その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島崎七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第50回は前回に続き「スバルインプレッサ」「スバルクロストレック」のデザインをまとめ上げたSUBARU 商品企画本部 デザイン部 主査の井上 恭嗣(いのうえ・きょうじ)さんに、今後のスバルデザインについてお話を伺いました。
アメリカの人たちにもいいと思えるものを作りましょう
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島崎:今回のインプレッサ、クロストレックは我々が見させていただいているアウトプットとしては最新だと思いますが、今後のスバルのデザインはどこに向かっていくのでしょうか?例えば2018年のジュネーブショーで最初に出たVIZIVツアラーコンセプトなどありましたね。
井上さん:ありました、綺麗な整ったクルマでした。
島崎:あのクルマはもう前の世代ということに?
井上さん:特に世代分けはしていないですが、あの頃はクルマ造りもデザインもヨーロッパ指向でした。その後アメリカの指向を研究するようになり、アメリカの人たちにもいいと思えるものを作りましょうということにあらゆる部分がなってきたので、その差はあると思います。
島崎:アメリカとヨーロッパでは嗜好性の違いは当然あるでしょうね。今のアメリカの嗜好とは?
井上さん:基本的に強さが必要です。私はアメリカに駐在員として行き、そのあたりを研究していたのですが、弱々しいもの、整い過ぎているものは基本的に好まれない。ツルンとしているより堂々としている、動物でいうと肉食系。
島崎:食われる側ではなく食う側だと。
井上さん:日本人から見るとアメリカ車はオーバーデコレートな感じがする。あれは装飾の意味もありますが、強く見せている意味があります。
島崎:アメリカ車の強く見せる意味は、やはり社会環境だとか、地平線しか見えない大自然の中でそれと対峙するときの安心感だとか、そういうことになるのでしょうか?
井上さん:そうですね。ツアラーコンセプトのときにはまだそこを意識していなかったので、アメリカ人もキレイなクルマだね、とは言ってくれたとは思いますが……。
スバルのお客様にとって揃っていることは嬉しいことじゃない
初代レヴォーグ(上)と2代目レヴォーグ(下)
島崎:なるほどね。一方でスバルのデザインでは変化感、進化感というのは、どう捉えていらっしゃいますか?例えばレヴォーグの2代目が出たときに、パッと見て初代からの変化の度合いをもっと大きくしても良かったのに……とも思ったのですが。
井上さん:あ、そうなんですね。そういうことは、今、デザインの戦略として反映しています。そういう反省を社内でしています。別に悪い話ではなく、ブランドの認知力を上げるといったときに商品の見た目が揃っていたほうがブランド力は高いと考えている時代があり、実際に揃えてきました。そこから次のステップに行こうと考えたときに、実はどうやらスバルのお客様は揃っていることは嬉しいことじゃないんではないかと……。
島崎:ほう、そうなんですか。
井上さん:例えばヨーロッパのプレミアムブランドは基本的にデザインが揃っている。要は信頼の置けるブランドだというシンボル、記号性が欲しい。一方でスバルの場合は、お客様が「私にあったスバルはこれだ」という選び方をしていて、そのことが揃っていること自体の価値以上になっているんです。
島崎:それは日本の話ですか?アメリカの話ですか?
井上さん:両方です。ということでホームページでも謳っていますようにボールダー戦略といって、商品ごと、あるいは新旧で、もっと変えたほうがいいよね、という動きにはなっています。そこで新型クロストレックでも六角形グリルも、キチンとした六角形から少しギザギザとさせています。
島崎:ああ、グリルの輪郭よりも内側のパターンを引き立たせていますよね。
井上さん:ええ、この後出るクルマたちは、もっと変えていくことになるはずです。
デザイン性の高さでヒョンデEVのレベルまでいかないと負けてしまう
ジウジアーロがデザインを主導したスバルアルシオーネSVX(1991年)
島崎:揃っていることを良しとする訳ではない、と。まあこの機会に部外者の勝手な戯言としてお聞きいただけば、もっとドラスティックに変えてもらってもいいくらいに思っています。そのサジ加減は難しいのでしょうけれど。
井上さん:プレミアムブランドとスバルはちょっと違いますが、アメリカ市場でいうと韓国ブランドのクルマはデザインに凄く一生懸命でアメリカの人たちの目を惹いている。そういうことも見ながら、今の世の中に相応しい、時代感のあるデザインにしていかないといけないよね、と研究しています。
斬新なデザインのヒョンデIONIQ 5
島崎:ヒョンデのEVが象徴的ですが、振り切ってますよね。
井上さん:もちろん真似をするということではなくて、デザイン性の高さであのレベルまでいかないと負けてしまうという危機感は持っています。
島崎:例えば井上さんなどスバルのデザイナーの方が目利き役になって、過去に例があったようにジウジアーロにアイデアを創出してもらい、新風を吹き込んでみるとか、どうなのでしょう?
