日本の自動車メーカーはEVへの対応が遅れている、という評価を海外発の報道で目にすることが多い。それと同じ傾向に見られているのが、自動運転への取り組みだ。
そもそも自動車メーカーは自動運転というシステムを実現するのは、ずっと先のことだと予測していた。それをGoogleが突如、自動運転車を開発するプロジェクトをブチ上げ、自動車業界への参入を表明してから、様相は一変した。そこからの自動車メーカーとIT企業、自動運転ベンチャーの開発競争はご存じだろう。
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今や量産車の多くがACC(先行車追従型クルーズコントロール)とLKS(車線逸脱防止支援システム)を組み合わせることで、SAE(米国自動車技術会)が制定したレベル1の高度運転支援システムとして、ドライバーの運転をアシストしてくれるようになった。
ホンダが世界初のレベル3自動運転を実現しているが、100台だけのリース販売と非常に限定的だ。中国や米国ではレベル4の公道実験がバンバン行なわれているのに対し、日本では東京の湾岸地域で実証実験を行っている程度。
このままでは世界から取り残されてしまうのでは、と不安を感じている人も少なくないだろう。そこで各メーカーの技術レベルと自動運転に対する姿勢をここで解説しておきたい。
文/高根英幸、写真/トヨタ自動車
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■トヨタは「運転者が主体」 日産&ホンダは?
まずは世界最大級の自動車メーカー、トヨタの姿勢だ。トヨタはテストコースで相当作り込んでおり、レクサス LSとトヨタ MIRAIにアドバンスド・ドライブというレベル2の高度運転支援システムを搭載し実用化している。
LEXUS LS/TOYOTA MIRAI アドバンスド・ドライブというレベル2の高度運転支援システムを搭載し実用化している
これはセンシングのデバイスやシステムの冗長性(故障した時の予備システム)確保などを見るとレベル3相当のハードを完成させているが、現時点ではあくまでもドライバーが運転の主体でレベル2として利用している。社内ではソフトウェアだけでレベル3にアップデートさせるか、意見が分かれてまとまっていないようだ。
実際に走らせた印象としては、ハンズオフ時の動きのスムーズさや車線中央を維持する繊細な制御はもとより、合流時の流入車両の検知も早く、LiDAR(赤外線レーザースキャナ)の威力を感じさせる。だが、それでも分岐地点での進路決定や、他車が合流してくる時の加減速の判断で微妙な時はある。
このあたりはトヨタがこのシステムにチームメイトというサブネームを与えており、ドライバーと協力して走らせる、周囲の車両と協調して走るという意味合いを込めていることからも、ドライバーは積極的に運転に参加してほしい(つまりレベル2ということになる)という姿勢だ。
トヨタチームメイト アドバンストドライブ(制御走行中:条件が整いステアリングから手を放して走行できる状態)
日産はTVCFなどを見ても分かるようにEV同様、自動運転分野に関しても先駆者としての立場をアピールしたい姿勢が感じられる。ハンズオフを実現したプロパイロット2.0は、コストの問題からスカイラインクラスの高級車以上に搭載が限られるようだ。
そのため幅広い車種にプロパイロット1.0 ナビリンク機能付きを搭載してコストとの両立を図っていくようだ。これは高精細地図とは異なり、ややアバウトな制御(走行車線などを区別していないのでアンダーステア傾向に仕立てている)なので自動運転として見れば制御レベルは高くない。
それでも、コーナーで減速するようになり左右(操舵系)の制御と前後(加減速)の制御を協調しているので、レベル2の高度運転支援システムを実現していると言えるようになった。ドライバーはシステム作動中もキチンと監視して必要に応じて操舵などで介入する必要があるとしても、現時点でコスパは良いシステムと言えるだろう。
ホンダは前述のレベル3を実現したレジェンドで一旦やり切った感がある。これからホンダセンシング360で、これまでの開発コストを回収する計画なのだろう。
ちなみにホンダに限らず自動運転技術の開発はサプライヤーがかなり入り込んで共同開発しているが、ホンダセンシングエリートの開発に途中から加わったエンジニアによれば、このシステムに関しては社内で制御プログラムのコードを書いていたと言うから、内製率はかなり高いようだ。
■独創性を感じさせるスバルのアイサイトXとマツダのコ・パイロット
