リヤエンジン+リヤドライブという、好事家の心を揺さぶるホットハッチ、ルノー・トゥインゴGTがついに正式なカタログモデルとしてラインナップされた。2017年に200台の限定車として先行販売されたが、あっという間に完売となり、正式発売を待ちわびていたファンも多いだろう。トピックはDCT仕様の追加とカラーバリエーションの拡大だ。TEXT&PHOTO:小泉建治(KOIZUMI Kenji)
ルノー・スポール・カーズ直系の熱血ホットハッチ!
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2017年に200台の限定車として先行販売され、即完売となったルノー・トゥインゴGTが再び帰ってきた。正式なカタログモデルとして、2月22日(木)から発売されることがアナウンスされたのだ。
トゥインゴといえば、なんといってもリヤエンジン&リヤドライブという特異なレイアウトが最大の特徴で、ほかに同じ形式を持つ現行車種はポルシェ911とスマートくらいしか見当たらない。周知の通り後者はトゥインゴと同じルノーのスロベニア・ノヴォメスト工場で生産されてダイムラーに供給されているわけだから、ブランドは違えど事実上は兄弟車だ。
そのトゥインゴをベースに、ルノー・スポール・カーズによってモータースポーツ直結のテクノロジーを注入されたホットハッチが、このGTである。
エンジンはベースモデルと同じく直列3気筒0.9Lターボだが、最高出力はプラス19psの109ps、最大トルクはプラス35Nmの170Nmを発生する。
DCT仕様と新色の追加が最大のトピック
内外装も随所に専用パーツが用いられ、とりわけ2本出しのエキゾーストエンド、左リヤサイドのエアインテーク、コンセプトカー「Twin'Run」そのもののデザインが採用された17インチのアロイホイール、オレンジとホワイトが大胆にあしらわれたインテリアなどが目を惹く。
ここまでは、17年に導入された限定車とまったく同じ内容で、唯一の違いはボンネットとルーフにあったブラックのデカールがなくなっていることだけだ。
そして今回、カタログモデルとして改めて登場したトゥインゴGTには、限定車と同じオランジュ ブレイズMに加えてグリ リュネールMが新ボディカラーとして追加され、さらにはルノーがEDC(エフィシエントデュアルクラッチ)と呼ぶ6速DCT仕様がラインナップに加わっている。価格は5速MT仕様が229万円、6速EDC仕様が239万円だ。
後輪駆動ならではのスポーツカーライクな振る舞い
まずは、すでに限定車で体験ずみの5速MT仕様から試乗する。今回の試乗コースは都内のみであり、トゥインゴGTのスポーツ性能を存分に引き出すような舞台ではなかったが、それでも走り出して最初の交差点を曲がった瞬間から口元が緩みっぱなしだった。
なにしろフロントにエンジンがないおかげで鼻先が軽い。もちろんRRゆえ、ベースモデルも含めてトゥインゴは徹底的にアンダーステアに躾けられている。フロントにはアンチロールバーを装着してロールを抑え、リヤは粘らせることで前後バランスを最適化。タイヤサイズもフロントの185mmに対してリヤは205mmと、こちらもアンダーステアを狙った組み合わせだ。
だが、フロントが物理的に軽いという事実は、こうも軽快なハンドリングに寄与するのか。なんというか、ステアリングを切ってからノーズが向きを変えるまでのタメがない。
さらに前輪が駆動を担っていないことによるナチュラルなハンドリングは、まさにスポーツカーのそれである。今回は試せなかったが、タイトターンでアクセルを無遠慮に踏みつけると、FFレイアウトを持つライバルはフロントがダダダッと暴れてだらしなく膨らんでいくだけだが、トゥインゴはリヤをグッと沈めてしなやかに向きを変えていく。
先ほどトゥインゴはアンターステアに躾けられていると書いたが、GTはESC(横滑り防止装置)の介入がベースモデルよりも遅くなるようにセッティング変更されていて、タイトターンでは後輪のスライドが許容される。
こうしたチューニングの妙は、都内をほどほどのペースで流していても存分に感じられる。右ハンドルながらオフセットが最小に抑えられたペダルレイアウトのおかげでヒール・アンド・トーも難なく決まるから、赤信号での停止すらも楽しめる。やはりホットハッチはMTで操るに限るのだ。
まさかDCTのほうがエキサイティングだなんてことある?
