも人々に知られるようになった。ただF1のファン層が拡大するにつれ、党派とも言えるような棲み分けが出来上がりつつある。マックス・フェルスタッペンを応援する人、そしてルイス・ハミルトンを応援する人……応援する対象が、ハッキリと分かれつつあるのだ。
それ自体は悪いことではない。しかし彼らは、想いを同じくするファン同志で集まる傾向があり、その想いがどんどん増幅していく。そしてファン同士のやり取りはよりサッカーファンのそれのようになり、過激になっているようにみえる。
しかし鈴鹿にやってくると、党派というような意識はほとんど感じられない。もちろん彼らは日本の国旗を掲げ、角田裕毅(アルファタウリ)の活躍に歓声を上げる。それと同時に、ファンの誰にも複数の”お目当て”がいる。その結果、全てのドライバーが声援を受ける。セーフティカードライバーのベルント・マイランダーを応援する横断幕さえ、グランドスタンドに掲げられているのだ。
サーキットに訪れるファンは、誰もが全身をドレスアップ。ロイヤル・アスコット競馬場のドレスコードが保守的に見えるほど、派手な帽子を多くの人が被っている。DRSが作動するヘルメットや、カメラポッドが取り付けられたヘルメット……しかもいずれも自分で作ったものだ。レーシングスーツを纏ったファンもいた……中には、頭からつま先まで、レーシングウェアで完全装備したファンもいた。
ティラノサウルスの着ぐるみを着た人もいた。レッドブルを燃料に動くエンジンを頭の上に載せたファンもいた。フェラーリをモチーフにした鎧兜を着たファンも毎年いる。鈴鹿を訪れるファンのコスチュームに関する創造性には、限界がないようだ。
また、ファンがお気に入りの存在にプレゼントを贈るのは、世界でも珍しいことではない。しかし鈴鹿では、木曜日と金曜日に地元の小学生がサーキットを訪れる。彼らはサーキットに行く前に、チームに渡す贈り物を作って、それをチームに手渡す。チームによってはそれをガレージに掲げてくれるのだ。そんなことは、私の学校ではありえなかった……。
■パドックの誰もが、彼らのヒーロー
日本GPの直前には、東京でファンフェスティバル(新宿・歌舞伎町で行なわれた『F1 Tokyo Festival』)が行なわれた。そこに参加したアルピーヌのエステバン・オコンは、ファンの大歓迎を受けた。
「信じられないことだった。もちろんとても忙しかったよ」
そうオコンは声を上げた。
「でも、僕は多くのファン、多くのサポーターを見てきた。たくさんのフランス国旗を振ってくれたし、たくさんのお菓子や誕生日プレゼントをもらった。空港に着いてからというもの、もうめちゃくちゃだよ。そして、今週末に使うスペシャルヘルメットも披露した。これは、僕にとっても意味のあることだ、日本は僕の心の中でも特別な場所だし、これからもずっとそうだろう。僕が好きなサーキットもこの国にあるしね。すばらしいことだよ」
ファンが声援を贈るのは、ドライバーだけではない。メディアである我々も、サーキットの入り口に陣取ったファンから温かく歓迎された。記者たちを乗せたバスが到着すると歓声が上がり、旗が振られる。そして全てのドライバーが、歓声を受けるんだ。
サーキット全体が、F1を目にできることへの喜びを感じていた。レッドブルのウエアを着たファンの隣に、メルセデスのウエアを着たファンが座っているなんていうのも普通のことだ。そして世界最高のサーキットで開催されるF1の雰囲気を、ただただ楽しんでいた。
フェルナンド・アロンソのTシャツを着て、S字で観戦していたあるファンは、目の前のコーナーをマシンが右に左にと曲がっていくのを目にする度に、笑みを浮かべた。その熱意は伝染してしまうもので、私もただ観客席に座って走行を観たい……そういう衝動にかられた。普段ならば、各コーナーでマシンがどう反応しているか、そういうことばかりに注視してしまうのだが。
鈴鹿の雰囲気に包まれ、F1サーキットの素晴らしさを思い出した。我々はこれを仕事にし、それで生計を立てている。それは幸運なことだが、締切や成果、そして終わりのないコンテンツ生成……そういうプレッシャーに常に晒されている。コースを走る美しいマシンを眺める……そういう楽しみは制限されてしまう。
でもこの時ばかりは、ダンロップコーナー(今の正式名称はNIPPOコーナー)に立ち、走行するマシンを観て楽しんだ。
他のサーキットを訪れるファンは、鈴鹿のファンから何かを学ぶことができるだろうか? SNSでお気に入りのドライバーだけを盲目的に擁護する多くの人たちが忘れてしまったモノが、ここにはある。
結局のところ我々は全員、F1のファンなのだ。モータースポーツのファンなのだ。お気に入りのドライバーがいたとしても、我々は素晴らしいレースを賞賛し、グリッド上に並ぶ20人のドライバー全員の功績を賞賛すべきなのだ。
鈴鹿に集まるファンにとって、ドライバー、エンジニア、チーム代表……その誰もがヒーローである。誰もが賞賛されるに値する存在なのだ。
常に、そうあるべきなんだ。
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みんなのコメント
スポーツ全般に感じている、ワンネスみたいなものを再認識しました。
敵か味方か、主役か控え、スタッフ…。
その区分けより先に、1人の大好きなファンなんだ。
もちろん一押しはいるし、その活躍は嬉しい。
でも、色んな人がいるから、それがあるんだ。
国内海外問わず、それを共有できる人がいて、嬉しい。
F1も、バイオエンジンで走る日が来るかな。
そんな事より、中・露・韓・北をどうかして欲しいんですが。