スバルのアイサイトXは、非常に完成度の高い高度運転支援システムだ。アイサイトで衝突被害軽減ブレーキの先鞭をつけたパイオニアは、自動運転に関しても実用レベルではトップクラスの実力を誇っている。北米市場で絶好調なのは、4WDシステムやSUVの作りの良さだけではない。日本より淡々と巡航するシーンが多い地域では、こうした高度運転支援システムの恩恵も少なくない。
ただ、4基もレーダーを搭載するのであれば、ステレオカメラは必要ないのでは、という印象もある。ステレオカメラがアイサイト(すなわちスバル独自の)のアイデンティティというのは、メーカー側の思い込みでユーザーは機能があればいいのだから、システムをもっとシンプルにしてコストダウンを図ることも考えるべきだろう。
マツダのスタンスは独特だ。あくまで運転の主体はドライバーで、体調急変時にはサポートするコ・パイロットとして2022年に登場するFRプラットフォームのラージ商品群から搭載する予定だ。
ただし、そのコ・パイロット、ドライバーの体調急変や居眠り運転が起こったと判断すれば、高速道路上では路肩や非常停止帯まで走行してから停車。一般道でもその車線上であるが、停止してヘルプネットから救急車などを呼んでくれるから、昨今の高齢ドライバーの体調急変による事故には非常に効果があるハズだ。
トヨタのアドバンスド・ドライブやホンダ・センシングエリート、スバル・アイサイトXにもドライバー異常時対応システムは装備されているが、これらは高度運転支援システムを作動させている状態でのみ機能するものだ。
ドライバーモニターカメラ
コ・パイロットは他の高度運転支援システムと異なり、ドライバーが任意で設定するモノではなく、バックグラウンドで常に作動してドライバーを見守っているのは、実はかなり高度なシステムと言える。あくまで緊急事態に対応するシステムではあるが、その制御の技術レベルとしてはレベル3相当に達していると思われる。
軽自動車を主体とするスズキ、ダイハツもACCやLKSを搭載する車種は充実している。これは価格や車格を考えれば、欧米やその他のアジア市場では信じられないことだろう。
■クルマにとって一番大切なのは「安全性」
そうした日本メーカーに対し、対照的なメーカーとしてテスラの姿勢を紹介しておこう。テスラはEVメーカーとしては最大級に成長したものの、自動運転に関してはベンチャーらしく開発中のβ版をユーザーに試させて熟成させというる過激ぶりだ。先進性を訴えているが、実際の技術レベルは、量産車としては高くない(=事故が多い)。
最先端の自動運転を利用できると手放しで喜び、その利用ぶりをSNSでアピールするユーザーもいるようだが、そんなユーザーばかりではないのは、日本市場だけではない。
クルマにとって一番大事なのは何であろうか。快適性や利便性ではない、やはり安全性なのである。信頼性の高いシステムをユーザーに使ってもらうことがメーカーの使命であって、ユーザーをモルモットにするのはモラルに反するだけでなく、企業精神に反するのだ。
このあたりはベンチャーと責任ある自動車メーカーとの違い、と言い表すこともできる。この先、テスラが自動車メーカーとして成長することになれば、徐々に自動車メーカーとしての姿勢を整えていくことになるだろう。
事実、中国市場でのリコールによりテスラは巨額の損失を余儀なくされる模様だ。今後、販売台数が増えれば深刻な欠陥は存続危機に直結することから、より信頼性を高めていくことになるのは自然な流れだろう。
もし経営破綻して、その後のメンテナンスや部品供給に支障が起きれば、ユーザーは多大な損失を受けることになる(下取り価格もダダ下がりになる)。そんなことがないようにするのも自動車メーカーの責任でもあるのだ。
TESLA
自動運転はチャレンジングな技術分野だ。ユーザーの利便性を高めることは、販売台数に直結するから自動車メーカーとしては開発し搭載しなければならないが、行き過ぎた装備は逆に信頼性を失うリスクもある。実際、日本の自動車メーカーの高度運転支援システムでさえ、誤作動や作動せずといったケースもゼロではないのだ。
それでも日本の自動車メーカーの真摯な姿勢が、これまで欧米市場やアジアの自動車市場で支持されてきたのは間違いない。自動運転や電動化も大事だが、何より安心して乗れることがクルマという商品には重要。このあたりのバランスをキチンと取れているのが日本や欧米の自動車メーカーなのだ。
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