ところがEDC仕様に乗り換えて、不覚にも心が揺れ動いた。乗りやすい? 速い? そんなことでMT原理主義者の筆者の気持ちが揺らぐことはない。
私は、なにかというと「これでMTがあれば買うのに」が口癖の、昔ながらのクルマ好きにありがちなMT原理主義者である。インポーターへの取材でも、ふた言めには「本国にはMTがありますが、売らないのですか?」と切り出して鬱陶しがられている。
今回も、EDCの設定は、MTが苦手なライト層や、家族も運転するのでMTはちょっと……という人のための「妥協案」としての選択肢だと決めつけていた。ルノー・スポール御謹製のホットハッチをMTで駆らずしてどうする!
しかし、である。どうにもこのEDC、走りがエキサイティングなのですよ。なぜ? ポルシェのPDKみたいに、たぶんEDCのほうが速いんじゃないの? ギヤもEDCが一段多いし。
0-100km/h加速 MT:9.65秒 EDC:10.45秒
そんなことはありませんでした。
ただ、これには補足が必要で、実はトゥインゴGTにはタコメーターがなく(スマートフォンに専用アプリケーションをダウンロードすれば表示させることが可能)、どこがレブリミットかわからない。だから全開加速時にはレブリミッターに当ててからシフトアップすることになる。ところがEDCは適切なタイミングでシフトアップしてくれるから、MT仕様がブババババッなんてレブに当てている間に、EDC仕様がスーッと先行してしまう可能性はある。
トゥインゴGTとDCTは奇跡的な組み合わせ
どのみち速いとか遅いとかの問題ではない。おそらく、クラッチのつながりかたに答えが潜んでいるような気がする。
ルノーのEDCは、これまで比較的つながりの滑らかさを優先した味付けで、ダイレクトさはそれほどでもなかった。つまりDCTというより、一般的なステップ(トルコン式)ATに近い感覚だ。ところが最近は、スタンダードのトゥインゴやメガーヌGTもそうなのだが、積極的にダイレクトさを感じさせる味付けに変わってきている。
そこへきてトゥインゴGTは、さらにダイレクトさが増しているのだ。……と思ってルノー・ジャポン広報に確認してみると、「確かに数年前よりもダイレクト方向に変わってきているのは事実ですが、標準のトゥインゴとは同じはずです」との回答。「ただ、ルノーはちょっとした変更や熟成を施してもアナウンスを出さないことが多いので、あながち間違いとは言い切れませんよ」とも付け加えてくれた。
後者であると信じたいが、もしも標準トゥインゴと同じだったとしても、パワーの向上やサスペンションの設定変更によって、ダイレクトさを感じやすく(錯覚しやすく?)なった可能性はある。
そしてMTよりも一段多いことにより、そのダイレクトな変速を味わう回数が多くなることも関係があるのだろう。また、DCTを採用している多くのスポーツカーはトゥインゴGTよりもパワーがあり、あれよあれよという間にビックリするような速度に達してしまうため、「ちょっと待ってくれ。変速くらい俺にまかせてくれ」と言いたくなるのだが、トゥインゴGTの場合は、その程よい動力性能がDCTのおいしい部分を際立たせていると考えられなくもない。
もしかしたらトゥインゴGTとDCTの組み合わせは、MT派をも納得させる奇跡の組み合わせなのかも知れない。スポーツカーはMTに限ると断言しているアナタも、一度でいいからトゥインゴGTのEDC仕様を試していただきたい。
いずれにせよ、後輪駆動のホットハッチは現代において唯一無二の存在。こんなにエキサイティングで、しかも安価なスポーツモデルの登場には、拍手を送るしかないのだ。
●ルノー・トゥインゴGT MT ()はEDC
全長×全幅×全高:3630×1660×1545mm ホイールベース:2490mm 車両重量:1010(1040)kg エンジン:直列3気筒DOHCターボチャージャー 排気量:897cc 最高出力:109ps/5750rpm 最大トルク:170Nm/2000rpm トランスミッション:5速MT(6速DCT) フロントサスペンション:ストラット リヤサスペンション:トレーリングアーム フロントタイヤ:185/45R17 リヤタイヤ:205/40R17 駆動方式:RR 価格:229(239)万円
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