売れると思った「軽」でも売れない自動車市場の厳しい動向
いま、日本の乗用車市場では新車販売の約4割が軽自動車だ。全長3.4m×全幅1.48m×全高2.0m以下でエンジン排気量は660cc以下。そんな日本独自の規格を満たす小さなクルマたちが日本では大人気である。
これぞ斬新な発想! 時代を先取りした奇想天外な珍車たち【軽自動車編】
しかし、軽自動車であればどんなクルマでも売れるとは限らない。そこで今回は、期待がかかっていたのに不発に終わってしまった伝説のモデルを振り返ってみよう。
スバル「R1」
スバルR1は、2005年から2010年にかけて販売されていた軽自動車。全長3285mmとあえて軽自動車枠よりもさらに小さく、ドアは3ドアだった。後席スペースは狭くて2人で乗ることを前提としたクーペのようなモデルだ。
小さいいっぽうで、クルマ自体はかなり手の込んだ、コストをかけた作りだった。エンジンは4気筒であるし、サスペンションは4輪独立。いまの軽自動車からは考えられない凝った作りで、走りもしっかりしている。
懐の深いハンドリングと接地感の高さは軽自動車とは思えないほどで、スバルの熱い魂を感じることができた。さらに、インテリアも上質だった。スバルとして狙っていたのは「てんとう虫」の愛称で親しまれた「スバル360」の再来だったようだ。
でも……売れなかった。時代はすでに室内の広いハイトワゴンが主流となり、みんなが広さを求めていたからだ。販売終了してから中古車価格が高止まりしているのはなんとも皮肉である。
スズキ「ツイン」
コンパクトさでいえば、もっと極端なクルマがある。2003年にデビューしたスズキ「ツイン」だ。車体は全長2735mmとR1よりもさらに小さな2シーター。ベーシックグレードは装備をシンプルにしてなんと49万円(税抜き)という驚きの価格を実現し、軽自動車初のハイブリッド仕様をラインナップするなど相当の野心作だった。
しかし……売れなかった。その最大の理由は、車体が小さすぎ、使い勝手が悪かったことだろう。軽自動車を買う人も、そこまで小さく割り切ったパッケージングは、そこまで多くの人が求めていないことに開発陣は気付けなかったようだ。2005年12月には(ごく一部の人には)惜しまれつつ、販売を終了。総生産台数は10106台。なんとも短命だった。
あまりに小さいクルマといえば、パリではスマート「フォーツー」を頻繁に見かける。
その背景には極小車は狭い駐車スペースに路駐できるという大きなメリットがあるからだが、残念ながら日本にはそれがない。だから小さすぎる車体に魅力は少ないのである。
ダイハツ「ソニカ」
2006年に発売されたダイハツ「ソニカ」も、人気が盛り上がらなかった理由は似ている。当時はすでに背の高い軽自動車が主流だったが、あえて“逆張り”で勝負に出た。とはいえ室内は室内高こそ低いものの、後席の足元は広く確保されていたので居住性は悪くはなかった。かつての他社の失敗を反省としていたのだろう。
でもやっぱり……売れなかった。多くのユーザーは背の低い車に興味がなかったからである。デビューから3年という短命で2009年に終了。販売台数はわずか3万台弱だ(販売期間が3年と考えれば決して悲惨な販売台数ではないが……)。
ただ、重心が低いからこそ実現したしなやかなサスペンションと爽快な走りは、かなりレベルが高かったことだけは記しておきたい。
2代目ホンダ「Z」
いっぽう、背が高ければ人気モデルになれるかといえば、世の中そう甘くはないようだ。たとえば、1998年に発売した2代目ホンダ「Z」だ。
車体は全長3395mm×全高1675mmと数値的にはハイトワゴンのようである。しかし、室内は広くなかった。なぜなら、エンジンを車両後方に積むミッドシップ(しかも縦置き!)で、後席スペースに制約があったからだ。そもそも3ドアで実用性を求めた車ではなかったけれど……。
また、値段が高かったのも残念なポイントだった。2002年の販売終了まで約4万台を販売。爆発的ヒットではないけれど、玄人には受けたという状況だ。補足しておくと、SUVではあるが雪道で走ったらとても楽しい軽だった。
三菱「i-MiEV」
2010年4月から個人向けの販売が始まった「i-MiEV」は、そのベースモデルである「i」の発売から15年ちかく経ったが、今見ても素晴らしいデザインの軽自動車だ。
エンジンは車両後部に搭載し、駆動方式は後輪駆動。しかもガソリンエンジンを積まないでモーターを駆動力に使う電気自動車という意欲的なモデル。日本初の量産電気自動車として今後も歴史に残ることだろう。
こんなにエキサイティングなデザインなのに……残念ながら爆発的な売れ行きとならなかった。その理由は、まだまだ電気自動車が一般的ではなかったことに加えて、後席が狭かったこと。軽自動車マーケットにおいて、後席が狭いクルマはどうやらお呼びでないのである。
その後惜しまれつつ販売終了……と思いきや、2018年以降は基本設計を受け継ぎながら車体サイズを拡大して軽自動車枠から外れた登録車として販売中。大健闘……は無理かもしれないけれども、長寿命車として歴史に名を刻む存在となることを祈りたい。
以上5台。どれもが個性的で素晴らしいクルマたちなのだが、爆発的ヒットとならなかった背景には共通した理由がある。いずれも室内が広くないのだ。日本の場合、高い居住性を持たない軽自動車に魅力を感じるのは、多くの方というよりは、凝り性の方に限られてしまう、ということである。
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みんなのコメント
しばらくジムニー一択の時代が続いたが、ハスラーが出て、近々タフトも出るようなので、選択肢が増えることは素直に喜びたい。