三菱の経営 状況はさらに厳しく
text:Kenji Momota(桃田健史)
【画像】はかなく散った?「エボ」コンセプト 海外の頼みの綱「アウトランダー」【詳細】 全106枚
「やはり、無理だったか……。こりゃ、エボどころじゃない」
三菱自動車が先日(2020年7月27日)に開いた会見で、「これからの三菱」についてその実態が見えてきた。
まず、2020年度第1四半期の決算では、売上高が前年同期比57%減の2295億円。販売台数では53%減の13万9000台。純利益は1762億円の赤字だった。
背景にあるのは、もちろん、世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響だ。
仕向け別の販売台数を見ると、最も大きく落ち込んだのは、三菱自動車の屋台骨であるアセアン(東南アジア)で68%減、次いで北米が60%減、日本の52%減となった。
併せて公表された、2020年度の通期見通しも、極めて厳しい内容となった。
売上高は、前期比35%減の1兆4800億円。純利益は3600億円のマイナスと予測した。販売台数は25%減の84万5000台と見込む。
市場の回復については、最も回復は早いのは中国と見る。販売台数予測では、前期比でプラスマイナス0%とした。
アセアンも主力市場のタイでの感染が比較的早く収まっていることから19%減と予測。
一方、欧州が47%減、北米が34%減と当面厳しい情勢と予測し、日本は21%減と緩やかな回復を期待している。
そして今回、2020~2022年度の中期経営計画「スモール・バット・ビューティフル」を公表した。
これはどういう意味なのか?
大きな方向転換 その内容は多岐に
スモールだが、ビューティフル?
なんとも抽象的で、わかりにくい表現だ。
最終的にこうした表題としてまとめるまで、社内での意見調整にかなり時間を要したはずだ。
前の中期経営計画「ドライブ・フォー・グロース(筆者訳:成長への飛躍)」では、日本で露呈した軽自動車等の燃費不正問題からのV字回復を最重要視していた。
その中でも、事業の「選択と集中」が強調されてきたが、今回は「スモール」とはっきり明記した上で大ナタを振るった。
まずは、固定費の削減。
筆頭は、リストラだ。人員の適正化として、前期比で15%削減と明確に数値化した。固定費全体で20%減なので、その4分の3にあたる。
残り4分の1を、マーケティング費用抑制や、働き方改革と称してオフィススペースの削減。生産設備では、パジェロ製造の生産を停止する。
こうした「スモール化(事業規模と投資の大幅抑制)」の中で、ユーザーが最も気にするのは、新型モデル開発計画だろう。
この点については、「選択と集中」による全体費用の削減と、欧州向け新規商品投入の凍結という表現を使った。
その上で、具体的にどのようなモデルが生き残って、どれが凍結になるのか?
アセアンありきのモデル構成を徹底
新規モデルを考える原点は、当然ながら「どこで、どのようなユーザーに売るか」という出口戦略に置くべきだ。
その点では、「アセアンありき」を徹底する。
アセアン向けの商品は、南米、中近東、インドなどの南アジア、そしてアフリカとの市場共通性がある。
これまでも、そうした体制を敷いてきたことは、筆者自身がタイやフィリピンの現地で三菱自動車関係者に取材する中ではっきりとわかってきたつもりだ。
だが、今回の中期経営計画では、「アセアンありき」をさらに徹底し、結果的に他の地域を「見切る」までに至っている。
つまり、日本市場も見切る。
見切りの原点として、出口戦略であるディーラー網を大幅に再編する。本社直営ディーラーは不採算店舗の閉鎖と統廃合。
また、独立系ディーラーでは、有力ディーラーとのパートナーシップを強化するとし、結果的に全国の三菱ディーラーの店舗は一気に減少する可能性がある。
こうした販売店数が削減は、三菱自動車に限ったことではなく、トヨタをはじめとして飽和状態が長きに渡り続いてきたところであり、コロナ禍をきっかけとして、各メーカー系ディーラーの統廃合はこれから加速する可能性が高い。
販売する場所を絞ることと同時に、売り物も絞ることになる。
スーパーEV「エボ」はどうなる?
売り物に関して、商品戦略では大きく2つの考えを示した。
1つは、環境対応だ。
明確になったのは、2020年度に「エクリプスクロスPHEV」と次期「アウトランダー」を2021年度に市場導入する。ただし、アウトランダーはガソリン車が先行し、三菱の強みであるPHEVはなんと2022年度までズレ込むという。
EVについては、中国政府が政策として掲げる新エネルギー車規制への対応を最優先し、2021年に広州汽車との共同開発として中国市場向けEVを導入。
日本市場向けの軽EVは、日産が公開しているコンセプトモデル「IMk」の量産型を想定するも、導入時期は2023年度以降とかなり慎重な構えだ。
そして、もう1つの商品戦略が「アセアンありき」だ。
2022年度に、ピックアップトラックの「トライトン」。2023年度に、「エクスパンダ―ハイブリッド」、次期「エクスパンダ―」、次期「パジェロスポーツ」、さらに2台の新型SUV導入を目指す。
このように、「アセアンありき」を基盤として、電動車ではルノー日産三菱アライアンスの中で研究開発と購買のコストパフォーマンスを最適化する。
となれば、これまでモーターショーで話題となってきた、次世代「エボ」というイメージのクロスオーバーSUVは事実上、凍結されたとみるべきだろう。
前述の固定費削減では、新規採用抑制と希望退職制度、また報酬制度の見直しが明記されている。
次世代エボなど、新たなる三菱スーパーモデルに夢を抱いてきたエンジニアたちが、これを機に三菱を後にしないことを願いたい。
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みんなのコメント
してみてもヤリスには敵わないか...
レンタカーと使い捨ての営業車止まり。
ミラージュのラリー向け開発モデルが公表された頃とは世界が大きく変わってしまいました。