ポンティアック:G6コンセプト(2003年)
5代目となるグランドAMは、ポンティアックのエンブレムを付けたモデルの中でも最もスタイリンッシュではないクルマとして、われわれの印象に残った。G6をお披露目した2003年のデトロイト・モーターショーでは、辛口の自動車評論家を納得させようと努めたポンディアック。ロー・アンド・ワイドでスポーティなルックス。先代に置き換わるクルマとして、従来の倍のパフォーマンスとカッコ良さとで、ブランドイメージの好転を狙ったモデルだ。
G6のスタイリングが実現していれば、ポンティアック製では久々となる魅力的なファミリーカーとして、人気が出たかもしれない。しかし2004年にショールームに登場したG6のデザインはすっかり風変わりしており、シボレー・マリブやサーブ9-3とプラットフォームを共有する前輪駆動車になっていたのだった。
MGローバー:75クーペ(2004年)
ローバー社設立100週年を祝うべく、デザイナーたちはローバー75を美しいクーペに仕立てた。前席付近に頂点が設けられたアーチ状のルーフはリアエンドに向けて上品なラインを描き、控えめにあしらわれたクロームメッキ・パーツが控えめながら優雅な雰囲気を作っている。
このコンセプトカーが登場した2004年当時は、まだ2ドアクーペの人気も衰えておらず、75クーペもMGローバー社のラインナップに加わる可能性は充分あった。新しいデザイン様式も備わっていたから、ブランドの名声も高めることができたかもしれない。
しかし量産されることはなく、75クーペの登場から1年も経たずに、MGローバー社は倒産することになる。
マーキュリー:メタ・ワン(2005年)
2005年に登場したコンセプトカー、メタ・ワンは、自社の豊かな創造性と革新性を示すために生まれた。ベースとなったのはフォード・フリースタイルだったが、それは特に驚く部分ではなかった。2005年の時点でマーキュリーのモデルラインナップはすべてフォード製のクルマになっていたのだから。
しかしメタ・ワンはベースとなったフォード車のイメージをまったく残さない、独自のデザインをまとい、パワーユニットも新開発のディーゼルエンジンに電気モーターが組み合わされたハイブリッドで、248psを発生させた。単にエンブレムをフォードのブルーオーバルから置き換えただけではなかったのだ。技術的には当時まだフォード傘下にあったボルボから借用したもので、マーキュリー製としては最も先進的なクルマとなった。
マーキュリーを復活させるためにも、メタ・ワンは量産する必要があったと思う。しかし結局は、フォード製のクルマをマーキュリーとして売り続け、ブランドは消滅してしまう。
スマート:クロスタウン(2005年)
ダイムラーのブランドの一つ、スマートは急拡大するSUVの需要の中にあって、都市部向けのコンパクトカーとして、2019年の今も独自性を保っている。そんなスマートだが、2005年までさかのぼると、ジープのようなデザインをまとった、無骨なスマート・フォーツーとでも呼べるコンセプトカー、クロスタウン・コンセプトを発表した時があった。
それから14年たった今でも、若干のデザインの手直しと現代に見合うメカニズムを導入すれば、最小のSUVとして充分通用しそうに思えるが、いかがだろうか。
ハマー:HX(2008年)
ジェネラル・モータースは、ジープやランドローバーへの対抗モデルとして、ハマーをベースにしたクルマをリリースすることもできたはず。明確な経歴と信頼性を備えたブランドだったからだ。HXコンセプトは2008年のデトロイト・モーターショーで披露されたコンセプトカーだが、製品計画の担当者たちは、直接的なライバルが不在だといえるジープ・ラングラーのライバルモデルとして、真剣に検討していたらしい。
もし実現していれば、比較的安価で買えるラングラー・サイズのオフローダーとして、H4と呼ばれたモデルになっていたかもしれない。ハマー社のエントリーモデルとして。しかし2010年にハマー・ブランドは消滅することになり、H4は日の目を見る機会もなく、生産ラインを出発することもなかった。
その反面、2019年の現在でも、ジープ・ラングラーは孤高のオフローダーとして、揺るぎない地位を謳歌していることが面白い。
ポンティアック:G8 ST(2008年)
ポンティアックではなくシボレーは、乗用車ベースのピックアップトラックと最も関連が深い、ジェネラル・モータース系のブランドだといえる。しかしポンティアックは、オーストラリアで開発・製造された、ホールデン・ウテを販売する計画を持っていた。生産モデルにかなり近いG8 STコンセプトには、361psを発生させるV型8気筒エンジンが搭載され、トップスペック・グレードとなっていた。
トラックで強いシボレーは、ポンティアックがハイパフォーマンス・ピックアップを販売する支援もできただろうし、実現すればブランドの存続にもつなげることができただろう。しかし、新モデルの投入は時期が遅すぎた。2010年にポンティアックは消滅してしまう。
