ラスベガスの衝撃
text:Kenji Momota(桃田健史)
トヨタが次世代乗り物、eパレットを量産する。自動運転、コネクテッドカー、EVといった先進的なイメージが強いが、その実態は、次世代ハイエースともいえる。
eパレットが世界初お披露目されたのは、2019年1月の米ラスベガスのCESだ。CESは、IT関連商品や家電などの最新モデル商業見本市だが、2010年代に入ると自動車の存在感が一気に増した。
筆者は90年代からCESを現地で見てきたが、自動車関連はカーオーディオが主流で、その後にカーナビ関連の出展が増えていった。それが、2000年代半ばのスマホ登場で、場内の雰囲気は大きく変わった。スマホを経由した新しい交通サービスが次々に誕生したのだ。
EVなどクルマのパワートレインの進化は、国や州の政策に影響されるため、進化の速度やタイミングが予測しやすいが、スマホや通信によるサービスという領域は、一気にビジネスモデルが確立されてしまう可能性がある。そうしたCESの変革期に、トヨタは当初、燃料電池車に関する出展を行った。
その次に、IT技術者集団として、TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)発足を発表し、そのTRIが自動運転の開発を進めた。さらに、トヨタとしては極めて珍しい「サービス事業」の分野に、eパレットを投入したのだ。その際、日本人の多くが「未来のハイエース」を連想した。
サービスとは何か?
eパレットでの「サービス」とは、多種多様な見方ができる。
ハードウエアとして見れば、内部を改造することで、人や荷物を運ぶトラックや小型バスになったり、移動オフィスになったり、飲食を提供するキッチンカーになったりと、軽トラックやハイエースに近い使い方をイメージしている。
ここで、トヨタの狙いは大きく2つあると考えられる。
ひとつは、ハイエースのようにクルマそのものを売ることだ。ハイエースの場合、バンとして標準ルーフ、ミドルルーフ、ワイドボディなどがあり、またコミューターとしてスーパーロング・ハイルーフとハードウエアとして様々なバリエーションを持つ。
一方、eパレッドの場合、将来的には仕様違いが生まれる可能では否定できないが、基本的にはひとつのモデルで、様々なサービスモデル化をすることが想定されている。また、より多くの荷室や乗員スペースが必要な場合、例えば「電子連結」によって複数が「カルガモ走行」することが想定される。
こうしたハードウエアをいくらで売るのか?自動運転EVバスについては、フランスやアメリカのベンチャー企業が既に販売しているが、資本力と量産効果によって、トヨタが一気に世界シェアトップに躍り出る可能性は高い。まるで、ハイエースが各国で人気商用車であるように。
サービスプロバイダーという考え方
もうひとつ、トヨタがeパレットによる狙いが、トヨタ自身がサービスプロバイダーになることだ。プロバイダーとは供給者という意味だが、けっしてトヨタが自ら「eパレット バーガー」や「eパレット 宅配便」といったサービスを作り、そこから直接利益を得ようというのではなさそうだ。
その一例として、トヨタがソフトバンクと協業する、モネテクノロジーズという企業があり、全国各地の地方自治体と連携して、地域課題解決に向けて様々な事業者の間をつなぐ活動を広めている。そこで使用するクルマは、現在はeパレットではないが、近い将来ではeパレットによるサービスにまで発展する可能性は十分にある。
トヨタとしては、モネテクノロジーズでの活動を参考として、社会全体での移動を使った様々なサービスの基盤(プラットフォーム)を作ろうとしている。これについては、NTTとの協業でこれから、様々な実験を行うことも明らかにしている。
ハードウエアとしてeパレットそのものを売り、さらにeパレットを活用した公共的な移動、または各地のトヨタ販売店と連携した商用的な移動など、eパレットの可能性はかなり広範囲におよぶと思われる。
ウーブンシティで深堀り
そして、注目は富士山麓に2021年着工される、未来都市のウーブンシティだ。2020年のCESで、豊田章男社長がサプライズで発表し、日本でも大きく報道された。
ウーブンシティでは、eパレットを使った具体的なサービスが導入され、ウーブンシティの住民が実際に、そうしたサービスを使う。ウーブンシティの詳細について、トヨタの広報資料などでは2020年末の時点で未公開。
一方で、豊田社長は2021年3月期の第2四半期決算説明会(2020年11月6日)オンライン記者会見の質疑応答の中で、2021年2月23日に現地での鍬入れ式を行うことを明らかした。「223(ふ・じ・さん)」という発想だいう。
さらに、敷地内は1区画が、150mx150m。地上にはeパレットなどの自動運転車、歩行者、小型モビリティなど3つの進路に分類される。また、夜間の商用移動などを考慮した地下道もある。初期段階での住民数は360人。内訳として、高齢者、子育て世代、さらに発明家が住む。この発明家については、その発想の実用における成果によって、入れ替えを行うという。
こうしたeパレットを含むウーブンシティの具体的な議論は、豊田社長も参加して3週間に1度の割合で行われているというのだ。eパレットは、どのようなサービス形態での、未来のハイエースになるのだろうか?
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