2035年までに米国内で販売するクルマの電動化を打ち出しているゼネラル・モーターズ(GM)が、EV用のコミュニケーションソフトウェア、Ultifi(アルティファイ)を発表した。同社のEV用プラットフォーム、Ultium(アルティウム)とWi-Fi(ワイファイ)を合わせた造語で、コネクティビティを活かしてカスタマー・エクスペリエンスの向上を狙う戦略だ。
GMのEVを購入すると、全員にUltifiを利用するためのIDとクラウドへのアクセスコード、スマホ用アプリが与えられる。これを使うと、どのようなサービスが可能になるか。一例を挙げると、EVシステムのアップグレードなどを通信を使って行うことができる。
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テスラではすでにソフトウェアアップデートを提供しているが、GMは今回が初めてとなる。ディーラーでシステムの書き換えを依頼するのではなく、スマホのアプリと同じ感覚でアップグレードができるようになるわけだ。
EVはガソリン車と比べると寿命が長い、と考えられている。システムの心臓部といえるソフトウェアをアップデートすることで機能の改善や追加が手軽に行える点がメリットだ。バージョンアップに自動で対応できたり、あるいは有料コンテンツの購入を通じて機能の向上・拡大が図れるようになる。
またUltifiによってオーナー履歴が保存され、メンテナンスのスケジュール、ローンで購入した場合の毎月の支払い、EVチャージステーションの利用、車両のコネクティビティを使ったショッピングの支払い、サービスの受け取りなどが可能となる。
GMのメアリー・バーラ会長は「UltiumプラットフォームがGMの新しいEVハードウェアを象徴するものなら、UltifiはEVオーナーのためのデジタル総合プラットフォームで、購入からオンボード、オーナーシップ全体を支えるものとなります」と語る。
Ultifiはすでに来年発売予定のGMCハマーEVに使用されていて、このアプリを使ってデジタル予約が始まっている。
購入予定者はアプリを使って自分のクルマがいつごろ納車されるのか、などの気になる情報をチェックすることができるのだ。実際に納車されてからは、月々の支払いやEVチャージステーションの支払い、その他のサービスやコミュニケーションをこのアプリ1本で行うことができる。
注目すべき点は、Ultifiを導入することでBtoC、つまりメーカーから顧客への直接販売が可能になる、という点だ。ディーラーを通さないクルマの販売は米国の多くの州で禁じられている。ディーラーの立場と権利を保護するための法律なのだが、テスラはこの販売方式に反発してきた。
だが、GMがUltifiを提供することで、ついに大手メーカーも脱ディーラーに乗り出す可能性が出てきた。もちろん最終的なクルマの受け渡しは販売店で行うなど、ディーラー制度がなくなるわけではないのだが、その比重が弱まることになる。
GMはキャデラックのEV化に伴い、全米のディーラーにチャージステーションの設置などを含む大幅な改修を求めた。しかしそのためには2000万円近い設備投資が必要となるため、キャデラックのディーラー権を返上する業者も出た。つまりEV化の推進は、ディーラーシステムそのものがスリム化されることになる可能性が高い。
スリムになり、既存ディーラーではカバーしきれない顧客サービスを埋めるシステムの具体例がUltifiともいえる。
GMは2025年までに30車種におよぶ新しいEVモデル導入のために270億ドルを投資する、と発表した。GMが持つシボレー、ビュイック、GMC、キャデラックのすべてのブランドでEVをラインアップし、価格帯はエントリーモデルからラグジュアリーモデルまでフルにそろえる計画だ。予定どおり進行すれば、GMはEVの総合メーカーとなる。
こうしたラインアップを支えるためにも、Ultifiのようなアプリは必要だ。また、今後はIoT(モノのインターネット)の自動車版ともいえるIoV(クルマのインターネット)がますます盛んになる。クルマの通信機能を使い、たとえば自宅の家電や玄関ロックと連動させて自宅に到着する直前にドアロックを解除、自宅の照明を点灯する、などを可能にする。あるいはスマート冷蔵庫と連動し、庫内に不足しているものを買い物リストとして車載コミュニケーションシステムに送信する、という使い方も出てくるだろう。
そうした通信やサービス、そして支払いまでをワンストップで行えるアプリというのがますます求められるようになる。さらに、GMにはオンスターという車載コミュニケーションシステムがあるが、これと連携させる技術を使えば、エンターテインメントの提供なども可能だろう。
こうしたソフトウェア提供によるサービスの一元化は、EV時代のスタンダードになることは間違いない。
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