井上さん:うーん、お客様とマーケットによると思います。カッコいいとかそうでないとかではなく、それを求めているお客様がいるのならそういう風に作ります。現にアメリカでももっとシンプルなSUVがありますし、そういう方向性もあるかなと思います。
グリルが必ずしも六角形でなくてもスバルに見えていればぜんぜん問題ない
島崎:話があちこちしますが、象徴のひとつである六角形グリルは、今後、変わっていくのですか?
井上さん:……かもしれないですね。今考えているデザインに、これをつけなきゃいけない、守らなければいけないということはないんです。どうやったら新しく見えつつスバルに見えるか。グリルが必ずしも六角形でなくてもスバルに見えていればぜんぜん問題ない。じゃあどうするの?というところをデザイナー達が一生懸命考えています。クルマによっては六角形が付いていないかもしれないし、ランプがコの字じゃないかもしれないし。
島崎:そうですか。
井上さん:このクロストレックやインプレッサよりも、もっといろいろなデザインが出てくると思っていていただければ。
島崎:おっ、それは楽しみですね。
井上さん:クロストレックもインプレッサもコンパクトでベーシックなクルマですから、それだけ喜ばれる方が多いクルマです。そういうプロジェクトに今回携われたのはすごく楽しかったです。ある意味で制限が多い中でどれだけ楽しませられるか、どこまでできるかのチャレンジは楽しいです。
カジュアルだけれど信頼できる製品だよね、精度いいよね
島崎:試乗して、クロストレックでいうと、初代のチャーミングさはそのままに、乗り味もインテリアの仕上げも、グンとクオリティが上がったなと、進化を実感しました。
井上さん:ありがとうございます。
島崎:インテリアはやはり今風を意識しているのですか?
井上さん:いや、今風というよりスバル流だと思います。世の中的にはもっとシンプルで高級なものが主流だと思います。ただ今回のクロストレック/インプレッサはもっとカジュアルなものを作りたかった。縦型のディスプレイはスバルの上級車種から採用されていて、ちょっとお高いのですがクロストレック/インプレッサにも奢りましたが、これはデザインというよりも会社の判断でした。その意味ではお得だと思います。
島崎:いいもの感がありますね。
井上さん:それとクオリティを言っていただいてすごく嬉しいのですが、今までは特に内装は高級感、高価格感が品質といわれてきましたが、カジュアルだけれど信頼できる製品だよね、精度いいよねと感じられる時代になってきた。いわゆるメッキパーツもごく少なくしていますし、高級な“巻き物”といいますが、いわゆる布や革を貼ったところも少なくなっています。従来はそういうところのことを品質といわれていましたが、そうじゃないところでクオリティを感じていただけるのは嬉しいです。
島崎:今まではシンプルでプレーンな道具だから……と理解しながら、ドアトリムをノックするとコンコンと音がしても頭で割りきりが必要だった。でも今度のクルマはクロストレックもインプレッサも、走りの質感も高くて、インテリアの仕上がりもそれに見合っていると感じます。
井上さん:飾りじゃなくて実のあるところに集中しました。今までの高級感競争とは一線を画したところというか。
何か迷ったときには思い切ったものを選ぶ
島崎:インテリアのアンビエントライトなどは入っているのですか?
井上さん:そういうものがディーラーオプションで、お好みでお選びいただけるはずです。
島崎:そうですか。お仕着せの標準ではなく個人の好みで選択可能なのはいいですね。ところでこの2車は前・デザイン部長の石井さんが見ていらっしゃったのですか?
井上さん:はい、石井と一緒に作り上げた最後のクルマでした。で、思い出したのですが、石井とやっていて“何か迷ったときには思い切ったものを選びましょう”とやっていました。
島崎:では現・デザイン部長の板野さんとも、市場があって、狙いがあって、それに合致させた中で、どしどし思い切ったデザインを作り出していただけることを楽しみにしています。うわっ、46分52秒も長々とお付き合いさせてしまいすみませんでした。どうもありがとうございました。
(写真:SUBARU、島崎七生人)
※記事の内容は2023年4月時点の情報で制作しています。
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みんなのコメント
プレス技術の問題もあるのか、カクカクして洗練されていないのは相変わらず。
SUVのクロストレックとコンパクトハッチバックのインプレッサを同一ボディにしたままなのも無理が出てきた。