この記事をまとめると
■乗れば乗るほど味が出るクルマが存在する
タイプRばっかり日が当たるけどテンロク最強はコッチじゃね? なぜか日陰の存在「パルサーVZ-R・N1」というもの凄いクルマ
■今回はそんな“スルメグルマ”の条件について考えてみた
■さらに3台の“スルメグルマ”をピックアップ
1度ハマったら抜け出せないスルメのようなクルマを探してみた
乗れば乗るほど味が出る、まるで“スルメ”のようなクルマがある──ということは、逆に「乗った瞬間から、あるいは5秒後には、その虜になってしまうクルマ」もあるということを意味している。
乗った瞬間あるいは5秒後には虜になってしまうクルマとは、主には以下のようなクルマであるはずだ。 ●エンジンフィールが死ぬほど気持ちいいクルマ(例:往年のV6アルファロメオ、フェラーリ全般、ホンダのタイプR全般、BMW M3など)
●ハンドリングが死ぬほどクイックなクルマ(例:往年のアルファロメオ、フェラーリ全般、ホンダ ビートなど)
●エンジン音が死ぬほど甘美なクルマ(例:往年のV6アルファロメオ、フェラーリ全般、ホンダのタイプR全般、BMW M3など)
●内外装(とくに内装)デザインが死ぬほどカッコいいクルマ(例:アルファロメオ全般、マセラティ全般、往年のデイムラー ダブルシックスなど) ……ほかにもあるかもしれないが、主にはこんなところだろう。
であるならば「乗れば乗るほど味が出るクルマ」とは、「上記のようなわかりやすさは存在していないクルマ」のことを指すはずだ。つまり、乗ってみてもエンジンはとくに面白い感じではなく、ハンドリングもどちらかといえばダルで、エンジン音は死にたくなるほどつまらない。そしてインテリアにも華はない──みたいなクルマだ。
普通に考えれば、そのようなクルマには「できればもう二度と乗りたくない」と思うもので、何度乗ろうが“味”など出てきようがない。
筆者個人の経験でいえば、過去に乗ったT社のPというクルマはすべてが凡庸の極みで、凡庸なだけなら我慢もできるのだが、車線変更を試みるたびにワンテンポかツーテンポ遅れて車体がグラ~ッと傾くため、乗っていて死にたくなったし、死ぬかとも思った。アレはさすがに何年乗ったところでスルメ化はしないはずだ。
つまりここまでの脳内議論をいったんまとめると、のちにスルメ化する可能性のあるクルマとは、いろいろな華はなかったとしても、T社のPとかとは違って「最低限フツーに走れるクルマである」ということだ。まずはそこが出発点である。
そしてそのうえで、何らかの「最初は気づきにくいけど、何度も乗っているうちに見えてくる魅力」のようなものを隠し持っているクルマこそが、すなわちスルメグルマなのだろう。人間でいうと、最初は(今どきの言葉でいう)ただの陰キャで地味なやつだと思っていたクラスメートが、たまたま話し込んでみたらサブカルチャーと植物学のとてつもない知見を有している、ユニークで尊敬できる人物であることがわかった──みたいな感じだ。
最初のフィーリングは全然よくないけど……!?
……これで脳内議論は完全にまとまり、スルメグルマの全体像が見えてきた。WEB CARTOP編集部が言うところの「乗れば乗るほど味が出る! 一度ハマったら抜け出せない“スルメグルマ”」とは、例えば以下の3モデルである。
ボルボ 240エステート
言わずと知れた、1960年代の基本設計を1993年までそのまま引っ張り続けた「走るシーラカンス」である。
もちろんそのエクステリアデザインはきわめて洒落ていて、インテリアもレトロな感じでステキであるため、乗った瞬間あるいは5秒後には「おっ? いいじゃん!」と思う可能性も大ではある。だが機械的な部分はシーラカンスであるため、エンジンは耕運機的であり、ハンドリング性能も「クイックで楽しい!」みたいな世界とは完全に真逆である。それゆえ、最初のうちは「カタチのカッコよさに騙された……」と思ってしまうこともあるだろう。
だがしばらく乗っているうちに、そのなんとも牧歌的ではあるが、よく考えれば決して不足はないシャシー性能やエンジン性能などに対して「クルマって……じつはこういうので十分なんだよな。300馬力とか電子制御サスとか、別になくてもいいよね」と、つくづく思うことになるのだ。で、結果として何年も240に乗ることになるだろうし、人によっては何十年間も乗り続けることになる。
W123型メルセデス・ベンツ
最初は「コンパクトクラス」と呼ばれ、その後は「ミディアムクラス」と呼ばれることになった、1976年から1985年まで販売されたメルセデスのセダンおよびクーペ、ステーションワゴンである。
これの後に出たW124が「名車!」「剛性感がすごい!」「最善か無かを体現した最後の世代!」的にもてはやされているだけに、そのイメージで中古のW123を買った人は面食らうだろう。「……すべてがユルい。これは本当に“ベンツ”なのか?」と。
ボルボ 240エステートの場合と同様に、デザインは最初から最高なW123ではある。だがいざ乗ってみると、「アウトバーンを250km/hで巡航するメルセデス!」みたいな感触は皆無で、どちらかといえば、カリフォルニアにある海岸の道を短パン姿でドライブしたくなる──みたいな乗り味だ。いや新車時のW123のことは(運転免許がなかったので)知らないが、中古車としてのW123はそんな感じなのだ。
それでまずは面食らうわけだが、そのうち──たぶん1カ月も乗っていれば、W123というクルマの絶妙なテイストの虜となるだろう。W123の絶妙なテイストとは、すなわち「ユルさと剛性感の不思議な融合」である。
デザインは内外装ともユルめで、操舵フィールなどもユルめではある。だがそこかしこにメルセデスならではの鬼のような剛性感は、やはり存在している。その得も言われないブレンド具合に、人はやられるのだ。程度のいい水色のC123(クーペ)とか、私も欲しいですよ。それで、カリフォルニアじゃないけど「多摩堤通り」とかをのんびり流したいですね。
ジープ・ラングラー アンリミテッド(先代)
これも、話のメカニズムとしてはボルボ240エステートと同じである。すなわちデザインはもう文句なしに最初からカッコいいのだが、乗ってみると、中身的にはシーラカンスだけあって「……あれ?」となるパターンだ。
2018年11月に発売された現行JL型は、一般的なクルマから乗り替えた人でもほぼ違和感なく運転できる、良くも悪くも乗用車的な乗り味になった。小まわりもまあまあ利くし、ついでに内装もプレミアムSUVっぽい感じである。
しかし先代JK型はお世辞にも乗り心地が良いとは言えず、小まわりはまったく利かず(最小回転半径はじつに7.1mだ……)、ついでに言えば、運転中は「左足を置くのにちょうどいい場所」がないため、そこにも微妙に苦労する。「こんなことならJK型の中古車じゃなくて、JL型の新車を残価設定ローンで買っておけばよかった……」と思うかもしれない。
だがそのうち──たぶん2カ月も乗っていれば、先代JK型のオーナーはある種の歓びを、JK型を運転する行為のなかに見いだすことだろう。
その歓びとは「馬や大型バイクなどの『最初からうまく操れるはずがない乗り物』を、上手に乗りこなせるようになったときの歓び」に近いものだ。
台所で飲む水よりも山の頂上で飲む水筒の水のほうが100倍うまいのと同じで、先代JK型を手懐けることができた際の歓びは、最初から誰でもおおむね手懐けることができる現行JL型のそれよりも──100倍かどうかは別として──デカいのである。
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