サターン:フレクストリーム(2008年)
今はなきサターン社のコンセプトカー、フレクストリームは生まれた時代がいささか早すぎた。クルマのプロポーションは比較的背が高く、ハッチバックとミニバンをかけ合わせたようなデザイン。ドアミラーの代わりにカメラ映像を写すモニターが付き、ドライプトレインはプラグイン・ハイブリッド。サターン社と、その親会社のジェネラル・モータースにとって、2000年代後半に必要としていた先進技術のデモンストレーション的な要素もあった。
「フレクストリームはサターン社の未来の特徴を明確に示したモデルです。将来の量産モデルへと展開していくでしょう」 と、このコンセプトモデルが発表された2008年に配られたプレスリリースには記されている。しかし実際は、その2年後にはサターン・ブランドは消滅してしまう。そして2019年の今でも、アメリカ市場ではリアミラーの代わりにカメラ映像を使用することは合法となっていない。
一方で同じジェネラル・モータースの子会社、オペルも独自のフレクストリーム・コンセプトを発表した。当時、ジェネラル・モータースはサターンとアライアンスを組ませることで、スケールメリットを生み出そうとしていたのだ。そちらも量産化には至らなかったが、2012年のオペル・アンペラにその面影を見ることができる。パワートレインはハイブリッドで、ヘッドライト周りのブーメランを形どったようなデザインが特徴的だ。
クライスラー:200C EV(2009年)
コンセプトカーのクライスラー200C EVは、かなり誤解を招く名前だといえる。そもそもEVと名乗っているが、純EVではなく、プラグイン・ハイブリッド・ビークル(PHEV)で、ターボ過給される2気筒エンジンと268psの電気モーターが組み合わされている。ただし加速力は充分で、航続可能距離も640kmと不足はない。
2009年当時、クライスラーはプラグイン・ハイブリッド技術を量産車に搭載するのはまだ数年先だと認めていた。一方でコンセプトカーのハンサムなエクステリアデザインは、生産モデルに近い内に反映してくことを示唆していた。その後、200C EVはクライスラー版「ボルト」の量産化への足がかりになった可能性はあるが、同社が破産したことでプロジェクト自体もストップしてしまった。
ちなみに「200」という名称は、2011年から2017年にクライスラーのエントリーモデルに用いられたいたものだが、販売も好調ではなく、2009年風のコンセプトとも思えないものだった。
サーブ:フェニックス(PhoeniX・2011年)
ジェネラル・モータースがサーブ・ブランドを売却した後、スパイカーは残ったサーブの自動車部門への信頼を取り戻そうと努めた。2011年に登場したコンセプトカー、サーブ:フェニックス(PhoeniX)は、航空機を想起させるデザイン・モチーフが用いられ、サーブの未来を感じさせるものだった。ハイブリッドを搭載し、すべての車輪を駆動。アンドロイド・ベースのインフォテインメント・システムも搭載していた。
もしサーブが量産化に至るまで存続することができたのなら、市場で最もハイテクで魅力的なデザインのクーペになり、他の自動車メーカーでは作れないようなフラグシップ・モデルにもなり得ただろう。2019年になって、ボルボはアンドロイド・ベースのインフォテインメント・システムを搭載したモデルを発売している。サーブはご存知のとおり、2014年に破産してしまった。
フィスカー:アトランティック(2012年)
フィスカー社は2009年に環境に優しい自動車の開発・製造をする目的で、アメリカ政府から5億2800万ドル(591億円)もの融資を受けた。その後発表されたのがプラグイン・ハイブリッドのフィスカー・カルマ。さらに後続距離を倍に伸ばし、より手頃な価格設定のアトランティック・コンセプトを2012年にお披露目させた。
この4ドアモデルは、より広い顧客への要求を満たすことで、アメリカ市場への足がかりになるとフィスカーは読んでいた。しかし、カルマのバッテリーパックの生産コスト高騰などの理由で、開発は2012年に中断してしまう。その後フィスカーは2013年に破産し、中国の投資家によって2015年にカルマ・オートモビルとして復活。ヘンリック・フィスカーは新しい自動車メーカー「フィスカー・インク社」を2016年に立ち上げた。
2013年の時点でアトランティックはバックオーダーを抱えていたが、どちらもコンセプトカーのアトランティックを量産化させるつもりはないようだ。
以上20台を紹介したが、どれもなるほどと思えるアイデアが盛り込まれていたり、先見性を持っていたとはいえるだろう。読者がご存知のコンセプトカーはあっただろうか。
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